ドイツから見るJリーグ「広く見える」 7年間の紆余曲折…25歳日本人が実践する「欧州の基準」
欧州で生き残る選手の思考には、どんな傾向があるのだろう。日本人選手が欧州でプレーするのは、いまや珍しい話ではない。様々な国で、様々な選手が、様々なカテゴリーでプレーをしている。ただどんなリーグでも、所属クラブで必要とされる選手として、長年プレーし続けることは簡単ではない。

ドイツ7年目の水多海斗が明かすステップアップする選手の特徴
欧州で生き残る選手の思考には、どんな傾向があるのだろう。日本人選手が欧州でプレーするのは、いまや珍しい話ではない。様々な国で、様々な選手が、様々なカテゴリーでプレーをしている。ただどんなリーグでも、所属クラブで必要とされる選手として、長年プレーし続けることは簡単ではない。
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3部のロート=ヴァイス・エッセンで主力として活躍する水多海斗。ドイツでのキャリアは7年目を迎えた。今季はリーグ戦22試合終了時点で7ゴール8アシストをマークと、得点関与でリーグ11位の数字を残している。
19歳で海を渡った頃と、25歳になった現在。様々な経験をした中で、変わったものと、変わらないものがある。マインツU23時代にはトップチームのトレーニングに常時参加し、メンバー入りを果たしたこともある。公式戦試合出場こそなかったが、その基準は身体に残っている。
「どのぐらいのレベルかは分かっています。次のチームが2部かほかの欧州の国に行くのか分からないけど、そこで自分がどう感じるかですね。今はまだまだ全然上に行けると思ってプレーしています。モチベーションや熱い気持ちは多分変わっていないですね。当時はブンデスリーガーになるのが目標でした。でも今はブンデスに限らず、なるべく上に行きたいという感覚に変わったのかなと思います」
現実を理解した上で、より高い場所を目指している。冷静な思考の背景にあるのは、かつての同僚が次々とステップアップしている事実を間近で見てきたからかもしれない。
マインツU23時代にチームメイトとしてプレーしたドイツ人MFパウル・ネーベルは、2部カールスルーエへのレンタル移籍をきっかけに成長。トップチームの中心選手として活躍し、ドイツ代表にも招集された。ドイツ人MFブライアン・グルダはイングランド・プレミアリーグのブライトンへ移籍。今冬はドイツ1部のRBライプツィヒにレンタル移籍すると、背番号10を背負って早速活躍するなど、一気にトップレベルへと駆け上がった。
「パウルがいい選手になるのは分かっていました。でもブライアンは正直、かなり荒削りでサッカーも分かっていない感じだったんです。だからここまでステップアップするというのは思わなかったです」
では彼らは何が違ったのか。水多は明確に答える。
「突出した武器を持った選手だったと思います。ブライアンはやっぱりドリブルですね。当時の彼は基本的にボールを持ったらパスを出さない。でも自分で行けてしまう。逆にパウルは何でもできるタイプ。それがレンタル先のカールスルーエでゴールやアシストという数字を出せるようになったことで、器用なだけの選手を超えたというイメージです。マインツに戻ってきてからも、コンスタントに結果を出していますから」
武器を持っている選手がコンスタントに試合に出て、チームタスクを担いながら長所の活かし方を整理する時間を得ると、飛躍的に成長する可能性を手にする。逆に言えば、能力だけでは飛躍はできない。ドイツ3部には、その予備軍が多く存在するという。
「最近だとホッフェンハイムU23からアユベ・アマイモウニという選手がフランクフルトに移籍して、この前スタメン出場してゴールも決めていました。3部にもクオリティの高い若手は本当に多い。ブンデスリーガのU23チームもいるし、誰がいつ化けるか分からない。ブライアンも急にトップチームで試合に出て、それきっかけでどんどん成長して、一気に2つ3つカテゴリーを飛び越えていった。そして移籍先で活躍しているのがすごい」
欧州サッカーにはそんなダイナミックさが溢れている。日本人でも海外の方が合う選手はたくさんいるし、そう感じられる選手は欧州での成長スパイラルにうまくハマれる。一方でそれが苦手な選手だっているだろう。
合う合わないはインテンシティや熱狂度、コミュニケーションというところだけではなく、サッカーメカニズムや戦術への理解や順応も関わってくる。プレーの速さとは、足の速さだけではない。判断の速さ、スペースの認知、次の展開の予測など、すべてが含まれる。

水多がドイツで歩んだ7年間
長くドイツにいる水多は、Jリーグを外から見る立場にいる。
「遅いとは思わないけど、スペースが広く見える。それはヨーロッパ基準で見ているからかもしれないです。あと、いまダルムシュタットでプレーしている秋山裕紀は同期なんですが、ドイツでやる戦術はまだ経験していないものが多いと言っていました」
自由とは、好き勝手にプレーすることではない。構造を理解したうえで選択することだ。インテンシティ高く激しくぶつかり合いながら、チームのために走って戦い、最適な判断をして、自身の武器を磨く。個性を生かすとはそういうことなのだろう。それがないと数字も残せない。
ドイツでの7年間は、すべてうまくいったわけではない。挫折だってたくさんあっただろう。それでも、そうした様々な経験があったからこそ、水多は欧州における基準をしっかりと理解し、実践している。
昇格争いにいる今季は、さらなるステップの大きなチャンス。本人も明確な目標を口にする。
「最低で10ゴール10アシスト。3部から2部を飛ばして1部に行く選手もいますけど、そういうカテゴリーに入るには、今やってることをさらにやらなきゃいけないと思ってます。若い選手が多いですし、自分は25歳で若い年代ではないので、攻撃の選手なら圧倒的な数字を残さないといけない。いける限りはチャレンジしたいですね」
欧州でプレーする日本人は増えた。 だが、長く必要とされ続ける選手になるのは簡単ではない。欧州で生き残れないのは、数字を残せないからではない。成長するための本質的な取り組みを理解して、実践していないから、と表現できるかもしれない。
水多にしても、まだその道の途中にいる。でもその歩みからわかることがあるとすれば、環境に適応するだけではなく、自身の基準を書き換えて、当たり前化していくことの大切さだろう。それが生き残る選手に共通する大事な思考なのだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。



















