突然の電話「相談しなくてすみません」 恩師が語る鈴木淳之介の素顔「悪い声を一切聞かない」

帝京大可児高・仲井正剛監督が語る鈴木淳之介への期待
日本代表として北中米ワールドカップ(W杯)に挑むDF鈴木淳之介。彼が歩んできた道のりを、恩師である帝京大可児高の仲井正剛監督はどのように見てきたのか。プロ入り後のコンバートを機に飛躍を遂げ、海外移籍、そして日本代表選出と、瞬く間に大舞台への階段を駆け上がっていった教え子の背景には、高校時代から変わらず磨き続けてきた「傾聴力」と「当事者意識」があった。恩師すらも驚かせる移籍時の事後報告エピソードや、あえて“4年後”の姿に最大の期待を寄せる親心など、今なお進化を続ける教え子への尽きない思いを明かしてくれた。(取材・文=安藤隆人/全4回の4回目)
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一気に日本トップレベルの選手へと駆け上がって行った教え子の姿を見て、改めて学んだことがあると仲井は言う。
「プロ3年目でCBにコンバートをされて飛躍したのも、ただポジションを移したからよくなっただけではなく、これまで彼が培ってきた傾聴力が生きたのだと思いましたね。おそらくベルマーレでも自分に言われたことだけではなく、他の選手に言っていたことも目を向けて聞いていたのでしょう」
仲井がこれまで何度も口にしてきた鈴木の「傾聴力」の高さ。どんな困難に直面しようと、その武器は大きな意味を持つ。
「だからこそ、いざCBをやるとなっても動きのイメージや山口監督が求めていることも理解していたのですんなりと順応することができたのだと思います。彼の頭の中には常に『もし自分だったら』という当事者意識があって、その視点で人の話を聞くので頭に入るし、自分の引き出しになっていく。日本代表で3バックをやっても、コペンハーゲンでサイドバックをやっても、ハイレベルなプレーをしっかりとこなせる。今の彼ならボランチをやってもプロ1、2年目とは全く違うプレーができると思います」
昨年10月に東京スタジアムで行われたブラジル戦の後、母校にやってきた鈴木と久しぶりにじっくり話したという。当初、仲井は鈴木に「学校に代表ユニフォームとコペンハーゲンのユニフォームを送ってほしい」と伝えていたというのが、鈴木が「郵送では申し訳ないので、届けに行きます」と、わざわざ足を運んでくれた。
「後輩たちには大きな刺激になったと思いますし、久しぶりに直接話をして、ブラジル戦で2本決定的なミスを指摘したら、『わかっています。今までリーグやCLでも感じたことがないスピード感で、立ち上がりはヤバイと思いました』と素直に答えていました。あのミスが失点に繋がっていたら、叩かれていたかもしれないので、そこは周りに助けられましたが、それ以降のプレーはどんどん対応力が上がって、終盤以降は存在感が立ち上がりと全然違った。90分の間ですぐに対応して持ち味を出せるようになったことが凄いと思いましたし、『レベルの高い経験を積めばもっと伸びるな』と思いました」
一気にシンデレラストーリーを歩んで行ったように見える教え子の姿。だが、それはきっかけが続いただけで、ベースにある「傾聴力」を磨き続け、常に当事者意識を持って他責にせずに自己研鑽を積み重ねて来たからこその成長曲線だった。
晴れ舞台に臨む教え子はW杯メンバーに選ばれたからと言って一切浮かれてはいないし、これまで通り一本の太い芯を持って行動している。それを分かっているからこそ、仲井も冷静に、鈴木のこれからへの思いを口にした。
「僕は今回のW杯を経験するだけでも、彼にとって大きな財産になると思っています。ディフェンスの選手だからこそ、これから円熟味を増していって、4年後の27歳になったに一番脂が乗った時期になると思いますし、そこからさらにベテランDFへと成長していくと思っています。だからこそ、今回ではなく、その次のW杯で一番プレーが熟してきている彼を現地で見たいと思っています。もちろん今大会で1分でも出場してほしいし、活躍をしてほしいという思いはありますが、現状を見ると伊藤洋輝選手が素晴らしくて、守れるし、運べるし、展開出来るし、本当に全ての能力が高い。彼と比べたらまだまだ足りない部分があると思うので、彼からもっと刺激を受けて、W杯という舞台からも刺激を受けて成長をしていってほしいと思っています」
今がピークではない。これから先、まだまだ乗り越えないといけない壁があるし、それを超えて成長するだけの能力と人間性があることを誰よりも理解しているからこそ、仲井は未来に大きな期待を寄せている。最後に今も変わらない人間性と関係性を象徴するエピソードを教えてくれた。
「僕は教え子の連絡先を聞かないんです。なので、コペンハーゲンに移籍が決まった時に知らない番号から電話がかかって来て出てみたら、『淳之介です。ベルマーレからデンマークのコペンハーゲンへの移籍が決まりました。相談を一切しなくてすみません』と言われたんです。相変わらず自分で考えて、決断をして、決して多くを語らない子なんだなと思いましたし、今回もたぶん、『選ばれました』とか周りに言っていないんじゃないかな。それが彼の良さだし、周りからも『あいつは調子に乗っている』など悪い声を一切聞かない。口数は少なくても、傾聴力と利他精神があるからこそ、どこに行っても信頼される。その魅力があれば十分だと思います」
23歳と年齢的には若いが、まるでベテランのような安定感をもたらす鈴木は、間違いなく今大会だけではなく、これからの日本の重要なキーマンになるだろう。その未来を楽しみにしながら、仲井は今もグラウンドに立って日本の将来を担う高校生たちと向き合っている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。














