冨安健洋が担う”最重要タスク” 完全復活で存在価値を証明へ…4年前口にした「苛立ちしかない」

日本代表の冨安健洋【写真:井上信太郎】
日本代表の冨安健洋【写真:井上信太郎】

冨安健洋はブラジル戦でスタメン濃厚

 2026年北中米ワールドカップ(W杯)優勝という大目標を掲げる日本代表にとって、明日6月29日のラウンド32・ブラジル戦(ヒューストン)は最大の関門と言っていい大一番だ。

 日本は25日のF組最終戦・スウェーデン戦(ダラス)から中3日。ブラジルは24日のC組最終戦・スコットランド戦(マイアミ)から中4日と日程的には日本の方が不利な状況にある。

 しかも、ベースキャンプ地・ナッシュビルからダラス、モンテレイ、ダラスを行き来した日本のグループリーグでの移動距離は7494キロ。一方、ベースキャンプ地をニュージャージーに置き、ニュージャージー、フィラでルフィア、マイアミに赴いたブラジルの移動距離は3816キロ。約2倍動いている計算になる。

 ご存じの通り、決勝トーナメントからは延長・PK戦がある。最大120分間を戦って勝敗を決するということで、選手たちの消耗度は非常に高くなる。こうした環境面の難しさをいかにして克服するのか。それも王国撃破の重要なポイントになってくるだろう。

 グループリーグでは上田綺世(フェイエノールト)、鎌田大地(クリスタルパレス)、堂安律(フランクフルト)、中村敬斗(スタッド・ランス)、伊藤洋輝(バイエルン)、鈴木彩艶(パルマ)の6人を3試合連続スタメンで起用。彼らのフィジカル的な負担は大きいだろうが、森保一監督は所属クラブでの今季試合出場時間や疲労度を踏まえながらこうした起用に踏み切っているはず。彼らが次戦もスタートから出るのは間違いないと見ていい。

 そして、スウェーデン戦で温存された佐野海舟(マインツ)と冨安健洋(アヤックス)のスタメン抜擢もほぼ確実と言える。特に冨安は今大会に入ってから初戦・オランダ戦(ダラス)の後半30分からと第2戦チュニジア戦(モンテレイ)の後半33分までの合計93分間プレー。長いケガで代表から約2年間遠ざかった選手だけに、指揮官も慎重に状態を見極めて時間限定の起用にしたのだろうが、ブラジル戦は制限なしでフル稼働してもらわなければいけない。本人もそれだけの覚悟と準備ができているはずだ。

 実際、3バック右の冨安の対面には、ブラジル最大の得点源であるヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)が陣取ってくる。今大会のブラジルは4-1-2-3がベースで、ヴィニシウスは左ウイングのポジションから中に切れ込んでくる形が多くなると想定される。

 彼のフィニッシャーとしての能力は疑う余地がなく、今大会でもすでに4ゴールをゲット。3ゴールを挙げている最前線のマテウス・クーニャ(マンU)と合わせて、ブラジルの全7得点を叩き出しているのだ。

 2025年10月のブラジル戦(東京・味スタ)で3-2の歴史的逆転勝利を飾った際、3バック右に入った渡辺剛(フェイエノールト)が「あの時の試合でもそうですけど、(右ウイングバック=WBの)律と2枚で見て、しっかりカバーすれば守れると思う。難しくないとは言えないけど、そこでしっかりと数的優位を作れれば守り切れると思う」と話した通り、冨安もU-16日本代表時代からの盟友・堂安といい連携と距離感を保ちながら、王国のエースを確実に封じること。それが最重要タスクになってくるのだ。

「僕は前回のブラジル戦を外から見ていましたけど、本戦と親善試合はまた違う。ブラジルだけではなく、W杯を勝つための戦い方が必要になるし、今のチーム全体でそこを統一できていると思います。

 ただ、この試合前にはさらにプラスして、もう1回、試合前に統一して戦うことが大事になってくる。自分自身にフォーカスしてやれればいいと思っています」と冨安はスウェーデン戦翌日の26日の練習後にコメント。多くを語らなかったが、彼の中では大一番に向けた分析と対策が頭の中に入っているに違いない。

 冨安にとってこのブラジル戦は、日本代表における自身の存在価値と完全復活を示す重要なゲームになる。思い起こせば3年半前の2022年カタールW杯はやはりケガやコンディション不良に苦しみ、フル稼働が叶わなかった。森保監督は19歳だった2018年10月のパナマ戦(新潟)で代表デビューさせた逸材に絶対的信頼を寄せており、ラウンド16のクロアチア戦(ドーハ)にスタメン抜擢したが、本人のパフォーマンスは最後まで上がらなかった。

「1つ言えることは、本当に僕個人のパフォーマンスがよくなかったということ。本当にチームに迷惑をかけたし、こういう大事な試合でパフォーマンスを発揮できない自分に苛立ちしかないですし、そういうのを含めて感情の整理をつけるのが難しいです。

 この大会は今日を含めてトップパフォーマンスを出せた試合がなかった。ケガもあって、本当に嫌になりますね…」

 PK戦で敗れた後の冨安の苦渋に満ちた表情は今も我々報道陣の脳裏に焼き付いて離れない。その悔しさを本人は決して忘れていないだろう。しかも第2次森保ジャパンでも最終予選を含めて半分以上を棒に振った。それでもこうして2度目のW杯に呼んでくれて、ブラジル戦という日本の命運を左右する大一番に使おうとしてくれている指揮官に冨安は恩返しをしなければいけない。

 ヴィニシウスを完封し、ブラジルを無失点に抑え、攻撃の起点としてチームのゴールを演出してくれれば、これまでの苦労も全て報われる。試合後、会心の笑顔を浮かべる冨安の姿を見たいと森保監督もチームメートも周囲を取り巻く人々も強く願っている。

 元キャプテン・吉田麻也(LAギャラクシー)から託された背番号22を背負う以上、リーダーとして日本の新たな歴史を作ることが彼には求められている。日本史上最高のDFだと言われてきた能力を全て出し切り、チームをラウンド16へ力強く導いてほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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