いなくなって気付いた「海舟がいたら」 森保Jを見て確信…プレーで体現する「継続は力なり」

高校時代の佐野を知る3人が語る実像
5月15日、北中米ワールドカップ(W杯)のメンバー発表の時。城市徳之総監督は学校の業務をこなしていた。森保一監督の会見は冒頭しか見ることができず、仕事を終えた後にネットニュースを開いて、教え子である佐野海舟のメンバー入りを知った。(取材・文=安藤隆人/全4回の4回目)
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「自分の教え子からW杯で戦う選手が出ることは本当に夢でした。その夢を叶えてくれた(昌子)源には本当に感謝しているし、本当にギラついた目を持って、与えられた環境で全力でサッカーに打ち込めば、この道も切り開かれることを証明してくれた。そして、その道を目の当たりにした海舟が同じ険しい道を登って行ったのは、本当に感動するというか、心から嬉しい」
こう話すと、1つの写真を見せてくれた。それは佐野が多くの報道陣に囲まれている写真。彼が高校3年生の時、ロシアW杯の学校内パブリックビューイングの後のものだった。
偉大な先輩の晴れ姿を他の部員と一緒に応援しながら、羨望の眼差しを送る佐野。写真は、CBとして躍動する昌子の姿に刺激を受けた後に、報道陣から感想を求められた時の様子だった。それを見て、城市は「ここで応援していた海舟が、今度は同じように後輩に応援されるようになるんだな……」と呟く。その声は少しだけ震えていた。
北中米W杯メンバー発表の日、中村真吾監督はプレミアリーグWEST第8節のアウェイ・サガン鳥栖U-18戦を翌日に控え、佐賀市内にいた。発表の時間に合わせて全体練習を終え、選手たちと一緒に宿舎の一室に集まって発表会見を見ていた。「佐野海舟」の名前が呼ばれた瞬間、選手たちからは歓声が上がり、中村はその姿を後ろから温かな眼差しで眺めていた。
「めちゃくちゃ嬉しかったですね。同時に、昌子源がロシアW杯でプレーする姿を学校で見て、海舟が刺激を受けて背中を追いかけて行ったように、この中の誰かが海舟の姿を見て刺激を受けて将来に進んで行ってほしいなと思いました。その思いもあって、選手たちに発表の瞬間は見せないといけないなと思いました」
こうして米子北史上2人目のW杯選手が誕生した。ある1人の選手の努力の軌跡、そして眩い光を放つステージに努力で駆け上がっていく様は、人々に大きな影響を与える。言ってしまえば、それこそスポーツが持つ魅力でもある。それが青春時代に深く関わった人間であれば、影響はより大きなものになる。
いま、26歳のコーチとして島根県の開星高サッカー部を指導している城市太志は、高校生たちに向き合えば向き合うほど、1歳下の後輩の凄さを痛感し、自身の指導にも大きな影響があるという。
「練習では一切手を抜かない。一番上手い選手がそういう姿勢なのだから、他の選手も手を抜けない。そんな雰囲気がチームを1つにしていた。だからこそ、僕も試合に出ている選手たちに『頑張らない理由はないぞ』といつも伝えています」
中村にとっても佐野の存在は大きな学びであり、刺激になっている。
「彼には『継続は力なり』の本当の意味を教えてもらっています。どんな時も自分の信念を一切曲げない。その曲げない強さの源は、絶え間なくあふれ出る向上心。上手くなりたいという気持ちを常に持っているから、性格は人それぞれ違うけど、正しい努力を地道にこなすことができる。海舟は決して派手ではないかもしれないけど、みんなから必要とされる選手。僕自身も海舟が卒業していなくなった途端に、『海舟がいたら』と思うシーンが一気に増えた。彼がいたから守備から攻撃がすぐつながったり、守備で耐えたりすることができていた。セカンドボールの回収率の異常な高さに、いなくなって初めて気付くんです。『あの時は気付かなかったけど、あらゆることをやってくれていたんだな』と。指導者としても気付きが増えたし、引き出しを広げてくれた選手の1人だと思います」
離れてもなお、心の中で絶大な存在感を放ち続ける佐野海舟。北中米W杯に挑む彼に、3人はこうエールを送った。
「森保一監督のサッカーがポゼッション主体から縦にも速く攻めるスタイルに少し変化が加わった時に、『海舟は必要とされる』という確信はありました。理由は奪う力、繋ぐ力だけでなく、いつどんな時もフォア・ザ・チームで安定して戦えること。それを見事に現実のものにしてくれた海舟は本当に凄い。W杯で躍動する姿を見たウチの選手たちから、第2の佐野海舟が出ることを願っています」(城市総監督)
「ロシアW杯のベルギー戦で、源が最後の最後まで諦めないで全力で相手を追いかけた。結果的には決勝ゴールを与えてしまいましたが、あそこで最後まで走り切ったことは、今でも僕の中では『誇り』だと思っています。だからこそ、海舟もチームのために最後の最後まで走り切ってほしいと思っています」(中村監督)
「僕らの代の3年生全員は今も佐野海舟という人間と一緒にサッカーができたことに感謝しています。彼が大きくなればなるほど、より感謝の念が生まれる。今の海舟はプレーの形は高校のままで、全てにおいて強度とスピードが上がって、それを世界で表現しているイメージ。それだけ強い信念を貫き通しているからこそ、僕もずっと刺激を受けますし、どんな時も応援しています」(城市太志)
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

















