J名将が抱く危機感「日本サッカーのためにならない」 リーグ全体に訴え「世界から取り残されてしまう」

京都の曺貴裁監督が伝えていきたいこと
京都サンガF.C.は5月31日のFC東京戦以降、9試合無敗、直近4連勝という力強い歩みを見せている。8月24日のFC東京戦、30日のファジアーノ岡山戦はそれぞれ4-0、5-0で圧勝しており、鋭い攻守の切り替えからのゴールが目立ったが、何が変化しているのか。(取材・文=元川悦子/全8回の5回目)
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「曺さん(貴裁監督)と出会って一番伸びたのは守備のところ。『守備がチャンスだ』というのは曺さんがよく言っていることなんです。それが今、欧州では当たり前だと思うんで。自分はもう1回、欧州でプレーしたいと思っているんですけど、今、やっているサッカーは絶対に間違っていない」と7月のE-1選手権(龍仁)で日本代表デビューした原大智も話していたが、ボールを持たない時のハードな守備と攻撃意識というのは、特に指揮官が重視している点である。
「今のサッカーって、『攻撃』、『守備』、『攻→守』、『守→攻』の4局面と言われていますよね。でも僕はもう1個、言葉を作りたいなと個人的に思っているんです。『ボールを持っていない時に攻撃する』ということを表す適切な言葉をまだ見つけられていないんで。『ホールを保持していない時に俺たちはプレスに行くという攻撃をしているんだ』と選手たちにはよく話しています。大智が言う『守備』というのはそのことを指すんですけど、早くいい言葉を見つけたい。ここ3~4か月くらい考えているんですけど、英語でもドイツ語でも日本語でもいいから、何らかの言葉を作ってその局面の重要性を伝えていきたい。『ボールがない時に予測して攻撃している感覚』をもっともっと選手たちに持ってほしいんです」
曺監督は熱っぽく語っていたが、岡山戦の原の2点目などは「ボール保持していない時の守備が攻撃につながっている」という典型例と言っていい。すでに欧州ではそういう意識が鮮明になっているし、遠藤航(リバプール)らは率先してアクションを起こしている。その一挙手一投足を目の当たりにして、曺監督は「自分たちがそういう考え方を持たないと、シーズン移行するだけでは世界から取り残されてしまう」という強い危機感を抱いているのだ。
「大智にしても、欧州にいたわけですから、指導者に要求されていたと思いますし、僕が初めて言ったということではないはず。ただ、京都に来て、自分が次の段階にトライして、解決していかないといけないと実感したから、アクションを起こしているということなんでしょう。
彼の場合、これまでのキャリアでは最前線で使われることが多かったですけど、ウチに来てサイドでプレーするようになって、そういった意識を高める機会が増えたのかなとは感じます。僕ら指導者は『気づき』を与えることが仕事。選手の成長の先に何があるのかを気づかせることこそが監督の大きな役割だと改めて感じますね」と指揮官は神妙な面持ちで言う。
曺貴裁監督は毎年本場のサッカーに触れている
FC東京戦の開始早々に奪った2つのPKに至る守備のチャレンジにしても、曺監督が選手たちに”気づき”を与えた事例の1つと言えるだろう。
試合後の会見で「日本では自分たちのゴールキックを繋いでチャンスを作るとそのチームに戦術があると言われますけど、僕は相手のゴールキックがチャンスになると思って、愚直に繰り返していました。プレミアリーグのマンチェスター・シティ対トッテナム戦でもそういうゴールが生まれている。それをアクシデントだと言われる時があるのはすごく残念に思う」と彼は苦言を呈したが、京都の選手たちは最前線からのハイプレスを習慣化している。そこは特筆すべき点ではないか。
「あの発言があんなに大きくなるとは思ってなかったけど、自分たちがゴールキックを取っても『あれは相手のミス』『自滅』という切り取り方をされるのは納得がいかないなと。FC東京がミスを犯したのは、俺らがミスを誘うような戦術を採っているからであって、ボールをつなぐことと同じくらい、そういうことに重きを置いている。そのことをいい機会だったんで伝えたかったんですよね。『FC東京が集中力を欠いていて、たまたま取られた』という見方で終わらせていたら、日本サッカーのためにもならない。そこは強調しておいた方がいいかなと思います。
もちろん松橋力蔵監督の目指すスタイルへのリスペクトはありますよ。彼は同い年だし、有能な指導者だと知っていますし、つないで攻撃するスタイルも魅力的だと感じます。ただ、やはり日本では守備でボールを奪った時の反応が薄い傾向が強いよね。欧州ではデュエルで勝ったり、ボールをガチッと奪ったりした時に観衆がもっと大きく反応する。そういうのがJリーグでも生まれてくれたらいいなと僕は考えますね」
曺監督がこういった発言をするのも、日本サッカーを世界最高峰へと引き上げたいという熱い思いがあるから。現役引退後、すぐにドイツへ渡ってケルン体育大学で指導者理論を学び、今でも年末にはほぼ毎年、イングランドやドイツに出向いて本場のサッカーに触れている人物らしく、目線はつねに高い。世界基準を直々に落とし込まれている京都の選手がグングン成長し、未知なるJ1タイトルを取ってくれれば、彼自身にとっても理想的。その日が現実になろうとしているのは確かだ。(第6回に続く)
(FOOTBALL ZONE編集部)





















