柿谷曜一朗が発掘の原石たち「負けろ、と言いたい」 バルサと対戦…引退後に注ぐ情熱「きっかけに」

柿谷曜一朗“監督”がインタビューに応じた
今、追うのは未来——。かつて「ジーニアス」と称され、圧倒的な閃きと技術で日本サッカー界を魅了してきた元日本代表FW柿谷曜一朗氏。昨年に現役を引退し、セカンドキャリアで惜しみない情熱を注ぎ込むのが「Yoichiro Dream Project」だ。子供たちへ「挑戦のきっかけ」を生み出す国際プロジェクトを立ち上げ。8月21日に千葉県で開幕したプロへの“登竜門”U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジにも出場する。柿谷氏が日本の未来を担う子どもたちに託す思い、プロジェクトの真意について語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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「そもそも、サッカー選手を育てたいとか、上達させたいとか、そういうことよりも一番の根本は『外に連れ出したい』というのがあった。自分が今いるところがどれだけ狭いところかを、子どもたちに感じてほしいというのが最初だった」
プロジェクト立ち上げの原点。引退後に始動させた「Yoichiro Dream Project」では全国の小学生を対象にセレクションを開催し、大会などを通して経験を積ませる。柿谷氏自身は監督を務めるが、「きっかけ」を与えることだ。自分の枠を飛び出し、世界の広さと厳しさを知る。井の中の蛙として満足してしまう“怖さ”を誰よりも知っていた。
「枠内で、自分のできる範囲でしかやらないとか、認められてるところでしかやらないとか、僕自身がそうやってやってきたから。僕自身、それが嫌だった。だから『負けろ』と言いたい。自分より上の選手、負ける相手を探してほしい。『この場ですごく満足しちゃっているな』『この子、今ここで自分よりもっとすごい選手に出会ったらもっと伸びるな』という子を見つけたくて始めた」
例えば、タイなどの異国で国際交流するために選手を選抜。海外へ連れ出して、あえて、日本での快適で恵まれた環境から引き離す。サッカーだけじゃない。試合をこなしながら、言葉も通じず文化も異なる不自由さを経験させる。
「子どもたちに『不便』を知ってほしい。日本がどれだけ便利で恵まれているかをわかってもらいたい。日本やと、親が全部やってくれて何不自由なくサッカーができる。タイでも、保護者の人にはなるべくサポートしないように伝えている」
選抜チームの監督を務めるが指導者ではない。各チームから選手を「預かっている」立場。技術を伝えるためだけではない、柿谷氏が伝授するのはチャンスを掴みに行く力だ。
「俺は子どもに偉そうなことを言える立場じゃない。でも、プロとして『やってきた人間』。やったらあかんこと、後悔することは身をもって知っている。僕自身、人生の中で『この人に出会ったから自分は変われた』と思える人がいっぱいおる。僕が(自分自身の)名前や立場を使うことで、ちょっとでもくすぶってる子、もったいない子のきっかけになれればいい。僕『どうしたらいいか考えてみ』という言葉がけはダメやと思っている。『考える』から。考えさせるとはそういうことじゃないと思っていて、子どもたちにわかりにくい言葉をあえて使うことで『どういうことやろ』と思わせている」
ジーニアスを呼ばれた経験があるから。全国の子どもたちを見つめる際に柿谷氏が何よりも鋭い眼差しを注ぐ「唯一のポイント」がある。目立つテクニックの華やかさでも、足の速さでもない。
「プレーが終わった後、こっちを見ない子。プレーが切れた後に、失敗して悔しがった後にすぐ次のボールへ走り出す子。プレーが終わった後に大人やコーチの顔色を伺うような子は基本的には選ばない。どんなプレーをしていても素直に喜んだり素直に悔しがったりして、ボールだけに夢中になれているかどうか。それしか見てへん。だって誰のためにサッカーやっている? ひたすらサッカーに向き合ってほしい」
プロジェクトを通じて出会った子どもたちはすでに数百人に上る。その中には「こいつは絶対に上に行く」と確信を深めた原石が、すでに「5人はいる」という。もう1つ描く強い野望がある。家庭環境や経済的な理由で、世界への挑戦を諦めざるを得ない子どもたちを救い出すことだ。
「地方の子とか、例えばひとり親で遠征費を出すのが難しいご家庭もある。悔しさをバネにして大きくなっていく子もいるけど、僕自身がこのプロジェクトをもっと大きくして、資金的にも全額サポートしてあげられる仕組みを作りたい。才能があるのに光が当たらない子を、世界に見つけさせたい。そのために僕自身がもっとメディアに出て目立って、協力してくれる仲間を増やさないとあかんな、と思っている」
21日に開幕したU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジでは、グループステージで世界の名門・FCバルセロナと対戦する。「Yoichiro Dream Project」チームは国内で選抜された20人が集合。元日本代表の山田直輝氏や太田宏介氏らをコーチに迎え、事前合宿から大会を戦い抜く。
「もちろん勝ちに行く。でも『負ける』こと『本物を知ること』も同じぐらい大事。それを小学生の今、知ること。結局、いま世界のトップにいるのはバルサみたいなところで育った選手たち。自分に何が足りないのかを、知ることができる経験なんて他にない。ボロ負けして手も足も出なくて、それで『面白くない』ってサッカーを辞めるなら辞めたらいいと思う。でも、そこで打ちのめされて『悔しい』と思える子は絶対に強くなるから」
自身は「天才」と呼ばれきた。幼少期から注目も浴びた。だからこそ、誰よりももがいて、もがいてキャリアを歩んできた。怪我にも苦しんだ、挫折も経験した。そのすべてを未来への“パス”へと変えようとしている。世界の高さを知り、己の弱さと向き合い、泥臭く這い上がる力を身につけた子どもたちが、いつか満員のスタジアムで輝くその日まで——。柿谷曜一朗はこれからも熱い眼差しで、未来のヒーローたちの背中を押し続ける。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)




















