日本代表も苦戦、求められる“クロス対策” W杯で顕著に…独指導者が分析した課題「起こってしまう」

日本代表はW杯でブラジルに敗戦した【写真:徳原隆元】
日本代表はW杯でブラジルに敗戦した【写真:徳原隆元】

ドイツU15監督とアシスタントコーチが分析

 ワールドカップで生まれた得点を分析すると、多くのゴールが特定のエリアからのクロスによって生まれていた。ドイツサッカー協会(DFB)のテクニカルチームが国際コーチカンファレンスで紹介した大会分析によれば、特に目立ったのが次の2つのエリアである。ドイツU15監督マルク=パトリック・マイスターとU15アシスタントコーチのクリストフ・ツィンマーマンは、その点について次のように説明していた。

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「一つはタッチライン際の深い位置。そしてもう一つが、ペナルティエリア脇のアシストゾーンです。この2つのエリアからの配球によって、全ゴールのおよそ4分の1が準備されていました

 興味深いのは、クロスの本数自体が過去の大会と比べて増えたわけではないことです。1試合あたりのクロス数は、むしろ以前より少なくなっているんです。それでも、クロスから得点につながる成功率は約50%も向上していました」

 では、なぜクロスからこれほど効率よくゴールが生まれるようになったのだろうか?

 導き出された答えは非常にシンプルなものだった。タイミングのいいクロスを入れていた点、クロスを得点につなげる狙いが良かった点、ボックス守備でクロス対策をしきれなかった点。

 今大会の日本代表を見れば、攻撃面ではクロスを効果的に利用できていたことは、ポジティブな材料として捉えられる。サイドを起点に深い位置まで侵入したり、うまく相手を動かしてずれを作ったり、相手守備を動かしたうえでボックスへボールを送り込むプレーが効果的だった。クロスを単なる放り込みではなく、ゴールへの一つの武器として使えていたといえるだろう。

 今後さらに求められるのは、そのバリエーションを整理しながら、それぞれの質をどう高めるかである。相手の守備状況を見ながら、最適な種類を選択する。個人の守備能力だけではなく、チームとしての共通理解が問われる部分である。

 今大会ではクロスにもいくつかの明確な特徴が見られ、DFBは5つのパターンに分けて分析を行った。

 一つ目は、アーリークロス。最終ラインが完全に下がり切る前に、早いタイミングでボールを入れる。狙いはGKとDFの間であり、守備ラインが下がっている途中のスペースを突く。攻撃側には、ボールが入る瞬間に強い意志を持って飛び込むことが求められる。

 二つ目は、相手を抜き切った後にゴール前へ送り込む、低く速いグラウンダーのクロス。このボールは守備側にとって非常に対応が難しい。深く構えた相手を攻略するうえでも有効な手段となる。

 三つ目は、今大会でも特に多く見られたカットバック。ゴールライン近くまで侵入し、中央へマイナス方向のボールを送り込む。優勝したスペインもこの形から多くのゴールを挙げていた。

 ここで重要なのは、ゴールへ直接向かうことだけが目的ではないという点。より良い角度にいる味方、よりフリーな選手を使うことで、守備者の視線をボールに集中させ、その背後にいる選手へボールを届ける。ボックス内で守備側が最も嫌がる状況を作り出すのである。

 四つ目はカットインクロス。利き足を内側にしてボールを巻き込むことで、ゴール方向へ向かう軌道を作る。ストライカーは相手DFの背後へ入り込み、GKにとっても判断の難しいボールとなる。今大会でも、この形から多くの得点が生まれていた。

 そして五つ目が、ハーフスペースからのクロス。ハーフスペースで一度味方にボールを戻し、そこからワンタッチ、あるいはツータッチ目でクロスを送る。一度ボールを戻すことで守備側がラインコントロールで動く。特にファーポスト際に流れたり、走りこむ動きとセットで効果的な攻撃へ繋げていた。ブラジル戦で日本が喫した失点は、まさにこのパターンからだった。

マイスター「現代のクロスは『サイドからボックスにボールを入れる』という単純なプレーではないんです。どこから、いつ、どの高さ、どの速度で入れるのか。そして、そのボールに対して味方がどのタイミングで侵入するのか。クロスとボックス内への侵入をセットで考える必要があります。

 一方、守備側にも同じように準備が求められます。現代サッカーにおいて、相手のクロスをすべて防ぐことは現実的ではないと思います。なので重要なのは、クロスを許したとしても、そこから危険なシュートを打たせないこと。つまり、ゴール期待値の高いシュートをできるだけ減らすことになります」

 そのためには、二段階の守備が必要になる。第一は、サイドでクロスそのものを阻止することだ。コースに素早く入ってブロックか、後ろへ下げさせる。そして下げたボールから素早くクロスがくることを予想して、ボックス内で守備準備ができていなければならない。

 重要になるのが、明確な役割分担。ボールが移った瞬間、誰がニアを守るのか、誰が中央を担当するのか、誰がファーポストを見るのか、誰がセカンドボールに備えるのかがオートマティックに共有されていなければならない。

 ボックス守備で重要なのは、まず相手より良いポジションを取ること。ゴール側を確保し、相手より先にボールへ触れることができる位置を取る。次に、身体で相手を感じることである。ボールだけを見ていると、背後から動き出す相手を見失ってしまう。「ボールを見る、相手を感じる」。この両方が必要になる。

 そしてプレーが一度途切れるまで守り切ることが重要だ。一度クロスを跳ね返したから終わりではない。セカンドボールがある。ファーポストへの折り返しもある。シュートのこぼれ球もある。それを予測しておかないと、急に体も頭も反応できない。

ツィンマーマン「頭ではみんなわかっていることだと思います。でも、何人もの守備者が同じ相手やボールを見てしまい、結果的に危険な選手に対して誰も責任を持てない状況が生まれるというシーンが、W杯のような大舞台でも起こってしまう。そのくらい難しいプレーではあります」

 優勝したスペインはまさにこの辺りのクオリティも抜けていた。今後日本代表として、より鉄壁の守備を築くうえでとても重要なテーマになるだろう。ほぼ守り切れるだけの守備組織はあった。相手の個の力でどうしようもない失点だってある。ただ、準備とポジショニングを整理することで防げた失点もあったはず。

 DFBのW杯分析が示していたのは、クロスという一つのプレーを切り取ったデータではない。そこには、攻撃と守備の両方をトレーニングの中でつなげて考える必要性が表れている。日本代表にとっても、クロスを武器としてさらに磨きながら、同時に相手の武器としてどう封じるのか。その両面から準備していくことが、次のワールドカップに向けた重要なテーマの一つになるはずである。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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