米国の要求に「FIFAは敗北を喫した」 名目は選手の安全…クーリングブレイクは必要か

6月からワールドカップがスタートする【写真:ロイター/アフロ】
6月からワールドカップがスタートする【写真:ロイター/アフロ】

「CMを挟む時間を入れたい」という大会組織委員会の意向が露骨に見える

 国際サッカー連盟(FIFA)は2026年北中米ワールドカップ(W杯)において、気候などに関わらず全試合で前後半3分のクーリングブレイクを入れると決定した。名目は「選手の安全」。誰も反対できないお題目だ。

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 1994年アメリカW杯が開催された際、ヨーロッパの時間に併せてキックオフが調整されたため、多くのチームが酷暑のなかでプレーを強いられた。その反省点を考えると、少なくとも唐突に制定されたFIFA平和賞がドナルド・トランプ大統領に授与されたということよりも理由は分かる。

 確かに猛暑のなかでのプレーにおいては、クーリングブレイクは必要となる。W杯で最初に導入されたのは2014年ブラジルW杯で、Jリーグも2016年6月から運用を始めた。気温と湿度、放射熱を取り入れた暑さ指数(WBGT)から判断し、28度以上で1分間の飲水を、31度以上なら日陰のベンチで3分程度のクーリングブレイクを行うこととしてスタートしている。

 Jリーグの記録のなかに、どの試合で飲水タイムやクーリングブレイクが取り入れられたかというのは出てこない。そのため、その時期に開催された試合でどれくらい選手のパフォーマンスが上がったかはトータルの数字としてしか判断できない。

 そのため大雑把ではあるのだが、J1リーグで2015年と2016年を比べてみる。2015年のファーストステージ(3月7日~6月27日)は1試合平均得点が2.6点、セカンドステージ(7月11日~11月22日)は平均2.7得点だった。

 それが2016年はファーストステージ(2月27日~6月25日)の1試合平均得点は2.5点、セカンドステージ(7月2日~11月3日)は平均2.8得点という結果になった。つまり2016年のファーストステージは2015年よりも平均得点が少なかったが、セカンドステージになって飲水タイムが取られるようになったら2015年を上回るようになったと言えるだろう。

 飲水タイムまたはクーリングブレイクが選手のパフォーマンス向上を引き出した可能性はあるということだ。ということは、2025年アメリカで開催されたクラブW杯(6月14日~7月13日)が酷暑のなかの開催になったことを考えると、FIFAがクーリングブレイクを導入しようとするのは理に適っているように思える。

 だが「全試合」というのは理屈が通らない。なぜなら空調設備を備えたスタジアムや、十分に温度が下がった時間帯に試合がスタートする場合もあるのだ。なぜそんな「中断」を入れる必要があるのか。

 しかも開催地が再びアメリカであることから、1994年の悪夢が蘇ってくる。ニューヨーク・ポスト紙などで健筆を振るったベテラン記者であり、ワールドカップ史の著書を持つクレメンテ・アンジェロ・リジ氏の著書には、1994年のW杯開催にあたって、大会組織委員会はサッカーを変えようとしてきたことが明かされているのだ。

「大会組織委員会とFIFAは、守備的な戦術を減らすための方策を検討した。ゴールを大きくすることや、試合を4つのクォーターに分けることが検討された」と、リジ氏は述べている。

「サッカーは点が決まらなくて退屈」というアメリカ人の感覚に合わせ、ゴールサイズを物理的に大きくして得点を増やそうという案や、テレビCMの枠を増やしたいというテレビ局の意向を反映し、試合をクォーター制にするという案が、真剣に提案されたのだ。

 しかし当時のFIFAはこれを拒否。そして由緒正しいサッカーの姿を守った。

 そのときの記憶があるから、当然今回もクーリングブレイクを「CMタイム」と揶揄する声があがるし、実際に「CMを挟む時間を入れたい」という大会組織委員会の意向が露骨に見える。そして今回、FIFAは敗北を喫した。あるいはFIFAもサッカーをクォーター制にしたいと思っているのかもしれない。

 確かにCMタイムが入ればより多くのメディアの収入は上がる。そしてFIFAは放映権料を吊り上げることができる。特にアメリカという大きな市場を手に入れられれば、FIFAの収入も急上昇することだろう。

 だが本当にそのことをサッカーという競技の最重要事項としていいのだろうか。サッカーが持つ「連続性」という楽しみを奪うほどのものなのだろうか。

 そして、そこまで選手の安全を願うのなら、長距離移動で選手に溜まる疲労のことを考えてもっと近場だけで試合を開催すればいいのだ。あるいは試合間隔をもっと空けることで選手を守るべきだ。

「CMタイム」は大国のエゴが剥き出しになったようにしか見えない。とても「平和」には思えないのだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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