昨季13G→今季まさかのゼロ 中村憲剛が助言…エースがぶち当たった課題「だいぶ整理された」

川崎の伊藤達哉【写真:徳原隆元】
川崎の伊藤達哉【写真:徳原隆元】

川崎FW伊藤達哉は特別リーグでゼロゴール

 5月20日、柔らかな日差しが照らす麻生グラウンドのピッチ。練習を終えた伊藤達哉に声をかけた。

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 昨年はリーグ13得点。チームの得点源として君臨したドリブラーが、この百年構想リーグにおいて、ゴールが生まれていなかった。怪我に泣いたわけでも、ベンチを温め続けているわけでもない。ピッチにはコンスタントに立ち続けている。にもかかわらず、歓喜の瞬間が訪れない日々を過ごしている。そして無得点のまま、ハーフシーズンも終わりが近づいている。

 いま、伊藤達哉は何を考えているのか。単刀直入にぶつけてみた。

「体が動く感じはありました。若干(動く時期が)遅いなとは思うんですけど、でもなんだろうな……色々と考えながらやっていたので、それはだいぶ整理されたのかなと思う」

 話す表情が明るいのは、感覚が戻りつつあるからだろう。

 実際、伊藤のプレーには変化の兆しが現れ始めていた。第16節の柏レイソル戦で後半からシャドーの位置に投入されると、ゴール前への鋭いランニングで2本の決定機に顔を出した。第17節のFC町田ゼルビア戦でも、右サイドで停滞していた攻撃の回路を、自らの仕掛けと山原怜音との連係で強引に開通させてみせた。

 では、伊藤が手繰り寄せた「整理」の正体とは何だったのか。

「色々あります」

 言葉を濁したが、「ひとつだけ教えてほしい」と食い下がると、視線を真っ直ぐにこちらへ向け、核心のワードを口にした。

「オフ・ザ・ボールの動き、です」

 そう言って説明をし始める。

「僕は元々は、オフ・ザ・ボールが得意な方ではなかったんですけど、普通に色々やっています。今年は、自分にボールが入った瞬間の相手の構えてる感じというか、『絶対にやらせないぞ』っていう気持ちを感じることが多かった。だいたい2人いるのをなんとなく感じてて、それで、ちょっとやりづらいなってのはあったんです。だから、オフ・ザ・ボールのところをやって、自分にボールが入った時に楽になるように。この間の試合で意識してみたら、ボールが入った時点でのシチュエーションがちょっと今までと違うなというのはありました。それは今後にもいけるなって思ってます」

 昨年あれだけゴールネットを揺らした男だ。

 今年の相手チームが対策を講じないはずがない。伊藤がボールを持てば、瞬時に2人がかりの網が張られる。ならば周囲を生かすのがセオリーだが、そのコンビネーションがうまく噛み合わなかった。シーズン当初は左サイドで起用されたが、三浦颯太との呼吸がどこか合わない。右サイドに回れば、新加入の山原怜音との距離感に苦しんだ。パスが来ない、あるいはズレる。リズムを失った仕留め屋は、知らず知らずのうちに自らのステップを見失いかけていたように見えた。

 ボールを持ってからの鮮烈な仕掛けと、鋭いフィニッシュワークでスタジアムを沸かせる「個」の人間だ。しかし、複数人で構えられている守備網を攻略していくのは簡単ではない。決定力不足というよりも、シュートそのものが少なかった。ならば、ボールを「持つ前」に良い状態を作ってから、勝負を仕掛ける。オフ・ザ・ボールの鋭利化。それ以外に道はなかった。

「ケンゴさん(中村憲剛コーチ)にも言われたのですが、『去年あれだけ活躍してるから、ボールが入った時には、相手は明らかに準備して、俺がやりづらいようにはしてる。だから、ボールを持ってない時の動きで勝負しろ』と、色々と話してくれました。確かにそうだなと思って。色々と試してて、そうかもなって思ってるんすけど……でも、これからですね」

 例えば柏戦の後半、シャドーのポジションに入った伊藤が味方のクロスに鋭く飛び込んだシーン。相手GKのファインセーブに阻まれはしたものの、これまでの伊藤には見られなかったゴール前の動きだった。

「あの試合もオフ・ザ・ボールを意識していました。ランニングを増やしてみたりとか。シゲさん(長谷部茂利監督)ともよく話すんですけど、だいぶ成長というか、自分が行きたい、目指してるところには近づいていってる気はしています」

 試行錯誤の果てに、成長の手応えはある。しかし、どれだけプロセスが美しくとも、スコアボードに「数字」が刻まれなければ、周囲からは評価されない世界でもある。そのもどかしさと伊藤は戦っているが、それでも指揮官からは辛抱強く見守っていることを伝えられている。その絆は、いささかも揺らいでいない。

「毎試合色々と話しますけど、シゲさんからは『自分が試合に関わらないといけないし、俺がボールをいっぱい触らないと、良かった、悪かったで評価する前の問題だ』と言われています。ボールに触らないと、あの試合はこうだったよ、こうじゃなかったっていう前の問題だと。だから、できるだけボールに触ってほしいし、呼び込んでほしい。常に攻撃も守備も試合の中心にいてほしいっていう風に話してくれてます。この間の試合(町田戦)とかは、この百年構想の中では攻撃も守備も、一番ボールに関われていた感じはあります」

 迎えた水戸ホーリーホックとの最終節では、前半に2本のシュートを放った。最大の決定機は22分、山原とのコンビネーションで生まれた決定機だ。しかし狙い澄ましたシュートはわずかに枠を外れた。試合後、「たぶん、もうちょっと冷静に、余裕あったら、ですね。仕方ないです」と淡々と振り返る。得点はなかったが、「個人的には体は動いてるなっていう感じです」と、精力的な動きを見せて88分までピッチに立った。

 日々の積み重ねは、確実に彼を新次元へと押し上げている。だからこそゴールという結果が欲しいところだろう。残されている時間は、プレーオフの残り2試合だ。

 伊藤は言う。

「残り試合で自分の思っていることを、どれだけ確信にできるか」

 もがき抜いた先に待っているであろう成功体験。それを掴み取った時、さらにスケールアップを果たした「新しい伊藤達哉」を目撃できるはずだ。

(いしかわごう / Go Ishikawa)



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いしかわごう

いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

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