日本代表に求められる「カメレオンのように」 スター依存は諸刃の剣…王者が示した「-15%」

[図1]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図1]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

連載「北中米ワールドカップData Lab.」第2回、2022年カタール大会で見えた傾向(後編)

 北中米ワールドカップ(W杯)の激闘の裏側で、何が起きているのか――。史上初の3か国共催、出場48チームが全104試合を戦う世界最高峰の舞台を、FIFAが試合後に公開するデータを最新AIで読み込みながら、アナリストが分析していく連載「北中米ワールドカップData Lab.」。前回に続き、今回も2022年カタールW杯でFIFAが公開した「Post Match Summary Report」をもとに4年前の傾向を分析。決勝トーナメントを勝ち上がったチームに共通する姿が見えてきた。(文=森本美行)

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 近年、試合中の動きを取るトラッキングデータの進歩が著しい。

 一つ目はスタジアムに複数の高精度カメラを設置し、選手とボールを自動追尾するOptical tracking方式だ。これは1秒間に30回ほどの頻度で選手の位置情報を取るのだが、これまでは選手同士が重なり合った時は人が修正していたが、今はAIが自動で選手の判別を行っている。Jリーグ及び今回のW杯では、この方式を採用している。

 もう一つは、WearableのデバイスでGPSから動きを取得するもので、デバイスによっては心拍数まで測定するものもある。個々のプレーヤーの走る距離、スピード、加減速など動きに関してはかなり細かなデータの取得が可能で、選手やチームのコンディション管理には向くが、ゴール方向、走行の目的、どこでボールを受けたかといった試合に関わるデータではないので、戦術分析には向かない。

 最近、サッカーの現場ではインテンシティ(強度)という言葉をよく耳にする。その言葉には競り合い、ぶつかり合いといった文字通りの“強度”に加え、相手に走り負けない“走力”や“スピード”も含まれている。

 では、より多く走ったチームは、勝利という結果を手にできているのか。

 2025年シーズンのJ1リーグで優勝した鹿島アントラーズの1試合あたりの平均走行距離は112.1キロで、これは20チーム中16位の数値。4位のサンフレッチェ広島においては110.5キロで、最下位の横浜FCの次に少なかった。

 同じように、2022年カタールW杯のデータを見てみよう。[図1]を見る限り、ベスト16以降は、より走っていないチームの成績が良くなっていた。

 その傾向はZone4(時速20~25キロ)の高速走行で、より顕著になっている。誤解を恐れずに言えば、頑張って走ったチームが必ずしも強かったわけではなく、大事なところや危険なところを見極めて決定的な仕事をしたチーム、相手にさせなかったチームが結果を出していたと言える。トラッキングデータで示される走行距離のデータを「強度の証明」として見るのではなく、「試合をコントロールした主導権の証明」として見ることが大事だ。

[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図2]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

輝く“個”は重要か、スター依存は諸刃の剣

 W杯で日本代表がベスト8の壁に阻まれるたびに、その要因として“個”の能力や質を挙げる声は多い。

 その課題に取り組むために多くの選手が海を渡り、近年はより高いレベルのリーグやクラブに所属。今や多くの日本代表選手が、単に海外でプレーするのではなく、チームの中核を担い始めている。上田綺世は今季、日本人選手として初めてオランダ・エールディビジで得点王に輝いた。

 それではW杯で優勝するためには、“輝く個”の存在は重要なのか。

[図2]はチームの輝く個の代表と言えるストライカーが、チーム全体のシュート数のうち、どのくらいの比率を占めたかを示したものだ。

 アルゼンチン代表FWリオネル・メッシ、フランス代表FWキリアン・ムバッペのシュート比率は30%を超えている。アルゼンチン、フランス以上に個に頼ったチームも4チームあったが、それらのチームはすべてグループステージで敗退している。

 一方、ブラジル(14.4%)、ポルトガル(16.1%)、モロッコ(16.7%)と分散型の強豪はベスト8、ベスト4まで進んだが、その先には進めなかった。決勝カード(アルゼンチンvsフランス)を見る限り、最後は輝く“個”がいたチームが決勝に残った。チームとしてゴールを決めるための複数のオプションを持ちながらも、最後は決定的な仕事ができる選手の存在は今大会でも重要になるはずだ。

[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成
[図3]出典:FIFA WORLD CUP 2022「Post Match Summary Report」のデータをもとにAIで作成

日本代表は真の「カメレオン」になれるか

 森保監督はカメレオンのように、状況に応じて戦術を変えていくことの重要性を口にしている。それは相手に合わせて柔軟に戦術やシステムを変えていくことを示している。

 戦術の高度化に伴い、どのような状況であればどこで誰を使うことが効果的かなど、試合中の修正力、進化を非常に重要視していることの証明だ。

[図3]のデータを見ると、前回大会では優勝したアルゼンチンの変化が最も著しい。ポゼッション率が60.1%→44.7%(-15.4%)と大きく変化する一方、得点は1試合あたり1.7→2.5に増加した。ローブロックも12.7→18.2%と上昇しており、「保持を捨てて効率を取る」戦術に転換したことが分かる。

 同様に準優勝フランスのポゼッション率も52%→40%、オランダも49%→39.5%と減少。前回王者も含めて、決勝トーナメントでは「持たせて刺す」スタイルに寄せた。一方、クロアチア、ポルトガルは保持するスタイルから変えることができず、モロッコもそれ以上の変化が難しい状況のままだったが、それでもアフリカ勢として初のベスト4を達成したことは大いに評価できる。

 森保監督率いる日本代表は、15日の早朝5時(日本時間)にオランダとのW杯初戦に臨む。今大会ではいくつかのルール変更が行われ、それが先日の壮行試合のように良い面で作用する場合もあれば、その逆もあり得る。当然そうした変化は、データにも表れるはずだ。映像からだけでは感じられない試合の綾を、データから紐解いていければと思う。

(森本美行/Miyuki Morimoto)



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森本美行

森本美行
もりもと・みゆき/1961年生まれ。92年米ボストン大学経営大学院でMBAを取得。2002年にスポーツデータ配信や分析を行うデータスタジアム株式会社の代表取締役に就任。16年には日本初の野球独立リーグ四国アイランドリーグplusを運営する株式会社IBLJの代表取締役及び一般社団法人日本独立リーグ野球機構の常務理事を務めた。またJリーグのヴィッセル神戸や東京ヴェルディ1969、京都サンガF.C.などでトップチームのアナリストを歴任。鈴鹿ポイントゲッターズや慶応義塾大学体育会ソッカー部などでは、コーチとして選手を指導した。現在は横浜FCでデータ戦略アドバイザー、ヴィアティン三重のデータアナリストを務めている。

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