J1初挑戦→初ゴールも「情けない」 身長165cmの苦労人が挑む“夢の舞台”「まだまだ力不足」

J1リーグ初ゴールを決めた水戸MF鳥海芳樹
今シーズンからクラブ史上で初めてJ1リーグを戦う水戸ホーリーホックが、複雑な思いとともにアニバーサリーを刻んだ。水戸信用金庫スタジアムにガンバ大阪を迎えた15日のホーム開幕戦で前半18分に先制しながらも、後半29分に追いつかれて1-1でドロー。昨年末にJ2のヴァンフォーレ甲府から移籍加入し、28歳にしてJ1リーグ初ゴールを決めた鳥海芳樹は、勝ち点3を手にできなかった結果に笑顔を封印した。(取材・文=藤江直人)
クラブの歴史に残るアニバーサリーで画竜点睛を欠いた。ただただそれだけが悔しかった。
1994年に前身のチームが創設された水戸が茨城県リーグ4部から戦いをスタートさせ、J2リーグへの連続最長在籍記録となる26年もの時間を要して悲願のJ1昇格を勝ち取ったのが昨シーズン。秋春制への移行に伴うJ1百年構想リーグを経て、15日のJ1リーグ第2節でいよいよホーム開幕戦を迎えた。
2026-27シーズンからホームとして使用する、茨城県那珂市の水戸信用金庫スタジアムで対峙したのは2度のリーグ優勝を誇るG大阪。クラブの歴代最多記録を更新する1万3226人のファン・サポーターで埋まったスタンドが、水戸が決めたJ1リーグ初ゴールで先制した前半18分には耳をつんざくほどの大歓声で揺れた。
しかし、勝ち点3は手にできなかった。正確に言えば後半に追いつかれそのまま引き分け、開幕2戦目にしてJ1リーグで初めて勝ち点を手にした。それでも、先制ゴールを決めた鳥海に笑顔はなかった。
「うーん……僕自身は勝ち点1がうれしいとか、そういった思いはまったくないので」
百年構想リーグを前にJ2の甲府から移籍加入。憧れ続けてきたJ1リーグの舞台へプロ6年目にして初めて挑み、2戦目で初ゴールを決めて歴史に名を刻んだ28歳が表情や口調を変えずに続ける。
「新しいスタジアムでいろいろな方が準備をしてくれて、素晴らしい雰囲気を作ってくれた。ホーム開幕戦で点を取れたのは素直にうれしいけど、勝ってみんなで喜び合いたかった。そこだけが本当に悔いに残っています」
地道に積み重ねてきた日々のトレーニングが、そのまま反映されたゴールだった。
水戸のキーパー西川幸之介が放ったロングフィードが、敵陣のペナルティーエリアの右側へ転がっていく。G大阪のキャプテン、DF中谷進之介が追いつきそうな状況で、右サイドハーフの鳥海が猛然と詰める。
中谷は18歳の守護神、荒木琉偉へのバックパスを選択。ボールは荒木を介して逆サイドのDF池谷銀姿郎へ。来春の筑波大学卒業を待たずしてプロ入りした22歳は、迷わずに前方へのグラウンダーのパスを選択した。
実はこの時点ですでに水戸の術中にはまっていた。池谷のパスがずれたエリアへ、水戸の左サイドハーフ谷口海斗がガンバの選手よりも早く反応してきた。十八番のハイプレスが発動された瞬間だった。
「ハイプレスはチームとして意識していたので、そこで奪って、素早く仕留められた。本当にチームの形がひとつ出たのかな、と。自分たちのフォーメーションで、自分たちのサッカーを出せたと思っています」
柏レイソルに前半のうちに2ゴールを奪われ、後半に内野航太郎のPKで一矢を報いるのが精いっぱいだった8日の開幕戦は、相手のフォーメーションに合わせて<3-4-2-1>のミラーゲームで挑んだ。
一転してG大阪戦は本来の<4-4-2>へ原点回帰。武器にすえるハイプレスも復活させた。
「ボールを奪った後は前を見よう、と。チームのなかでそう言っているので、奪えそうだな、と思えたときには、チームンのみんながゴールに直結するポジションにいる。そこはすごく意識している点だと思います」
チーム内の約束ごとを明かした鳥海は谷口がボールを奪うと確信して、中谷へハイプレスをかけた後もG大阪ゴール前に残っていた。そして、以心伝心でスルーパスを呼び込んだ直後の流れをこう振り返った。
「相手ディフェンダーが来ているのが見えたなかで、ファーストタッチでいいところに置けたのが大きかった。練習でもけっこう同じような形で点を取っていたので、本当に練習の成果を出せた、という感じです」
右足の正確なトラップから、流れるように利き足とは逆の左足を鳥海が振り抜く。中谷が必死に仕掛けてきたスライディングタックルも、ほんのわずかに届かない。ゴールの右隅へ、鮮やかな一撃が突き刺さった。
もっとも、ゴールの直前に至近距離からの強烈な一撃を荒木に止められていた鳥海は自らを責めた。
「本当にあれも決めなくちゃいけないシーンだったし、そういうところが勝ち点3につながらなかったすべてだと思うので。ゴールは決めましたけど、もっともっと自分のプレーを磨いていかなきゃいけない」
コンディションに不安を覚えたために、チームに迷惑をかけてはいけないとハーフタイムに加藤千尋と交代。左コーナーキックを中谷に頭で押し込まれた後半29分の失点を、ベンチで見ていた不甲斐なさも募らせた。
「百年構想リーグと比べて、本気のJ1クラブというのを体感している。常連のガンバをはじめとする強いチームはああやって厳しい試合でも勝ち点を積み重ねてくる。僕たちはまだまだ力不足だと感じています」
常に自らへベクトルを向ける姿勢が樹森大介監督に評価されて、新シーズンからは4人を数える副キャプテンにも名を連ねる。妥協を許さないアタッカーは、百年構想リーグ地域リーグラウンドEASTで9位にあえぎ、プレーオフラウンドでもV・ファーレン長崎に2戦2敗の18位で終えた水戸の現在地へ厳しい視線を向ける。
「いい試合をしたとか、勝てたとかと言うのは、サッカー選手として本当に情けないと思っているので」
プロサッカー選手になる夢を半ばあきらめかけていた、桐蔭横浜大学4年次の12月にようやく甲府入りが決まって涙した。4年目の2024シーズンから「10番」を託されながらも甲府をJ1の舞台へ導けず、同世代の選手たちがJ1で躍動するなかで水戸から望外のオファーをもらい、J1への個人昇格を決めたときにも涙した。
身長165cm・体重62kgの体に熱き魂をほとばしらせる小さなダイナモ。勝利のために何ができるのか。フォア・ザ・チームを常に最優先させながら、鳥海は未知の世界となるJ1へ真正面から挑み続けていく。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















