ゴール期待値「1.36」で4発圧倒 初戦から97%減のデータも…歴史的勝利に導いた2つの要因

[図1]FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」をもとに編集部で一部加工
[図1]FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」をもとに編集部で一部加工

連載「北中米ワールドカップData Lab.」第5回、チュニジアvs日本データ展望

 北中米ワールドカップ(W杯)の激闘の裏側で、何が起きているのか――。史上初の3か国共催、出場48チームが全104試合を戦う世界最高峰の舞台を、FIFAが試合後に公開するデータを最新AIで読み込みながら、アナリストが分析していく連載「北中米ワールドカップData Lab.」。森保一監督率いる日本代表は、日本時間6月21日のグループステージ第2戦でチュニジアに4-0と快勝した。“鬼門”と言われたW杯第2戦に完勝した背景を、FIFAが試合後に公開したデータ「Post Match Summary Report」をもとに分析。チュニジアの状況を踏まえながら、オランダ戦からの変化や成長を考察してみたい。(文=森本美行)

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 オランダ戦の日本は、ポゼッション率37.4%、xG(ゴール期待値)0.34、枠内シュート2本。「持たない・持てない」試合を少ないチャンスで引き分けに持ち込んだ。2戦目のチュニジア戦ではポゼッション率が17.7%増え55.1%となり自らアクションできる時間、すなわち量を増やした。

 質の面では今大会のここまでの試合で、勝敗との高い相関関係を示すシュート1本あたりのxGが0.038から0.136と約3.6倍増加。枠内シュート数は2本→4本、一方で守備のデータに目を向けると被xG(相手のxG)は0.63→0.02と97%も減少することとなった(表1参照)。

[表1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成
[表1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとに著者が作成

 実際の得点の中身について見てみよう。鎌田大地(前半4分)、上田綺世(前半31分、後半38分)、伊東純也(後半24分)が挙げた4得点中3ゴールが、ペナルティーエリア内正面のゴールデンゾーンと呼ばれるxGの高いエリアからのものだった。この3得点に結びついたシュートが、今回の日本代表のxGを大きく引き上げることに貢献した。

 とはいえ、日本のxGはそれでも1.36しかなく、そこから4点を奪ったという事実をどう考えるかは重要だ。鎌田、上田の2点目、伊東がシュートした位置からだけでも、トータルxG1.36に近い値が出るはず。そこに残り7本のシュートのxGが加われば、トータルxGの値は本来さらに高まるはずだ。

 それがそうならなかったのは、得点した位置は良かったが、シュートを打つ状況は得点するには難しい状況だったことを示す。そのなかで日本が得点に結びつけることができたのは、ゴールを決めた選手の技術の高さか、相手の局面での守備の緩さのどちらかだ。チュニジア戦大勝の喜びを優勝に向けた大事な経験と捉えるのであれば、ワールドクラスの技術を備えた日本の選手を称賛しつつ、相手の守備が必ずしも良くなかったと謙虚に受け止めておくことも大事だろう。

[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

監督交代で見えたチュニジアの“ある変化”

[図2]はこれまで2試合を終えた24チームの、シュート1本あたりのxG値だ。この図を出したのはシュート1本あたりの平均xGが、FIFA公式が試合後に出す「Post match summary report」のデータの中で、ここまでの試合結果との相関関係が最も高かったからだ。

 これを見ると2試合を通算した日本の「1本あたりxG」は0.089で、24チーム中15位とグループの順位や盛り上がりと比較すると物足りない。現時点で日本は“数少ない決定機を高い技術で決めきる”質の高いチームだと言える。今後はいかに“決定機を再現性をもって作り出せる”チームに進化させていけるか、そこが次戦以降で問われていくはずだ。

 視点をチュニジアに移す。初戦の大敗を受けて指揮官を代え、エルベ・ルナール体制での初陣がこの日本戦だった。そして監督交代による“ある変化”がデータに表れていた(図3参照)。

 それはルナール監督が守備の重心を変えたことだ。相手がボールを保持している時間のミドルブロックの局面は21%→34%、ローブロックは21%→29%と低い位置で構える局面の割合の合計が42%から63%へと1.5倍に増えた。しかし、ブロックの位置はミドルブロックの位置は変わらないが、ローブロックの位置が3メートル高くなり、縦幅が4メートル短くコンパクトになった。

 その結果、相手のボールを前進させるプレーはスウェーデン戦の26回から17回に、最終ライン突破を許した数は13回から10回となり、ゴールに近づかせるプレー数の減少に成功させた。

[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

守備を「深く」できても「堅く」できず

 しかし深く守ったにもかかわらず、初戦に続いて日本戦でも4失点を喫し、得点をあげることもできなかった。では、ルナール監督が変えられなかった部分はどこか。

 1つ目は、守備を「深く」はできても「堅く」はできなかったことだ。 コンパクトなブロックで相手がチャンスを作る量こそ抑えた(被xGはスウェーデン戦の2.09から日本戦は1.36)が、そこで打たれたシュートはDFの不十分なプレスと日本の技術に25%というGKの低いセーブ成功率が加わり、xGの3倍にあたる4点を日本に与えてしまった。守る形はできたが、自分の相対する選手への強度の高い守備の改善までは行きつかなかった。

 2つ目は「深い守備ラインとのトレードオフ」として、攻撃の出口を失ったことだ。低い位置でボールを奪っても、日本の13.7秒という早いボールリカバリータイムですぐにボールを失い、少ないマイボールの機会であってもファイナルサードでのボール受け数は初戦の84回から55回に、最終ラインの突破は8回からわずか1回に、シュート数は6本から2本(枠内シュート0本)、xGは0.34からわずか0.02にまで減少した。

 監督交代は、チームの「重心と密集度」を変えた。しかし、それはあくまでも形で勝敗をより強く左右する核には届かなかった。

 日本にとっての本当の問いは、ここから先にある。これまで「質」と表現していた個の「技術」と、たびたび見せたチームの「運」は、次節あるいはグループステージを勝ち抜いてきた強者を相手にしても成立するのか――。その答え合わせを、期待と確信を持ちながら待ちたい。

(森本美行/Miyuki Morimoto)



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森本美行

森本美行
もりもと・みゆき/1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2002年にスポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアム株式会社の代表取締役に就任。16年には日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの代表取締役及び一般社団法人日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。またJリーグのヴィッセル神戸や東京ヴェルディ1969、京都サンガF.C.などでトップチームのアナリストを歴任。鈴鹿ポイントゲッターズや慶応義塾大学体育会ソッカー部などでは、コーチとして選手を指導した。現在は横浜FCでデータ戦略アドバイザー、ヴィアティン三重のデータアナリストを務めている。

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