独移籍でホテル暮らし「外食はストレスも」 日本代表が立ち向かう苦難…現地記者は評価「外せない」

ブレーメンの菅原由勢【写真:REX/アフロ】
ブレーメンの菅原由勢【写真:REX/アフロ】

菅原由勢は今季からドイツ・ブレーメンに移籍

 ブレーメンは歴史あるクラブだ。ブンデスリーガ優勝4度、ドイツカップ6度の優勝を誇る。ミロスラフ・クローゼ、アイルトン、ジエゴ、ミクー、メスト・エジル、トルステン・フリンクス、ナルドら数々の名選手がこのクラブで活躍をした。

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 だが2008-09シーズンの3位を最後に、徐々に下降線をたどっていく。経営難がクラブを直撃し、補強もままならなくなってしまったのだ。20-21シーズンには17位で2部へ降格。健全経営をするために若手中心のチーム作りへと舵を切り、翌シーズンすぐに昇格すると、そこから3シーズン無事に1部残留を果たしている。

 今季は厳しい戦いを予想する識者が多い。オーレ・ヴェルナー監督がライプツィヒを新天地に選び、ホルスト・シュテファンが新監督に。昨季惜しくも入れ替え戦で敗れたとはいえ、無名のエルフェルスブルクを2部3位に導いた手腕は高く評価されている。ただ1部では未知数なのも事実。さらに主軸だったFWマルヴィン・ドゥクシュがバーミンガムへ、GKミヒャエル・ツェットラーがフランクフルトへ移籍、そして右WBミチェル・ヴァイザーが膝の十字靱帯断裂で離脱した影響は大きい。

 ヴァイザーのクロスからドゥクシュが決めるというのはブレーメンの生命線の一つだっただけに、ファンの心配も小さくはない。それだけに移籍市場が閉まる直前に加入した日本代表DF菅原由勢は、大きな期待とともに迎え入れられた。

 そして順応する時間も多くない中、菅原は加入直後の第2節レバークーゼン戦から連続でスタメン出場をし、好印象を残している。シュテファン監督も「まるでずっと前からチームでプレーしているかのようだ」と驚くほどの溶け込みの速さだ。

 地元メディア「ダイヒシュトゥーベ」に掲載されたインタビューではその背景について次のようにコメント。

「カップ戦とフランクフルト戦を見ていたので、首脳陣が僕に何を求めているかは分かってていた。ミオ(GK長田澪)はいいヒントをいろいろくれるし、他のチームメイトもいっぱい僕と話してくれます。コミュニケーションがキーファクターですね。だからスムーズに順応することができたし、いい感じでプレーできている」

連敗に苦しむチーム 菅原が実感する現状

 3節ボルシアMG戦では1アシストもマークし、チームの4-0快勝に貢献。とはいえ、すぐに全てがうまくいくわけではない。4節フライブルク、5節バイエルンには0-3、0-4で連敗を喫している。

「サイドまで持っていくまでの形はある程度作れていた部分はありましたけど、サイドまで持っていった後にどう関わっていくのかとか、どう崩してボックス脇を取りにいくのかというところの創造性や距離感が悪かった」

 菅原はフライブルク戦後にそう分析していた。チーム事情を考えると、序盤はまだまだ練習や試合を重ねながら修正していかなければならない時期ではある。ただ、それは今後の伸びしろがあるということでもある。バイエルン戦では結果として0-4で敗れたものの、ブレーメンのチャンスのほとんどは菅原が関わってのものだった。高い位置で好タイミングでパスを引き出し、ゴールに迫るシーンがいくつもあったのだ。

「いろいろな選手が怪我をして、誰が使えるか使えないか分からない状態で開幕を迎えて、移籍市場が閉まる最終日に2人が入って(菅原とビクトール・ボニフェイス:レバークーゼンからレンタル移籍)、正直、他のチームがプレシーズン中にやることを今やっているようなもの。状況が良くない時にいかに選手同士でアイディアを共有し合って、悪い中でも0-0で最後の20~30分まで持っていくとか、互いの距離感を変えていくとか、ボールの動かし方を工夫するとかはまだまだ課題だと思う。むしろそれが開幕4節でいろいろ気付けている部分もあるので、これは今後良くなる課題だと思う。全然ネガティブになる必要はないと思います」

「例えば距離感の部分が悪かっただけで、ボールのつけるところやボールの動かし方自体は悪くなかった。すごくポジティブな部分もあった。まずはしっかり自分たちのやるべきことをやれていれば、もっとコントロールした試合になったと思います。ここからもっと良くなると思うし、もっとお互いのことを知っていけると思う。まだまだここからだと思います」

現地での生活は整わず「移籍の難しさを感じる」

 フライブルク戦後にはそう話していた菅原。そもそものところで《移籍市場ギリギリでの加入》《直後に日本代表としてのアメリカ遠征》《肩を負傷》など、生活環境や生活リズムはまだ整っているわけではないのも事実ある。

「まだ家も見つけていない。家がない分、外食をしないといけなくなるのはストレスでもある。もちろん慣れている部分もありますけど、時差があったりした中で、自分の心を落ち着かせる場所がホテルというのは、改めて移籍の難しさを感じる部分でもあります。でも、言い訳せずに、ピッチ上はピッチ上でやらないといけないと思う。肩も、もちろん痛みはありますけど、チームのために試合に出たかったし、前節(ボルシアMG戦)はいい流れで勝てたので、今日もしっかり自信を持ってやれると思っていました。肩の痛みがありながらも監督は信用して使ってくれましたし、そういう信頼に応えられなかったのは自分の実力で悔しいなと思います」

 簡単ではない状況にありながら、ポジティブに受け止め、やれることに100%取り組んでいく。その姿勢をチームメイトもファンも見ている。地元記者に話を聞いたら「レギュラーから外せない選手」と高評価をしていた。私生活の環境が整い、チームでプレーする時間を積み重ねていけば、間違いなくもっと躍動感のあるプレーが見られるようになるはずだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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