日本人選手が海外で”生き残る”条件 岡崎慎司が提言…次なる壁へ「使わざるを得ない存在に」

恩師の信頼から「絶対的存在」へ
北中米ワールドカップ(W杯)で激闘を繰り広げている日本代表。今やメンバーの大半が欧州クラブに所属し、世界トップレベルの環境で日々しのぎを削っている。日本人選手が欧州で長く活躍し、揺るぎない評価を確立するための条件とは何なのか。元日本代表FW岡崎慎司氏に、現在ドイツでプレーする佐野海舟や鈴木唯人の姿から見えてくる日本サッカーの「次なるステップ」について話を聞いた。(取材・文=中野吉之伴/全4回の4回目)
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日本人選手が欧州で活躍する条件とは何だろうか。
もちろん実力があることは前提だ。だが、それだけでは説明できない部分もある。岡崎慎司は自身の経験、そして現在ドイツでプレーする日本人選手たちの姿を見ながら、ある共通点を感じているという。
「自分を信頼してというか、評価して取ってくれた監督の下で、しかもチームが機能していた場合は、すごくハマるケースが多いじゃないですか」
岡崎自身がそうだった。マインツ時代、自分を高く評価して獲得したのはトーマス・トゥヘルだった。監督が求める役割が明確で、チームの方向性も定まっていた。そうした環境の中で岡崎は自身の持ち味を存分に発揮し、ブンデスリーガで結果を残していった。
ただ、岡崎は同時にこうも語る。
「最初からチーム選びで選び切れるかはわからない。だからこそ、そういう状況になった時に、いかにしてフィットしていくかっていうのは大事。いつもチームが整っているところへ行けるわけじゃないから」
監督との相性。チームとの相性。それは確かに重要だ。
しかし欧州で長く戦っていくためには、それだけでは足りない。だからこそ興味深いのが、岡崎が今の日本人選手たちをどう見ているかだった。
「堂安とかも今、フランクフルトでもやれてはいるんですけど、フライブルク時代ほどではない。やっぱりチームが安定していないとパッとはしないこともある」
日本人選手は組織の中で役割が整理され、その役割を理解した上でプレーすることで能力を最大限発揮するケースが多い。それは決して悪いことではない。むしろ戦術理解力や献身性の高さは、日本人選手が欧州で評価されてきた大きな理由の1つだ。
その象徴とも言えるのがマインツの佐野海舟だろう。
「海舟も最初からずっと使ってもらっていた。あそこで使ってもらえてなかったら、たぶん、いまの成長はなかったと思います」
岡崎はそう振り返る。今となってはマインツになくてはならない存在となった佐野だが、加入当初から全てが順調だったわけではない。
「結構微妙な時もあったんでね。ただ『代えられないかな?』みたいな状況でも、ボーには褒めて、認めてもらっていた」
岡崎が語るように当時のボー・ヘンリクセン監督は辛抱強く佐野を起用し続けた。そしてその信頼に応える形で、佐野は急速な成長を遂げていく。
マインツ加入当初、佐野は監督から求められる役割についてこんな話をしていた。
「セカンドボールはめちゃくちゃ求められている。そこから攻撃を始めるくらいセカンドボールは重要だって話をしていた」
ヘンリクセンのサッカーは、相手陣内に押し込んでカオスを作り出すスタイルだった。ボールがこぼれる。相手が慌ててパスを出す。その瞬間に回収して再び攻撃を始める。その循環の中心にいたのが佐野だった。
監督は彼に明確な役割を与え、その能力を信じた。だからこそ佐野も、自分が何を求められているのかを理解しながら成長することができた。
だが、さらに興味深いのはその先だった。UEFAカンファレンスリーグとの過密日程も重なり、マインツは残留争いに巻き込まれる。そしてヘンリクセン監督は解任された。
後任として就任したのはウルス・フィッシャー。チームの方向性は変わった。ところが佐野の重要性は失われなかった。むしろ増していったのである。
「真ん中を1人でやるというのは、正直最初は絶対できないだろうと思うようなタスクばかりでした」
佐野は後にそう振り返っている。フィッシャーが課したタスクは多岐にわたった。だがそれは、佐野ならできるという信頼の裏返しでもあった。そして佐野はそれをやり切った。
「自分の中でしっかり吸収して、少しずつ良くなっていったと思います」
それは信頼されて使われる選手から、どんな時でも使わざるを得ない中心選手へ変わっていく過程だったのかもしれない。
さらに岡崎が今季特に成長を感じた選手として名前を挙げたのが、フライブルクの鈴木唯人だ。
フライブルクでは、とにかくインテンシティ高く、全選手が守備を最大限に頑張って、最後まで戦い続けることが絶対条件だ。どんな選手でもこれができないと起用されない。鈴木はハイクオリティのベースに、ドリブルやパスやシュートという+αを加えることができる。ユリアン・シュースター監督からの評価もすごい高いし、チームメイトとの関係性もとてもいい。
「結構明るいやつなんでね。前に会った時も気持ちのいいやつだなと思いました。明るいとか陽キャって結構大事かなとは思うんです」
岡崎がその点を挙げたのが興味深い。一見するとサッカーとは関係のない話に聞こえるかもしれない。しかし海外で長くプレーした岡崎は、その重要性をよく知っている。前からチームにいる選手たちの立場で考えれば、何を考えているかわからない選手より、一緒に戦いたいと思える選手の方が受け入れられやすい。
「誰にでもこう気さくに話せる。そういう意味でも鈴木唯人は楽しみですよね。シャドーとしてもプレーできるし、代表でも重要な存在になる」
鈴木はプレーだけでなく、人間関係の構築という面でも評価を高めているのだ。
監督が信頼して起用してくれているチームだと日本人選手は輝ける。前述の選手以外にも、鎌田大地はクリスタルパレスでフランクフルト時代の恩師オリバー・グラスナーとともに存在感を発揮し、カンファレンスリーグ優勝に貢献している。
彼らに共通するのは、自分の長所を理解し、役割を明確に与えてくれる監督との出会いだった。信頼されれば活躍できる。それはもう十分すぎるほど証明してきた。
だからこそ次のテーマも見えてくる。
「いつもチームが整っているところへ行けるわけじゃないから」
岡崎の言葉は、そのまま日本サッカー全体への問いかけにも聞こえる。欧州トップレベルになればなるほど競争は激しくなる。監督が最初から信頼してくれるとは限らない。チーム状況も不安定かもしれない。
そんな環境でどう存在感を示すのか。どう出場機会をつかむのか。どう周囲を納得させるのか。監督が変わっても、戦術が変わっても、競争相手がいても、使わない理由がないと思わせる存在になれるかどうか。
監督を振り向かせるだけの存在感を、欧州トップレベルでのクラブでもできる日本人選手が出てくることが次のステップといえる。佐野海舟や鈴木唯人が見せている成長は、その入り口にあるのかもしれない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。















