W杯の「聖地」に残り続ける伝説 “神の手”はもう生まれない…変わりゆく大会の形

W杯を盛り上げたレジェンドたち【写真:アフロ】
W杯を盛り上げたレジェンドたち【写真:アフロ】

北中米W杯で感じた「聖地」の雰囲気

「聖地」の雰囲気はテレビ画面を通しても伝わってきた。史上最大のW杯が始まった。開幕戦のメキシコ対チェコが行われたのは、W杯の伝説を数多く生んできたメキシコシティのアステカスタジアム。史上初めて3大会で試合が行わるスタジアムは、改装されて近代的になったとはいえ「最もW杯が似合う競技場」と言ってもいい。

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 1970年大会、ペレのブラジルが3度目の優勝を果たし、ピッチの中でサポーターに肩車されて喜びを爆発させた。西ドイツのベッケンバウアーはイタリアとの準決勝の試合中に右肩を脱臼。すでに2人の交代枠を使っていたため包帯で腕を吊ったままプレーした。

 86年大会はマラドーナの大会だった。イングランドの準々決勝では「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」を決め、決勝で西ドイツを破って優勝した。

 日本にとっても忘れ難いスタジアム。W杯ではないが、68年メキシコ五輪3位決定戦で地元メキシコと対戦し、釜本邦茂のゴールで勝って銅メダルを獲得した。日本サッカー栄光の瞬間も、アステカスタジアムが舞台だった。

 そんな思いに浸りながら見る開幕戦は、これまでのW杯では見慣れないことが多かった。試合開始前、スタメン11人ではなく登録選手26人が半円状に並んで歌う国家、今大会すべての試合で義務化された飲水タイム、5秒ルール、10秒ルール……。変化は急だ。

 いつも開幕戦で気になるのは、この試合の主審の判定が、その後の試合のスタンダードになるということ。前回大会までは影響するのはその後の63試合だが、今回は103試合。これまで以上に重要な開幕戦といっていい。

 気になったのは、いきなり3人もの退場者が出たこと。開幕戦では初のことだという。少しジャッジが厳しいかなとも感じたが、VARで厳格に判断しているのだから仕方がないとも思う。ただ、これがスタンダードになってレッドカードが乱発されるような大会にはなってほしくないとは思うが。

 初めての3か国共催、過去最多の48か国出場、最長の39日間、W杯が新しい時代に入ったことは間違いない。運営やルールなど、大きく変わった。それが競技の進化であり、大会の進歩であると思いたい。

 マラドーナは6年前に亡くなった。前回カタール大会終了後から昨年までにペレ、ベッケンバウアー、そして釜本さんも天国へと召された。アステカで伝説を作った英雄たちとともに「かつてのW杯」も変わっていった。

 サポーターが選手を肩車することはないし、今の交代枠なら脱臼でプレーを続ける可能性も少ない。もちろん「神の手ゴール」などテクノロジーが見逃さない。だからこそ、アステカで生まれた伝説は伝説のままで生き続ける。

 どんな大会になるのか。開幕戦を終えて楽しみでもあり、恐ろしい気持ちにもなる。日本代表とともに「最高の景色」を見られることを願いつつ、素晴らしい試合を数多く楽しみたい。4年に1回のサッカーの祭典は始まったばかり、今回は特にゴールまでが長い。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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