2年前に誓った「えぐい選手に」 J内定コンビがけん引…対照的な2人が目指す「楽しませる」

J内定が決まっている10番・山口豪太と7番・長璃喜【写真:徳原隆元】
J内定が決まっている10番・山口豪太と7番・長璃喜【写真:徳原隆元】

昌平MF山口のゴールが大量得点の口火を切った

 第104回全国高校サッカー選手権第3日は12月31日、首都圏8会場で2回戦16試合が行われ、ベスト16が決まった。NACK5スタジアムでは優勝候補の昌平(埼玉)が初戦を迎え、高知(高知)に4-0で快勝。新春1月2日の3回戦で、プレミアリーグWESTの帝京長岡(新潟)と対戦する。

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 山口豪太(3年)がコースを狙い澄ました左足シュートで大量点の口火を切れば、長璃喜(おさ・りゅうき、3年)はネットが大揺れするほどの豪快な右足弾で2点を奪った。来季のJリーグ加入が内定しているふたりの看板MFが、評判通りに躍動。初優勝に向け昌平が魅惑的な試合を披露した。

 J2湘南ベルマーレの一員となる山口は前半7分、右MF飯島碧大(2年)からパスを受けると、中央に運んでマーカーをひとりかわす。「最近シュートが当たっていたのでしっかりミートしました」という弾道が、ゴール左隅に吸い込まれた。高知のGKはまったく反応できなかった。

 山口の全国選手権初ゴールで勢いに乗り、この10分後に出色のゴールが生まれた。山口にパスを預けた瞬間、川崎フロンターレ入りする長が全速力で敵陣に走り出した。山口から長いボールが届くと、出てきたGKを置き去りにし、ゴール右隅に矢のような一撃を突き刺した。「チームに勢いをつけたかったので、コースを狙うより右足を思いっ切り振り抜きました」と山口とは対照的な感想を口にした。

 山口は36分、ボランチ工藤敦士(2年)のロングボールを左サイドで受けると、中央にやさしい最終パスを配給。飯島が蹴り込んで3点目を挙げた。

 今大会前、「1試合につき1得点1アシストを目標にしてチームの勝利に貢献したい」と抱負を語っていた山口だが、アシストはひとつおまけがついた。 

 後半10分に長がまたしても豪快な一発を蹴り込み、勝負の大勢が決した。攻撃サッカーを標ぼうする昌平らしい4点目だった。

 1年生のエースFW立野京弥のシュートがDFにブロックされ、こぼれ球を拾った長の一打もGKに弾き飛ばされる。はね返りを再び立野が打ったが、またDFに当たってしまった。長が素早く回収し、今度は右足で弾丸シュートを決めた。 

 試合後、大勢の報道陣に囲まれた長は「2点目も思い切り打ちました」と説明し、「今日は足元でパスを受けるよりも(守備の)裏へ抜ける動きを多くしようと(山口)豪太とも話していたんです」とチームとしての戦略の一端を明かした。 

 その言葉通り、そろって何度もスルーパスを供給したし、相手DFの裏をかすめ取る動きも実行してみせた。

 後半13分、長が中央から長い距離をドリブルで運んだ後、高知の守備を完全に切り裂く絶品のスルーパスを山口に送った。しかし自慢の左足は不発。「シュートする時、ちょっと足が合いませんでした。あんなにいいパスをもらったのに(長)璃喜に申し訳ない」と頭をかいた。

山口も長もFC LAVIDAの出身

 ふたりとも昌平の下部組織である中学生年代の街クラブ、FC LAVIDA(ラヴィーダ)時代から脚光を浴び、そろってU-15から年代別日本代表に選ばれた偉才だ。 

 長は1年生で出場した第102回全国高校選手権で、1回戦から3戦連続得点。中でも敗色濃厚だった2回戦は後半アディショナルタイムに同点弾、3回戦も残り2分で同点ゴールを奪い、2試合続けてのPK戦勝ちを呼び込んだ。すべて途中出場で挙げた千金ゴールである。 

 中学時代の山口は長よりすご腕で、3年生では中学生として唯一、U-16日本代表のルーマニア、ウズベキスタン遠征に呼ばれた。だが同じく高校1年の全国選手権は無得点の上、特筆すべき活躍もなく、「このままでは普通の選手で終わってしまうので、えぐい選手になれるよう努力します」と捲土重来を誓ったものだ。 

 今春就任した芦田徹監督は山口について、「あの先制シュートは彼の形。今年はあまり点を取れなくて気にしていたようだが、守備も含めてそれ以外の貢献度は高かった」と述べる。県予選でも長に比べてゴールが少なかっただけに、あの先制弾は親鳥がひなを包み込むような気持ちで見ていたのではないか。

 この試合には川崎の向島建トップチームスカウトも観戦。「長君は突破力やスピードだけではなく、得点を決め切る力がある。惜しかった、だけでは終わらない選手。川崎ではワイドかシャドーを担当することになると思います」と、またまたの活躍に笑顔が広がった。 

 変幻自在のドリブルを身に付けた背番号7は、人見知りで口数が少ない。報道陣から次々と質問を受けた長は「注目されるのは好きじゃない」と笑わせ、「でも自分のプレーで歓声が上がるのはプレミアリーグとは違い、それは素直にうれしいですね」と珍しく喜びを表現した。

 スタジアムには6604人の観衆が集まった。山口に大勢の前でプレーすることを尋ねたら、笑みを浮かべながら「お客さんが僕らのサッカーを楽しみに来てくれると思うとうれしい。見に来る人を楽しませるプレーをしたい」と即答した。
 
 長も山口も来シーズンは入場料を払って観戦するファン、サポーターに喜びを提供する責任がある。少しだけ、その意識が芽生えてきたようだ。

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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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