日本はオランダと互角に戦えたのか 期待値「0.63対0.34」…1.85倍が示す劇的ドローの実像

[図1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図1]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

連載「北中米ワールドカップData Lab.」第3回、オランダvs日本データ分析

 北中米ワールドカップ(W杯)の激闘の裏側で、何が起きているのか――。史上初の3か国共催、出場48チームが全104試合を戦う世界最高峰の舞台を、FIFAが試合後に公開するデータを最新AIで読み込みながら、アナリストが分析していく連載「北中米ワールドカップData Lab.」。日本時間6月15日に行われたグループステージ初戦で、森保一監督率いる日本代表は強豪オランダと2-2で引き分けた。2度リードを許しながらも後半43分に追いついた白熱の一戦を、FIFAが試合後に公開した「Post Match Summary Report」をもとに分析。近年、データ指標として注目を集めているxG(ゴール期待値)から、勝ち点1を分け合ったW杯初戦を振り返った。(文=森本美行)

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 日本代表にとって重要なW杯初戦で、グループ最大のライバルであるオランダを相手に2度リードを許しながらも追いつき、勝ち点1を手にした意味は大きい。ただし2-2のスコアだけを見て、両者が「互角だった」という評価を下すのは早計だろう。ここではFIFA公式のデータをもとに、客観的な視点で日本の課題と良かった点を分析してみたい。

 今回のW杯からFIFAの「Post Match Summary Report」では、xG(ゴール期待値)がゴール数の次に表示されることになった。サッカーにおける得点は、今回の日本の鎌田大地の同点弾のように、狙いとはやや異なる形から偶然決まることが多々ある。xGとは少なくても、過去10年間で記録された数十万とも数百万とも言われるシュート数をサンプルに、ゴールに結びついた位置、ゴールからの距離、角度、相手選手との距離やその他の状況などから算出したもので、「偶然」の要素が極力排除されている。そうした意味では、実際の試合結果とは別に、チーム本来の実力を示すデータとも言える。

 この試合におけるオランダのxGは「0.63」、日本は「0.34」だった。両チームのxGの合計はわずか「0.97」。そこから計4ゴールが生まれた。

 オランダは0.63のxGに対し2得点(差分+1.37)、日本は0.34のxGに対し2得点(差分+1.66)。両チームとも、データ上ではそれほど高い確率でゴールが決まる状況ではないなか、シュート技術あるいは運によってゴールに結びつけた。2-2という結果だけを見れば「互角の実力」、後半のハイドレーションブレーク後に見せた攻勢から「日本が勝てた試合だった」とも受け取られがちだが、xGベースで見れば、オランダは日本に1.85倍の差をつけていた。

 オランダと日本のxGに差があった理由の一つが、シュート位置だ。[図1]のとおり、オランダのシュート10本は、すべてが得点の80%強を占めるペナルティーエリア内からだったのに対し、日本は9本中5本のみだった。

[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

オランダはゴール正面でもハイクロスからのシュートが多かった

 10本中10本がペナルティーエリア内、それもゴールデンゾーンと呼ばれる正面からのシュートが7本もある状況で、オランダのxGが0.63と思ったほど高くならなかった理由についても見ておく必要がある。それはシュートを打ったときの「状況」だ。

 まずFIFAのシュート表(Attempts at Goal)と、それをサポートする形で独自に取得したシュートシーンのデータで分かったことは、オランダは10本のシュートのうち8本がペナルティーエリア内でのワンタッチシュートで、そのうち6本がハイクロスからのヘディングシュートだった。直前のプレーがハイクロスで、それを競り合いながら頭で合わせるシュートは難易度が高く、xGを下げる要因となる。こうした形のシュートが多かったことが、オランダのシュート1本あたりのxGがそれほど高くならなかった理由だ。

 しかし日本は、6本のハイクロス中2本をフリーでシュートさせてしまい、そのうち1本がファン・ダイクの得点に結びついた。「xGが低い=相手チームにとっては必ずしも危険ではない状況」であっても、高さ、強さ、クロスの精度を武器にしているチームに対して、一瞬でも気を緩めるとそれが命取りとなる。

 日本はシュートの位置に加え、9本のシュート中8本がオランダのDFがいてゴールがブロックされている状況だったことが、xGがわずか0.34に抑えられた要因だ。しかし、その状況を逆手に取り、相手GKにとって来ないはずのコースから得点を決めた中村敬斗の技術の高さはワールドクラスと言える。しかし、この鮮烈な一撃は中村へのマークを今後厳しくするものになるだろう。そのなかでチームとして、いかに再現性高く得点の確率が高いエリアに中村を侵入させ、相手が寄せ切る時間を与えずに足を振らせる状況を作っていけるかが今後のポイントになる。

 また時系列にデータを見ていくと、平均値だけでは見えなかった別の構図が浮かび上がることがある。

 その一つがシュートを打った時間帯だ。日本の9本のシュートのうち5本は、後半21分以降(後半21分、29分、32分、34分、43分)に集中している。そしてこの時間帯は、日本ベンチが動いたタイミングと重なる。日本は後半21分に前田大然→伊東純也、同30分に久保建英、堂安律、渡辺剛を下げて菅原由勢、小川航基、冨安健洋を同時投入、同39分に上田綺世→塩貝健人と交代している。

 オランダが守備固めに入った、疲弊してきた状況ではあるものの、投入された選手が試合の流れを変えたことは間違いない。世界的なデータ会社「OPTA」では、試合の流れを表現する「Match momentum」というデータを出している。それを見ると、この試合ではほとんどの時間帯がオランダの流れだったが、後半33分から小川→鎌田で得点した後の同45分までは日本の流れだったことがはっきりと示されていた。つまり同30分の3枚代えと、その9分前に投入された伊東の躍動が、試合の流れ(Momentum)を大きく動かしたことは間違いない。

[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2026「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

「1.85倍差」に見えた日本の守備面の課題

 そして勝ち点1の獲得となった初戦は、日本に明確な課題も示してくれた。日本のxG=0.34というデータは、次戦以降も同様にラッキーな得点、確率の低いスーパーゴールが繰り返し生まれることを期待できる根拠が、極めて薄いことを意味する。

 一方でオランダが記録した、日本の1.85倍にあたる0.63というxGは、森保ジャパンの守備面に課題があることを意味する。日本の316回というプレスの数(オランダは194回)に対し、ボール回収までの時間は22.26秒(オランダは14.25秒)、Forced Turnovers(相手にプレスをかけてボール奪取するプレー)は28回(オランダは33回)。これらのデータは、守備の効果及び効率性における日本の課題を示している。

 森保ジャパンが今大会で、優勝という目標に向かって勝利を重ねていくには、攻撃面では流れのなかで得点の確率が高いゾーンへ侵入する形の再現性を高めていくことが重要だ。そして守備面では、行くところと耐えるところの明確な判断をチーム内で共有し、効率を高め、限りなく相手のゴール期待値を下げることだ。

 2-2という結果に終わったW杯初戦の引き分けを、日本にとって順風満帆な船出と見るのか、それとも攻撃、守備の両面で再調整の必要性を迫られている警告と受け取るのか――。偶然の要素を排除したデータが、「0.63対0.34」という数値を示した試合であったことを忘れてはいけない。

(森本美行/Miyuki Morimoto)



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森本美行

森本美行
もりもと・みゆき/1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2002年にスポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアム株式会社の代表取締役に就任。16年には日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの代表取締役及び一般社団法人日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。またJリーグのヴィッセル神戸や東京ヴェルディ1969、京都サンガF.C.などでトップチームのアナリストを歴任。鈴鹿ポイントゲッターズや慶応義塾大学体育会ソッカー部などでは、コーチとして選手を指導した。現在は横浜FCでデータ戦略アドバイザー、ヴィアティン三重のデータアナリストを務めている。

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