史上唯一「一度認定されたゴールが覆った」 W杯の歴史に残る珍事…ピッチに降りた「VIP」

W杯で起きた事件を紹介【写真:ロイター】
W杯で起きた事件を紹介【写真:ロイター】

スタンドからの笛の音で守備放棄…激怒した王子の“鶴の一声”

 1930年の創設から、これまで数々のドラマや信じがたいハプニングを生み出してきたFIFAワールドカップ(W杯)。4年に一度、国の威信を懸けて激突する祭典で起きた衝撃の出来事を振り返る「W杯事件簿」。今回は、1982年スペイン大会で発生した、W杯史上類を見ない「VIPによる試合介入事件」を振り返る。貴賓席で観戦していた“王子”の猛抗議によって、一度認められたゴールが覆るという前代未聞の珍事が起きていた。

【PR】ABEMA de DAZN、2/6開幕『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』全試合生配信!毎節厳選6試合は無料!

 事件の舞台となったのは、グループリーグのフランス対クウェート戦。格上のフランスが順当に主導権を握り、3-1とリードして迎えた後半35分だった。

 フランスのMFアラン・ジレスが抜け出し、ダメ押しとなる4点目をゴールネットに突き刺す。主審も当然のようにゴールを認定したが、これにクウェートの選手たちが猛抗議を始めた。実はこの直前、スタンドの観客が吹いた笛の音がピッチに響き渡っており、クウェートの選手たちはこれを主審の笛(プレーの中断)だと勘違いし、完全に足を止めてしまっていたのだ。

 もちろん、観客の笛でプレーを止めた選手たちの過失であり、通常であればゴールはそのまま認められる。しかし、ここで信じられない光景が広がる。貴賓席で試合を観戦していたクウェートサッカー協会会長であり、同国の王族であるシェイク・ファハド氏(ファハド王子)が、怒りを露わにしながらスタンドからピッチへと降りてきたのだ。

 ピッチへ侵入したファハド王子は、自国の選手たちを引き揚げさせようとする素振りを見せながら、主審に対して猛烈な抗議を展開。すると、王子の凄まじい剣幕と権力に押されたのか、なんと主審はフランスのゴールを即座に取り消してしまったのだ。

 2018年ロシア大会でVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が正式導入されるまで、W杯の長い歴史において「一度認定されたゴールが覆った」のは、後にも先にもこの一件のみである。

 試合はその後再開され、結果的にフランスが正真正銘の追加点を奪って4-1で勝利を収めた。しかし、この一連の騒動を国際サッカー連盟(FIFA)が黙って見過ごすはずがなく、王子の圧力に屈して判定を覆した主審には資格停止処分、ファハド王子には警告、そしてクウェートサッカー協会には罰金という厳重な処分が下された。

 W杯の歴史に強烈なインパクトを残したファハド王子。権力を振りかざした「お騒がせVIP」として語り継がれる彼だが、その結末はあまりにも悲痛なものだった。スペイン大会から8年後の1990年、イラク軍によるクウェート侵攻の際、自国を守るために宮殿で銃を手に戦い、壮絶な戦死を遂げている。ピッチ上の珍事と、その後の残酷な現実。サッカーと国際情勢が交錯した、W杯にまつわる忘れがたい1ページである。

(FOOTBALL ZONE編集部)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング