悲劇の14秒から「新しい景色」へ 現場の言葉が紡いだ日本代表の軌跡…王国撃破で見る「最高の景色」

最高の景色を目指して戦う日本代表【写真:徳原隆元】
最高の景色を目指して戦う日本代表【写真:徳原隆元】

西野監督→森保監督へと繋がれた言葉

 日本代表の合言葉「最高の景色を」。今やすっかり定着した感じだ。連日テレビなどメディアで発信され、森保一監督や選手からも繰り返される。W杯優勝を目指す日本代表を応援するための「最高の景色を 2026」。もとになったのは22年カタール大会の時の合言葉だった「新しい景色」だ。

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 日本協会が日本代表の応援スローガン「新しい景色を 2022」を発表したのは19年8月30日だった。「景色?」。耳慣れない言葉に首をひねるファンもいた。「ベスト8」のように具体性はない。抽象的なフレーズを疑問視する声さえあった。

 もっとも、日本代表の活躍で言葉が浸透する。森保監督らが発することでメディアでも拡散された。いつの間にか「新しい景色」が日本代表の思いを表す言葉になった。

 決して珍しい言葉ではない。過去の記事を検索すると、他の競技でも「景色」を使ったコメントはある。ただ、これほど一般的になったのは初めて。24年パリ五輪や26年ミラノ・コルティナ冬季五輪では、他の競技の選手たちが「新しい景色」を使った。スポーツ界の「流行語」になった感じだ。

 きっかけは18年ロシア大会で日本代表を率いた西野朗監督の言葉。決勝トーナメント1回戦でベルギーに衝撃的な逆転負けを喫した「ロストフの14秒」の直後のミーティング、茫然自失の選手たちに向けて言葉を振り絞った。

「これを忘れるな。そうすれば、新しい景色を見ることができる」

 カタール大会に向けた応援スローガンを決める時、この言葉が採用された。普通は広告代理店のクリエーターたちが決めるところだが、あえて現場の言葉を採用した。「選手たちの心に残っていた言葉だから、すんなり受け入れられた。現場の言葉には力があった」と日本協会の関係者は明かした。

「最高の景色を」は森保監督の言葉。22年カタール大会決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦で敗れた直後、選手たちに「これを続ければ最高の気色が見られる」。試合後のテレビインタビューでも同様のコメントをしている。その言葉が、そのまま応援スローガンとなった。

 成績でいうなら「新しい景色」はベスト8以上、「最高の気色」は優勝の意味になる。チームの目標でもあるし、「JFA2005年宣言」で50年までの優勝を約束している日本協会の思いでもある。ただ、「景色」は成績だけではない。

 W杯の大舞台で世界の強豪国と対等に戦う。しっかりと打ち合ってオランダとも引き分ける。選手全員が、当然のように目標に「優勝」を掲げる。普段から世界のトップクラブで試合をしている選手たちだから、もともと見ている世界が違う。過去とは視点が大きく違うから見える景色も変わる。

 サポーターやメディアの目線も高くなった。1990年、初めて対戦したブラジルはいくら見上げても見えなかった。2006年W杯では見えたが手は届かなかった。今回は、はっきりと見える王国との対戦になる。「勝てる」と信じ、思えるようになった。視点が変わって、見える景色が変わった。

 単純に成績だけなら、ブラジルに勝っても今回はベスト16。ようやく前回まで見た景色だ。「最高の景色」はもちろん「新しい景色」を見るのも簡単ではない。それでも、期待できる力が今の日本代表にはある。森保監督の言う通り「最高の景色」を目指して共闘し、念を送りたいと思う。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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