ブラジル撃破のシナリオとは? 今大会トップ7の数値「35回」、日本がW杯3戦目で見つけた突破口

[図表1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成
[図表1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成

連載「北中米ワールドカップData Lab.」第6回、日本vsスウェーデン データ分析

 北中米ワールドカップ(W杯)の激闘の裏側で、何が起きているのか――。史上初の3か国共催、出場48チームが全104試合を戦う世界最高峰の舞台を、FIFAが試合後に公開するデータを最新AIで読み込みながら、アナリストが分析していく連載「北中米ワールドカップData Lab.」。森保一監督率いる日本代表は、日本時間6月26日のグループステージ第3戦でスウェーデンと1-1で引き分け、1勝2分のF組2位で3大会連続の決勝トーナメント進出を決めた。そして同30日のラウンド32で、ブラジルとの対戦が決定。“サッカー王国”との大一番に向け、森保ジャパンに勝機はあるのか。スウェーデン戦を中心に、FIFA公式データ「Post Match Summary Report」をもとに分析した。(文=森本美行)

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 日本代表はグループステージ第3戦で、スウェーデンと1-1で引き分けた。この結果により、グループFを2位で突破。中3日でブラジルと、ベスト16をかけてヒューストンで激突することになった。

 W杯最多5回の優勝を誇る“サッカー王国”との対戦が決まった今、一つ素朴な疑問が生まれた。日本はスウェーデンに勝つことはできなかったのか、と。

 日本はグループステージ初戦で、強豪オランダと堂々と渡り合い、2度リードを許しながらも2-2で引き分けることができた。そして第2戦では日本がチュニジアに4-0で勝利、オランダはスウェーデンに5-1と大勝した。これまでの試合結果を踏まえれば、オランダと同等の強さを持っていると考えられる日本が、点差はさておき、スウェーデンに勝利しても不思議ではなかったように感じるが、実際は1-1の引き分けに。そして、この日の両チームのスタッツは、スコアを反映するように非常に似たものになっていた(図表1参照)。

[図表2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成
[図表2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成

 一方、この試合では過去2試合の日本代表のデータから変化が起きたものがあった。

 まず、FIFA公式のデータにはMovement to Receive(ボールを受けるための動き)というものがあり、そこで5つに分類されているタイプの中に以下の2つがある。

●In Behind:相手の最終ラインの背後へ抜け出して受ける動き
●In Between:相手の中盤と最終ラインの間(ライン間)で受ける動き

 どちらも危険な位置でボールを引き出す動きであり、直感的にはxG(ゴール期待値)に繋がりそうなデータに思える。そこで今回のW杯で、ここまで行われた55試合のデータを集計し、xGとの相関を探ったのが[図表3]だ。

[図表3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図表3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

 このデータで「背後で受ける動き/In Behind」(+0.54)と「手前で受ける動き/In Front」(+0.53)が、ほぼ同じ相関関係というところに目が留まった。これは何を意味するのだろうか。

 単純に“背後”を狙う動きに対しては、相手もついて行きやすい。しかし“前”で受ける動きがあると、その選手に視線が向き、動きもそれに伴う。そこで食いつけば、後方にスペースができる。つまりボール保持者と背後での受け手という2者の関係性だけではなく、その前で「動く、受ける、落とす」プレーを加えることで、効果的に相手の背後でボールを受けることが可能になる。

 まさにスウェーデン戦の日本の得点は、堂安律からのパスを上田綺世が相手選手の前で受け、堂安に戻すという一連のプレーで、相手の目線は“前”に向いた。そのタイミングで相手の背後に走り込んだ前田大然がゴールを奪っている。このシュートのxGは、日本代表のこれまでのシュートで最も高い0.6(OPTA)を記録した。つまり相手の前で受ける動きと背後を狙う動きの組み合わせが、xGを大きく引き上げたのだ。

[図表4]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図表4]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

得失点と相関が高いスタッツでは「日本完勝」

 冒頭で紹介したスウェーデン戦の主なスタッツ(図表1参照)では、スコアだけでなく内容も極めて似ていた。しかし、得失点との相関が高いスタッツに目を向けると、この試合は「日本が完勝する」はずだった。

[図表4]を見ると、日本はxGで約2倍、In Behindでも約1.5倍、シュート1本あたりのxGも3倍高かった。スウェーデンより危険な位置でボールを引き出し、より多くのチャンスを作ると同時に、GK鈴木彩艶の80%というセーブ率が相手のチャンスの芽を摘んだ。

 この試合、日本はxG=1.22から1点という、ほぼxGどおりの得点だった。一方のスウェーデンは、xG=0.56から1点という、アンソニー・エランガのシュートスキルの高さが生んだ得点だった。1試合1試合では、この日の日本のように再現性の高い得点もあれば、スウェーデンのように技術や運に作用する得点もある。しかし試合数が増えれば偶然の要素は徐々に姿を消し、これまでの莫大なデータから算出されたゴール期待値という確率に収束されてくる。

 試合を重ねるごとに日本のシュート1本あたりのxGが上がり始め、それを支えるIn Behindの数も上がり始めた(図表2参照)。前田のスウェーデン戦でのIn Behind「35回」は、現時点で手元にあるFIFA公式データで見る限り、今大会トップ7の数値だ。

[図表5]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図表5]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

運命のブラジル戦、日本のキーマンは?

 最後にグループCを1位通過し、日本時間6月30日のラウンド32で日本と対戦するブラジルについて触れておこう。

 ブラジルのグループステージ3試合の内容をデータで見ると、突出するデータは相手の背後を取る回数でもなければ、ボールを保持している時間の長さでもない。ブラジルは得失点に結びつく「肝心なところ」を抑えているチームだ。彼らは幼い頃からサッカーIQを標準装備しているため、どこにどのようにボールを動かせば相手が嫌がるかを知っている。

 そんなブラジルが、積極的に行ってこないプレーが“ボール奪取”(39位)だ。小さい頃から上手い選手同士でプレーしているため、相手にかわされないよう本能的に構えるのだろう。ブラジルがグループステージで唯一勝てなかったモロッコ(第1戦/1-1)のxG=1.33は、ブラジルのxG=0.99を大きく上回った。In Behindもモロッコ99回に対してブラジル77回で、ブラジルの失点は、この日「32回」背後に抜ける動きをしたイスマエル・サイバリによるものだった。

 W杯のような短期決戦では、ラッキーボーイの存在が大きいと言われる。ラッキーという曖昧な言葉で表現されているが、それには必ず根拠があるはずだ。大会の性質、天候、コンディション、サッカーのスタイルの進化などにその瞬間マッチするプレーを本人が意識することなく行った結果、すべてが上手くいきラッキーボーイとなるのだろう。

 そしてブラジル戦でゴールを決めたサイバリを上回るIn Behindを、スウェーデン戦で記録した選手が日本にいる。35回にわたって背後に抜ける動きをした前田だ。もちろん、異なる試合のデータを単純比較することはできないが、今大会の1つの傾向を日本代表のなかで最も体現している存在と言える。

 単なる運をラッキーと呼ぶのではなく、再現性を高めるために“ラッキーボーイ”をどの局面で、どのように活用すればいいのか。そこが上手くはまった時、日本代表はこの大会のラッキーチームになるはずだ。

(森本美行/Miyuki Morimoto)



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森本美行

森本美行
もりもと・みゆき/1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2002年にスポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアム株式会社の代表取締役に就任。16年には日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの代表取締役及び一般社団法人日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。またJリーグのヴィッセル神戸や東京ヴェルディ1969、京都サンガF.C.などでトップチームのアナリストを歴任。鈴鹿ポイントゲッターズや慶応義塾大学体育会ソッカー部などでは、コーチとして選手を指導した。現在は横浜FCでデータ戦略アドバイザー、ヴィアティン三重のデータアナリストを務めている。

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