3年の時を経て再現された“理想の攻撃” 7人・6本・20秒のプロセス…森保Jを象徴する「良い崩し」

チュニジア戦の先制点に表れた理想的な崩しの形
チュニジア代表との北中米ワールドカップ・グループステージ第2戦の開始4分にMF鎌田大地が決めた先制ゴール。日本の4-0大勝を呼び込んだ一撃は、ちょうど3年前の2023年6月20日に森保ジャパンが決めたゴールまでのプロセスが、システムと選手が代わった状況でそのまま再現されたものだった。(取材・文=藤江直人)
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ゴールキックで意図的に短いパスを選択し、最終ラインの選手によるビルドアップから反対側へ大きくサイドチェンジ。左サイドで個の力を発動させて相手の守備網を崩して、最後にゴールネットを揺らす。
グループステージ第2戦チュニジア戦の前半4分。鎌田が決めた先制ゴールに至るプロセスは、第2次森保ジャパンで決まった節目の10ゴール目とまったく同じだった。
2023年6月20日に、パナソニックスタジアム吹田でペルー代表と対峙した国際親善試合。前半22分にDF伊藤洋輝の代表初ゴールで先制した日本が、リードを守ったまま迎えた同37分だった。
日本のゴールキックで再開された場面で、GK中村航輔はペナルティーエリア内の右へ開いたDF板倉滉への短いパスを選択。板倉はすかさず右タッチライン際にいたDF菅原由勢へパスを展開した。
次の瞬間、菅原は自身の前方にポジションを下げてきたMF伊東純也へ縦パスを送る。リターンを受けて一気に縦へ抜け出した菅原は、相手選手に挟まれかけたハーフウェーラインの手前で中央へ展開した。
ターゲットはセンターサークル内にいた鎌田。しかし、菅原が「もっといいボールをつけられていたら」と苦笑したほど、グラウンダーのパスを送ったはずが、実際はシュート性の強烈な弾道を描いてしまった。
しかし、鎌田は神業にも映るトラップで魅せる。前へ進みながら右足のアウトサイドで優しくタッチ。パスのスピードを巧みに殺し、なおかつボールを自身の前方に小さく弾ませて再び間合いに収めた。
さらにひと呼吸置いて、鎌田は左サイドをフリーで駆け上がっていたMF三笘薫へ絶妙なスルーパスを供給。ドリブルからカットインし、右足からシュートを放つ三笘の十八番の形でゴールが生まれた。
中村のゴールキックからペルーの選手に一度もボールを触らせない完璧な流れの中で6本のパスをつなぎ、三笘のゴールが決まるまでわずか20秒あまり。ボールを縦に運んだ菅原はこんな言葉を残している。
「大地くんが本当にうまく処理してくれて、そこからゴールにつながった。あれこそが僕たちがやろうとしている理想の攻撃。相手が前から来ているからといって臆さずにビルドアップしていって、いいポジションを取って、みんなで関係を持ちながら連携していくなかですごくいい崩しが、すごくいいゴールが生まれました」
非凡で、なおかつ異彩を放つプレーでアシストをマークした鎌田は、このときも淡々と振り返っている。
「いいトラップができたと思いますけど、その前に由勢と純也くんとで、うまく2対2の状況を崩せたところも大きかった。あとは薫の個人的なクオリティーの高さもあったし、チームとしてよかったと思っています」
最終的には4-1で快勝したペルー戦からちょうど3年。舞台がW杯、場所がメキシコのエスタディオ・モンテレイに変わり、顔ぶれもシステムも違ったピッチ上で理想に掲げてきたゴールが再現された。
守護神に定着したGK鈴木彩艶が得意のロングフィードを蹴るモーションを意図的に停止して、右サイドに開いたDF冨安健洋へ短いパスを預ける。前を向いた冨安は、すかさず前線へ縦パスを供給した。
ターゲットはシャドーで先発していた鎌田。自陣まで降りくると、フリックプレーを駆使して右タッチライン際に開いていたFW上田綺世へパス。上田もボールを前へ運びながら敵陣の中央へ浮き球のパスを送った。
今大会初出場・初先発を果たしていた田中碧が、敵陣のバイタルエリアまで駆けあがり、難しいバウンドとなったパスを巧みにトラップ。相手を背負った体勢で左サイドをフォローしてきた中村敬斗に展開する。
マーカーと1対1になった中村は中へ切れ込むと見せかけて、個の力での勝負を挑んで縦へ突破。利き足とは逆の左足で折り返したグラウンダーのクロスを、長い距離をスプリントしてきた鎌田がゴールに変えた。
日本のW杯史上最多となる4ゴールを奪って快勝した試合後。2002年日韓共催大会の稲本潤一以来となるW杯での2試合連続ゴールを決めた鎌田は、フラッシュインタビューでこう語っている。
「自分たちが狙っている良いビルドアップから、良い崩しができました」
くしくも3年前のペルー戦後に菅原が残したコメントとニュアンスが一致している。森保一監督のもとで常に理想を追い求めてきたからこそ、W杯の大舞台で必然に導かれたかのように再現された。
ビルドアップに関与した選手数が総勢7人だったのも、紡がれたパスが6本だったのも3年前とまったく同じ。さらにつけ加えれば、ゴールキックからフィニッシュまで要した時間もともに約20秒だった。
共通点はまだある。3年前と同じくチュニジアの選手は20秒の間に誰もボールに触れなかった。3年前に鎌田が果たした巧みな中継役を田中が、三笘が輝きを放った左サイドの崩し役を中村が鮮やかに遂行してみせた。
日本のW杯史上で最速となる鎌田のゴールで快勝した森保ジャパンは、オランダと勝ち点および得失点差で並び、総得点で1及ばない2位に浮上。3大会連続のノックアウトステージ進出をほぼ確実にした。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

















