鹿島生え抜きが決断した“覚悟の移籍” 新天地で即結果…開幕戦で見せた進化「気がついたらあそこに」

鹿島から東京Vにレンタル移籍した溝口修平【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
鹿島から東京Vにレンタル移籍した溝口修平【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

鹿島から東京Vにレンタル移籍したDF溝口修平

 今夏に王者・鹿島アントラーズから期限付き移籍で東京ヴェルディに加わった22歳の溝口修平が、新天地でのデビュー戦で鮮烈な爪痕を残した。ホームの味の素スタジアムに川崎フロンターレを迎えた8月9日の今シーズン開幕戦の後半1分に、公式戦出場37試合目にして待望の初ゴールをゲット。ポジションを左サイドバックから左ウイングバックに変え、攻撃力にも磨きをかけながら貪欲に「成長」の二文字を追いかけている。(取材・文=藤江直人)

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 選択権は自分にも与えられていた。王者・鹿島アントラーズで安西幸輝が厚い壁を築く左サイドバックに挑み続けるのか。それとも、期限付き移籍のオファーをもらっている東京ヴェルディへ新天地を求めるのか。

 中学生年代から鹿島のアカデミーで育ち、2022シーズンにトップチームへの昇格を果たして5年目。22歳の溝口修平は開幕が迫る2026-27シーズンの去就に最終的な決断を下す前に周囲に相談を重ねた。

「マツくんや海人くんに相談できた、というのは本当に大きかったと思っています」

 マツくんとは松村優太を、海人くんとは千田海人を指す。前者は2024シーズンの後半にヴェルディへ期限付き移籍し、後者は昨年6月にヴェルディから完全移籍で加入。城福浩監督が掲げるスタイルを熟知していた。

 ヴェルディへの加入が発表されたのは、ワールドカップ北中米大会の真っ只中だった6月18日。プロになって初めて鹿島以外のチームでのプレーする溝口は、新天地で自らに課す目標をいまではこう語る。

「1年間を通して試合に出て、さらにチームを勝たせる。それができる選手に成長する、という道を選びました。走って戦う、というスタイルが間違いなく根底にあるチームですし、それを理解した上で違いを出そう、と」

 新天地に順応するのに時間はかからなかった。鹿島でともにプレーし、その後にヴェルディへ加わっている林尚輝が守備陣の、染野唯月が攻撃陣の中心を担う陣容に溝口も「すごく大きかった」と感謝する。

 しかしチームが始動し、戦術的なメニューが多くなるたびに面食らう回数も増えていった。

「最初は本当に驚きました。すべての局面で(ゴール前へ)入っていきますし、そこがチームのルールになっている部分でもあるので。かなりきつさはありますけど、実際にチャンスになる回数も多いと感じています」

 システムは鹿島の4-4-2からヴェルディでは3-4-2-1へと代わり、左利きの溝口が挑むポジションも必然的に鹿島時代の左サイドバックではなく未知の左ウイングバックとなった。

 そのなかで、たとえば右サイドでチャンスが作られた場面では、左ウイングバックの選手が常に相手ゴール前へ攻め込んでいく動きが求められた。無駄走りになるのも厭わないと、溝口は必死に思考回路を切り替えた。

「これまではあの場所に入っていくプレー自体があまりなかったので。頭の整理というところでも少し不安はありましたけど、だからこそ周りの選手たちとかなりコミュニケーションを取ってきました」

 いよいよ訪れた開幕戦。ホームの味の素スタジアムに川崎フロンターレを迎えた9日の一戦で、溝口は左ウイングバックの先発を射止めた。そして両チームともに無得点で迎えた後半1分に歓喜の雄叫びをあげた。

 敵陣の右サイドで弾んだボールを染野が粘って収め、ボールを託された松橋優安が一気に縦へ抜け出してゴール正面へグラウンダーのクロスを送る。これに反応した福田湧矢が左足で放ったシュートは川崎の守護神スベンド・ブローダーセンにセーブされ、こぼれ球に松橋が突っ込むもシュートを放つまでにはいたらない。

 ポスト右のゴールラインを割りそうなボールを、染野が必死の形相を浮かべながら追っていく。このとき右ポスト付近に生じたスペースへ向かって、左サイドから一直線にスプリントしてきたのが溝口だった。

 染野が「誰かいてくれ」と祈りを込めて折り返したボールに、走り込んできた溝口が以心伝心で左足をヒットさせる。均衡を破る先制点は、溝口にとって公式戦出場37試合目で決めた待望の初ゴールだった。

「気がついたらあそこにいた、という感じです。自然と体が動くまでに練習ができている証拠ですね」

 試合後に歓喜の瞬間に笑顔で胸を張った溝口は、最終的にドローに終わった結果にこんな言葉を紡いだ。

「試合に出て終わり、というわけではないので。今日を最低限のゲームにしたいし、次は試合に出て勝たせるところを求めていきたい。徐々に(チームに)適応できているとは感じていますけど、今日に関しては左サイドからチャンスを作る場面もそこまでなかったので、そこはこれからの課題になってくると思います」

 鹿島が7月21日に発表した、安西が左膝前十字靱帯を損傷したという一報に大きな衝撃を受けた。2025年5月にも左膝前十字靱帯を損傷した安西は必死のリハビリをへて、今年4月に復帰したばかりだった。

 安西を欠いた左サイドバックを、2025年6月に加入した小川諒也と争いながら必死に埋めてきた溝口もまた、公式戦デビューを果たした2023シーズンに左膝内側側副靱帯を損傷。つかみかけたチャンスを逃した。

「同じところを、というのは聞きました。ものすごく苦しいだろうなと、同じ選手として感じています」

 期限付き移籍を決めた後に、背中を追ってきた安西から「頑張ってこい」と檄を飛ばされた。覚悟を決めて加入したヴェルディで目標にすえる選手へ近づいていく。成長への軌跡が安西への励ましにもなると信じている。

「開幕戦を見ても鹿島はやはり特別なチームだと思いましたし、その鹿島で競争に勝っていくのが、鹿島で育った自分の目標ではあります。ただ一番は自分の成長なので、ここでそれに目を向けていきたい。今日はゴールだけでなく、それ以外のところでもかなり手応えを感じましたけど、まだまだ伸びしろもあると感じています」

 川崎戦後にこう語った溝口にとって、プロ初ゴールもまだ序章段階にあるサッカー人生のマイルストーンなのだろう。一途に、そして貪欲に。来年6月まで続く長い戦いで、溝口は身長174cm・体重66kgの自身の体に宿るポテンシャルを解放させ、攻撃力という新たな武器も搭載させながら全力で突っ走っていく。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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