ハット達成のメッシは「時間を操る男」 走行距離はGK並…最多得点に並ぶ「全開はこんなもんじゃない」

「戦術メッシ」が連覇を成し遂げるか
また、メッシの大会になるのか――。それほど、鮮烈なハットトリックだった。史上初めて6大会出場を果たしたアルゼンチンのFWリオネル・メッシ。代表通算200試合目のメモリアルマッチで異次元の輝きを見せた。前半17分に左足で先制ゴールを突き刺すと、後半15分にはゴール前のこぼれ球を右足で押し込み加点。同31分には再び左足を振り抜き、3-0の勝利に導いた。
エムバペのような圧倒的なスピードも、ハーランドのような並外れた身体能力もない。それでも、いとも簡単にボールをゴールへと運ぶ。この日の3得点で、ドイツのクローゼが持つW杯通算最多得点「16」にも並んだ。
相変わらず走らない。最前線やや右寄りで、ゆっくり歩きながらパスを待つ。中盤まで下がってボールを持つこともあるが、時には立ち止まったまま微動だにしないこともある。チームメートや相手選手が走り回る様子を横目に泰然自若。1試合あたりの走行距離が「GK並」と言われるのも分かる。
それでも、ボールを持つと速い。一瞬のスピードでパスを受けると、軽いタッチで相手をかわし、素早く左足を振り抜く。メッシの回りだけゆっくり流れていた時間が、急に速くなる。ボールだけでなく、まるで時間も操っているようだ。
他の10人は、メッシのために労を惜しまず動く。ボール保持率でアルジェリアに上回られても、強固な守備で粘る。ボールを持てばメッシの横を全力で駆け上がり、エースのためにスペースを作る。そして、最後のゴールを託す。シュート数10本のうち、6本がメッシ。絶対的なエースを最大限に生かすのがアルゼンチン流。だからこそ「戦術メッシ」なのだ。
マラドーナの時代も同じだった。10人がマラドーナのために献身的に動き回り、最後はエースに託す。30年前のW杯メキシコ大会を制したアルゼンチン。「戦術マラドーナ」も、頂点に立つための立派な戦い方だった。
この日のメッシで、W杯でのハットトリック達成者は延べ55人になった。アルゼンチンの選手は7人でドイツ(西ドイツ含む)と並んで最多だ。チームの総得点はドイツが1.5倍以上だから、アルゼンチンの達成者の多さは顕著だといえる。
1978年の初優勝の時は、この試合をスタンド観戦していたマリオ・ケンペスがいた。86年にはマラドーナ、そして前回はメッシ。再びメッシで連覇を達成するのか。
心配なのは1次リーグ初戦から爆発したこと。過去、1次リーグでハットトリックを達成して優勝まで駆け上がったのは、14年大会のトーマス・ミュラー(ドイツ)しかいない。決勝まで8試合、今からエンジン全開で持つのか。「いや、メッシの全開はこんなもんじゃない」のならいいのだけれど。
(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。















