躍進のシント=トロイデンは「チーム作りから成功」 日本代表強化にも貢献…転機は“よそ者”感の払拭

岡崎慎司氏【写真:アフロ】
岡崎慎司氏【写真:アフロ】

元日本代表FW岡崎慎司氏が語るシント=トロイデンの貢献

 日本代表は現地時間6月25日、アメリカ・ダラスのダラススタジアムで、北中米ワールドカップ(W杯)グループステージ第3戦でスウェーデンと対戦する。初戦のオランダ戦を2-2で引き分け、第2戦のチュニジア戦で4-0の快勝を収めた日本代表には、ベルギー1部STVVシント=トロイデンでプレーした選手たちが多く存在する。シント=トロイデンが日本代表の強化に果たした役割について、元日本代表FW岡崎慎司氏に話を聞いた。(取材・文=中野吉之伴/全4回の2回目)

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 今大会の日本代表を語る上で、欠かすことのできないクラブがある。シント=トロイデンだ。

 現所属の谷口彰悟と後藤啓介のほか、鈴木彩艶、鎌田大地、冨安健洋、中村敬斗がこのクラブを経由して欧州のキャリアを切り拓いてきた。負傷離脱となったが、遠藤航もそうだ。日本人選手の欧州挑戦の玄関口として知られてきたクラブは、今や日本代表を支える人材供給源の一つになっているだけでなく、2025-26シーズンはリーグ3位に入る躍進を果たした。

 現在ドイツで指導者として活躍し、自身もシント=トロイデンでプレー歴がある岡崎慎司は、この躍進をどう見ているのだろうか。

「タテさん(立石敬之CEO)とはよく話をさせてもらっていますが、いろんな要因があると思います」

 岡崎がまず挙げたのは、チームの一体感だった。

「クラブ内の言語を絞ったと聞いています。ベルギー人と日本人がいて、そこにフランス人とスペイン人がいて、フランス語、スペイン語、日本語、英語が飛び交っている感じだった。それをみんなが英語で話すような環境にしたと。そこでの一体感。ベルギーサッカー自体が個人個人でやるっていうサッカーが多いので、その中で今季のシント=トロイデンは本当にチームとしてまとまっている」

 多国籍の選手が集まる欧州クラブでは、それぞれが母国語ごとのグループを形成することも珍しくない。その中で共通言語を整理し、一つのチームとしてまとまる環境を作ったことが、躍進の土台になったという見方だ。

 もちろん、その上で選手個々の成長もあった。

「そうしたまとまりができあがった中で伊藤涼太郎や山本理仁、後藤らが成長したのが大きい。彼らが違いを見せて、守備だけじゃなくて攻撃で前に出て結果を出していくところで、日本人の活躍も光ったのはうれしいところですね」

 ベルギーリーグの中での立ち位置についても興味深い証言をしている。

「選手たちに話を聞いたら『強いなと思ったのは、ユニオン(・サンジロワーズ)か、(クラブ・)ブルージュくらい』と言っていました。そこは1個抜けている感じがあるとは言っていたんですけど、他は基本的にはやれていると。3位という結果は、まさにその証明ができたんじゃないかな」

 ただ、岡崎が評価しているのは結果だけではない。むしろ注目しているのは、クラブ全体で取り組んできた挑戦だ。

「タテさん含め日本のスカウト、いろんなスタッフ含めて選手だけじゃない力を今シーズンは見せたと思います」

 シント=トロイデンは長年、「日本人選手を欧州へ送り出す入り口のクラブ」として語られてきた。しかし岡崎の視点は、そのさらに先にある。

「今まで試行錯誤した中で、選手を売り買いするだけじゃない魅力を作ってこようとしていた部分が功を奏してきている。いまは育成にも結構力を入れているんですよ」

 さらにクラブが、ベルギー社会の中での立ち位置も変えようとしてきた点を評価していた。

「日本からきた“よそ者”みたいな感じを払拭し、より地元やベルギーの中で認められるクラブに切り替えて、何年も取り組んできたのが実を結んできている。それが成功のベースにあるんだと思います」

 だからこそ岡崎は、順位表以上にそのプロセスに価値を見出している。

「単に結果が出る選手とか監督がというよりは、クラブ全体としてチャレンジしていた部分を見ている。そこは自分も参考になります。チーム作りから成功していた」

 そして、この成功は日本代表とも決して無関係ではない。

 前述したように鈴木彩、鎌田、遠藤、冨安らはシント=トロイデンで出場機会を得て成長し、より大きなクラブへ羽ばたいていった。その先で日本代表の主力となっている。今季は後藤と山本がドイツ1部フライブルクへの移籍を決めた。

「本当に進歩しているし、ああいうクラブをみんなが目指すようになる。欧州サッカー界で日本のオーナーが結構増えてきている。そういう企業がどんどん成功していくと面白いですよね。サッカー界ももっと盛り上がるなと思います」

 そのシント=トロイデンが今季、クラブ史上初となるヨーロッパリーグ(EL)出場権を獲得した。もし今後、欧州カップ戦の常連となれば、その価値はさらに大きくなる。日本から直接、欧州の舞台を目指せるクラブが生まれることになるからだ。

「今までは『いや、シント=トロイデンか』って思われていたのが、そうじゃなくなってくる。やっぱりイメージを変えたのは大きい」

 ELで戦う姿を見せることができれば、その変化はさらに加速するだろう。

「クラブも、地域の人たちも感謝すると思うんですよね。そういうところでも楽しみができますから。マインツでもそうですけど、カンファレンスリーグ(ECL)に出るだけでもすんごく盛り上がる。みんなでアウェイゲームまで乗り込んで、楽しんで、街全体が明るくなるのって、やっぱりヨーロッパだなと思う」

 岡崎自身も、自身が監督を務めるバサラ・マインツを通じてその流れの一端を担おうとする思いも明かしてくれた。欧州カップ戦を戦うクラブになれば、求められる選手のレベルも上がる。そうすると、日本からストレートでシント=トロイデンへ行くハードルもぐっと上がる。となるとこれまでシント=トロイデンが担っていた役割を引き継ぐクラブが必要になってくる。

「僕らバサラもブンデスリーガクラブのマインツ05と提携をしてつながりができました。ここからしっかりピラミッドを作れば、シント=トロイデンに次ぐクラブになると思います。まだ道のりは長いですけど、僕らがドイツ3部に行けば、かなり貢献できるようになる」

 シント=トロイデンの成功は、一クラブの躍進として語るだけではもったいない。日本人選手が欧州へ挑戦することはすでに当たり前の時代になった。今起きている変化は、その先だ。

 日本人がクラブを運営し、日本人が育て、日本人が世界へ送り出す。そしてそこで磨かれた選手たちが日本代表を支える。もはやシント=トロイデンは、日本代表を支える育成・強化システムの一部になっているとも言えるかもしれない。今後はさらに様々な方面へ、ポジティブな影響を及ぼすはずだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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