森保監督が世界を驚かせた日「あの時はしなかった」 W杯まで100日…究極の一手を導く“データ”

インタビューに応じた日本代表・森保一監督【写真:藤岡雅樹】
インタビューに応じた日本代表・森保一監督【写真:藤岡雅樹】

カタールW杯でドイツを驚かせたシステム変更

 6月11日開幕の北中米ワールドカップ(W杯)まで100日となった。「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、日本代表を率いる森保一監督のインタビューを随時配信。就任した2018年からの歩みを振り返ると共に、自身の采配面の変化について言及。集大成となる本大会への思いを語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎、小杉舞)

【PR】ABEMA de DAZN、2/6開幕『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』全試合生配信!毎節厳選6試合は無料!

   ◇   ◇   ◇ 

 2018年8月30日、日本代表監督に就任して初の代表メンバー発表は、インドネシアのホテルの小さな一室で行われた。東京五輪代表の監督を兼任しており、ジャカルタで開催中だったアジア大会にU-21代表チームを率いて参加していた。

「振り返ってみれば長くやらせていただいていますけど、その長さを全然感じないです。いつも一戦一戦って同じことを皆さんの前でも言っていて、ボキャブラリーが本当にないんですけど(笑)、目の前のことに全力を尽くす、全力疾走でやってきているので、長くやっている感覚があまりないのが正直な所で。でも長くやらせてもらっているからこそ、フェーズが変わっていることを感じた時に、次のステップに向かうチャレンジができているのかなと思います」

 全力疾走してきた7年半。今や誰もが疑わない“名将”だが、それは森保監督自身の采配によって築いてきたものだ。4-3-3のシステム変更で勝利をたぐり寄せたカタールW杯最終予選のオーストラリア戦、前半0-2のビハインドから“王国”に逆転勝ちした昨年10月のブラジル戦など、いくつものターニングポイントがあった。

 中でも世界を驚かせたのが、カタールW杯初戦でW杯3度の優勝を誇るドイツに2-1で逆転勝利した一戦だ。前半を0-1で折り返したが、スコア以上に、大差がついてもおかしくない内容だった。その状況を打破したのが、後半開始から3バックへの大胆なシステム変更だ。当時ドイツ代表で日本代表の分析官を務めていた平川聖剛氏も「完全に予想外で『やられたな』と思いましたね」とFOOTBALL ZONEのインタビューで証言している。

「たしかに、あの時は相談しなかったかもしれないですね」

 通常は当時コーチを務めていた横内昭展氏(現J2モンテディオ山形監督)とベンチで、「後半どうするか」を相談してから、ロッカールームに戻っていた。だがあの時は相談せずにロッカーに戻り、「後半は3バックで行く」ことを選手たちに伝えた。日本を勝利に導く究極の一手はどのような思考回路で生まれたのか。

「思考で言うと、勝つために戦術的変更をするというのが大前提ですけど」と前置きし、言葉を続けた。

「負けた時に何が残るんだろうって。負けた時でも残るものがなければいけないっていう考え方だったと思います。前半も0-1でしたけど、内容的には本当に力の差があるような内容になってしまった中で、後半は3バック。マンツーマンと考えてもいいかなと思いますけど、勝つために選手たちがヨーロッパでやっていて、局面局面で高いレベルでも勝っていけるという所を、フィジカル的にも、技術的にも見てきた。前半は組織的にやっていた中で責任が曖昧になっていた。対峙する相手に局面局面で勝てれば、自然といい流れになって逆転が見えてくる。負けたとしても、どういう力が足りなかったのか、技術なのか、判断スピードなのか、色々なものが出てくる。日本サッカーの現在地を知ることで、これから何を上げなければいけないか、負けた時に得られるものがあるなと」

インタビューに応じた日本代表・森保一監督【写真:藤岡雅樹】
インタビューに応じた日本代表・森保一監督【写真:藤岡雅樹】

森保監督の頭の中にある“データ”

 カタールW杯後の2期目では、練習メニューなどをコーチに任せるマネジメント型に移行した。「自分は営業と普及担当です」と笑うが、大事な場面では必ず決断を下すのは森保監督だ。判断する時の根拠は、自身の“データ”にある。

「直感を信じること?ありますよ。直感というと大袈裟ですけど、経験や過去のデータに基づいて判断していると思います。データって何かっていうと、数字のことだけではなくて、代表で活動してきた中で選手を見てきたことと、普段現地や映像で選手たちを見てきて、選手たちにはこういうプレーをしてもらおうと、想像の中で使っているのがあります。直感で言うと、時々右でやってる選手を左に持ってくるとかですね」

 昨年10月のブラジル戦でもそうだった。1点を返して迎えた後半9分に右シャドーだった久保建英に変えて、伊東純也を投入。この時、本来であれば、右ウイングバックの堂安律とポジションを入れ替えるのが“セオリー”だが、あえてそのままシャドーに入れた。その伊東が2アシストで勝利に導いた。

「それも直感という見られ方をすれば 直感になるかもしれないですけど、2人とも実際にそこをやってるんで。あの時に関してはそれまでのデータや経験から言えば、律を前にして、よりスピードがあって、上下動できる純也をワイドにっていう考えはありましたけど、あの時の律はすごく良かった。純也ももちろんディフェンスできますけど うまくいっていたことを崩す必要はないなと。であるならば、律にはそのままプレーしてもらって、フレッシュな純也には前線からプレッシャーをかけて、前線に飛び出してもらって、攻撃にも守備にもフレッシュな部分を活かしてもらえるかなと。最後は直感なんでしょうけど、いわゆる直感ってないんじゃないのかなって思いますけどね」

 7年半の時間と経験を積む中で、指揮官自身も変化してきた。サンフレッチェ広島で指揮を執っていた時代から「交代しようかな」と考えた時には、まずは「ちょっと待てよ」と戦況を冷静に見つめる。勢いだけで決断することはないからこそ、以前は「交代が遅い」と言われることもあった。

「采配においては、以前よりも決断が早くなったのはあるかもしれないですね。決断もギリギリまで考えるということが結構自分の中にはあるので、もちろん一拍置く所は変わってないですけど、『本当にやろう』という時は早くなったかもしれないですね」

 日本代表監督に就任した時は49歳だった。今では57歳になり、昨年11月のボリビア戦は日本代表監督として国際Aマッチ通算100試合目の指揮となった。コーチとして戦った2018年ロシアW杯、監督として指揮した2022年カタールW杯、そして日本史上初めて2期連続で臨む2026年北中米W杯。すべての“データ”を結集する時が来た。

「采配というか、目の前のアクシデントを受け止められるようになったかなと。よく言う『想定外も想定内』という思いは基本的には変わっていないですけど、監督経験が浅い頃と比べたら、これもあり得る あれもあり得ると想像できているのかなと。『何が起こってもおかしくない』と同じ言葉を使っていても、これまで色んなことを体感している分、より自然と受け止められるようになったかなと。個人的には自然体でやれていますし、選手も、スタッフも毎回の活動で全力を尽くしてくれている。その延長線上で戦えたら。なので、気負うことはないです」

 W杯まであと100日。成熟した指揮官に導かれ、森保ジャパンが集大成へと臨む。

(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング