降格危機も「J3残留」を真っ先に表明しなかったワケ 元日本代表社長が大切にした現場の視点

ザスパ群馬社長の細貝萌氏【写真:徳原隆元】
ザスパ群馬社長の細貝萌氏【写真:徳原隆元】

ザスパ群馬・細貝萌社長、来季以降を見据えた戦略

 今季でJリーグ加盟20周年を迎えたザスパ群馬。現在はJ3リーグで苦戦しているものの、クラブは地元出身でドイツなど海外でのプレー経験を持ち、昨季限りで現役を引退した39歳の元日本代表・細貝萌氏が代表取締役社長に就任し、GM(ゼネラルマネージャー)を兼任しながら前進し続けている。12日のJ3第31節ヴァンラーレ八戸戦前には、かつてともに戦った鈴木啓太氏や柏木陽介氏らを招き、Jリーグ加盟20周年のメモリアルマッチを開催。経営のみならず、強化や編成の責任者としてもクラブに関わる若きリーダーが「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じ、来季のシーズン移行を見据えた戦略や、苦戦するチーム状況において発した声明文に込めた思いを明かした。(取材・文=轡田哲朗/全4回の4回目)

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 サッカークラブにおいて経営と強化は両輪と言えるものだが、代表取締役社長兼GMを務める細貝氏は、その両者を名実ともに束ねる存在として関わっている。強化部長に佐藤正美氏、沖田優監督以下のコーチングスタッフという体制で戦っているチームだが、細貝氏は自身のGMとしての関わり方を「ザスパ群馬のフットボール面、アカデミーもレディースもそうだし、アカデミーとの連携をしっかりと図ることも含め、トップチームだけではなく目を配っていく役割です」と話す。

 そしてトップチームとの関係については、「イメージ的には強化部の上に GM がいる形に見えるのかと思いますが、現場のコントロールは佐藤強化部長がしています。僕は社長としての業務もあり、チームの練習や遠征にも毎回行けるわけではありません。ミーティングにも入れないことが多いのですが、強化との連携はしっかり取っています」と説明。そのうえで「僕の思っていることは監督と直接話もするし、強化に対しても話はしますが、こうすべきだとか、誰を使うべきだとか、そのようなことを打ち出すことは一切なく、現場をサポートしていく形で動いています」と、あくまでも現場の判断を尊重し、それを支える側であることを強調している。

 一方で編成の責任者として、現場から上がってきた提案に対して最終決定を下し、自身が動くこともあるという。一例として、「この選手に正式オファーを出しますという話は(強化部と)連携を取りながら、『じゃあ、行きましょう』と。そしてタイミングがあれば、オンラインでも参加させてほしいと伝えて、ザスパはこういうものを目指していくから、ぜひ来てくれないですかと直接話をしました」と、今夏のウインドーで獲得した選手との交渉の一幕について明かした。

福島戦での入場ゲートで人権啓発PR資料を配布している様子【写真:(C) THESPA】
福島戦での入場ゲートで人権啓発PR資料を配布している様子【写真:(C) THESPA】

降格危機が忍び寄るなかで発したメッセージ

 今季のリーグ戦も佳境を迎えており、来季の予算編成は「今、まさにやっているところ」だという。2026年はシーズン移行に向けた特別大会となるため、細貝氏も「選手たちの契約時期も変わり、決算のタイミングも変わってくるんです。それも踏まえて行動をしないといけないのがまさに今の段階で、ここから来季に向けどういう準備をしていくか」と、例年にはない難しさがあると明かす。

「半年間の特別な大会で昇格も降格もないですから、各クラブがどう位置付けるかも違うと思います。そしてJ1のクラブでU-21のチームを持つ場合は若手を多く抱えると思うので、そうなると僕らのようなJ3のクラブは若手を期限付きで獲得することが、今までのようにはできなくなるのではないか、と。選手の編成という意味では白紙で、もちろん選手の契約期間はすべて把握していますが、まだ(取材時点で)9試合残っているので、現状そこはまだ着手しないというか、考えることではないかなと思っています」

 ザスパ群馬は現在、J3からJFLへの降格危機にある。クラブライセンスの関係から、今季のJFLでどのクラブが上位に入るか次第にはなるものの、19位以下になると自動降格や入れ替え戦へ出場する可能性がある。群馬は第32節を終えて18位であり、19位のカマタマーレ讃岐とは同じ勝ち点28で、得失点差で辛くも上位にいる。一方、16位高知ユナイテッドSCとの勝ち点差は「6」であり、2勝で追いつく状況だ。

 こうしたなかでクラブは、9月21日に声明を発した。そこには「J3残留の必達はもとより、可能性がある限りプレーオフ進出、そしてJ2昇格を諦めることなく闘い抜くという強い意志を、クラブとして貫きます」といったワードがあった(※編集部注:10月9日に目標をJ3残留に切り替える声明を発表)。

 残留を強調することよりも、上を目指すというメッセージを発した理由について、細貝氏はこう語っている。

「5連敗を喫して声明を出したのですが、J3残留を芯にはしなかったんです。当然、ファン・サポーターの方々から『いやいや、J3残留でいいだろう。今こういう順位にいるから現実を見てくれ』という意見をいただく機会もあるんですけど、現場としっかりと話をして、やはり数パーセントでも可能性があるのならば、目標として上を目指す方向で出させてくれないかという声もありました。もちろんJ3に残留しなければいけないのは前提であり、ベースとして当然あります。そこは共通の理解の上ですが、可能性があるならば上を目指すという意味があってのメッセージだったんです」

群馬から世界へ「名前を広げていきたい」

 そして細貝氏は、「夏が過ぎたくらいのタイミングで、自分の中で方向性を決めてビジョンを明確にしなければならないと思っていました」と、クラブとして描く将来のビジョンについて自身の思いを語った。

「群馬県のプロサッカークラブとして、世界に名前が出ていくようなクラブを目指したいと思っています。なぜかと言えば、僕も群馬県から、チームではないですけど個人で世界に羽ばたきました。ヨーロッパで今、いろいろなサッカーの仕事をしている仲間たちがたくさんいます。日本のクラブで浦和レッズなどと言えば、聞いたことがあるとか、知っているという反応がありますけど、ザスパ群馬を知っているかというと、そうではない。そういった世界に名前を広げていけるクラブにしていきたいなと思っています。もちろん、これは来年、再来年というわけにはいかないし、時間もかかります。紆余曲折あってうまくいかない時期もあるとは思うのですが、目的をそういうところにしっかりと置きながら進んでいきたい」

 自身が選手としてのキャリアで辿ったように、クラブとして「群馬から世界へ」を目論む細貝氏。その道のりは険しく長いかもしれないが、一つひとつカテゴリーを上げて国内の頂点、アジアでの戦いから世界との戦いへと道筋が用意されているのは、サッカー界が持つ公平な競争の構図でもある。経営、強化ともベースを整備する時期にある群馬だが、地域の持つポテンシャルを生かしながら飛躍する時が期待される。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



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