大変動の今夏J2移籍市場 熾烈昇格争いが加速…磐田エース級の電撃移籍は「メリットもある」

J2の熾烈な昇格争い…夏の移籍市場が左右する終盤
J2はここまで26節を終えて、水戸ホーリーホックが首位に立っている。しかし、前節はホームで8位のジュビロ磐田に敗れるなど、ここに来て足踏み状態に。前半戦の主役だったジェフ千葉が、大宮アルディージャ、徳島ヴォルティスとの“6ポインター”に2連勝。水戸との勝ち点差は3にまで迫ってきた。夏に補強したMFイサカ・ゼインとFW森海渡がスタメン出場を続けており、3年目の小林慶行監督のもと、17年ぶりのJ1復帰に向けてアクセルを踏んでいる。
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ここまで快進撃を続けてきた水戸は、西村卓朗GMがビッグオファー以外は主力選手を移籍させないことを明言。大型FWの寺沼星文がJ1の東京ヴェルディに移籍したが、湘南ベルマーレから根本凌を補強した。その根本は磐田戦のアクシデントで、右足骨折の重傷を負ってしまったが、すぐにJ3のFC岐阜から粟飯原尚平を獲得している。そして20歳のMF齋藤俊輔のU-20ワールドカップ参加も見込まれるサイドの新戦力として、横浜FCから新井瑞希を獲得した。
その一方で、元日本代表MF山口蛍が加入するなど、昇格の大本命とも見られたV・ファーレン長崎は前半戦よもやの低迷を強いられたが、高木琢也監督が7年ぶりに復任してからチームはリーグ戦5勝2分と上昇気流に乗り、一気に3位まで浮上してきた。
夏の移籍ではJ1の東京ヴェルディからアウトサイドの専門家である翁長聖が5年半ぶりに復帰し、元鹿島のMFディエゴ・ピトゥカをブラジルの名門サントスから獲得しており、悲願のJ1昇格に向けて万全の体制を整えてきている。ただ、外国人枠の関係で出場機会の減少が見込まれるMFマルコス・ギリェルメが、J1のFC東京に期限付き移籍することに。下平隆宏前監督の元で重要戦力だっただけに、この決断が終盤戦でどう出るか。
4位の大宮に夏の大きな動きはなかったが、5位の徳島ヴォルティスは選手層に不安のあったディフェンスにJ1福岡からセンターバックの井上聖也、長崎からポルトガル帰りのモヨ・マルコム強志を獲得している。アタッカーにはJ2のヴァンフォーレ甲府からFW宮崎純真を加えたが、合流の1か月前に甲府でふくらはぎを負傷。ここまでJリーグの全カテゴリで最少の14失点という鉄壁の守備を構築しているが、得点力アップが昇格の鍵を握るだけに、ドリブル突破を武器とする宮崎がどう組み込まれていくか。
自動昇格“射程圏内”7位鳥栖には心配事も
現在6位のベガルタ仙台はJ1の川崎フロンターレからMF山内日向汰を期限付き移籍で加えたが、入れ替わるように技巧派ドリブラーの名願斗哉が、育成型期限付き移籍を解除する形で川崎に復帰。さらにスピードを武器とするオナイウ情滋がJ1で残留争いをしている横浜F・マリノスへの完全移籍がリリースされた。クラブは2人の慰留に努めたが、最終的に意思を尊重した。森山佳郎監督のサッカーを表現する上で、サイドアタッカーの重要性は高い。
主力の相良竜之介が右膝の怪我から復調してきたが、特定の選手に負担が大きくなるリスクもある中で、指揮官はここから12試合を通して、難しいやりくりを強いられるかもしれない。だがしかし、先のことを心配するよりも、仙台には目の前にホームの千葉戦という大一番がある。両者の勝ち点差は5だが、ここで仙台が押し返すのか、千葉が引き離して首位返り咲きに手をかけるのか。今後の昇格争いを占う意味でも注目のビッグマッチになる。
7位の鳥栖は昨年までJ1のセレッソ大阪を率いた小菊昭雄監督が、若手とベテランをうまくミックスさせて、試合を重ねながらチーム力を高めてきた。7月5日にはアウェーで千葉に2-0と勝利するなど、結果も付いてきていたが、前節は長崎との”6ポインター”で競り負けたのは痛い。内容面では長崎に引けを取らなかったが、ここまで14得点のマテウス・ジェズスなどを擁する長崎との決め手の差が出てしまった格好だ。
さらに心配なのは攻撃の中心を張ってきたリトアニア代表MFヴィキンタス・スリヴカの負傷交代。移籍期間が終了した時点で新加入のリリースはなく、3年半に渡りチームを心身で牽引してきたMF堀米勇輝が“古巣”である愛媛FCへの移籍を決断。最終ラインにFC東京から経験豊富なDF木本恭生が加わったことは頼もしいが、問題はリーグ13位という得点力の改善だ。18歳のFW新川志音など、小菊監督のもとで成長が見られる若手選手も多いが、ここからもう一段階上げていかないと、残り12試合で千葉との勝ち点6差を逆転して、自動昇格を掴み取ることは難しい。まずは週末のホーム水戸戦で意地を見せることができるか。

磐田は最も大きな動き…ジョルディ・クルークスの穴埋めは?
昇格争いを繰り広げるチームの中で、夏の移籍期間に最も大きな動きを見せたのが8位の磐田だ。中断明けのホーム秋田戦、アウェーのいわき戦で、合計7失点のうち5失点をセットプレーから喫するなど、世間から“崩壊”と言われてもおかしくない状況だったが、首位の水戸を相手に本来の姿を取り戻して3-1の勝利。特に中盤で良質な組み立て役となった井上潮音、2得点に絡んだ10番のポジションから2得点に絡んだグスタボ・シルバという2人の新戦力の活躍が目立った。
その喜びも束の間、これまで3得点9アシストと磐田の攻撃を引っ張ってきたジョルディ・クルークスのマリノス移籍が報じられた。クルークスは相手に脅威で2巡目以降、ほとんどのチームは対策をしてきていた。今シーズンの磐田のアイコンとも言えるタレントの移籍が、どう影響していくのかは読めない部分も大きいが、磐田にとってのメリットも少なからずあると見ている。
磐田は良くも悪くも右サイドのクルークスが良路どころになっていたこともあり、明らか対策をされている中でも、強引に生かそうとする傾向が見られていた。また守備でもハードワークできる選手だが、ここまでリーグ戦の全試合にスタメン出場、しかも19試合はフル出場で、攻守の切り替えでやや遅れも見え隠れしていた。
磐田はクルークスの他に、オランダ1部のNACでキャプテンをになったDFヤン・ファンデンベルフを獲得したが、ブラジル人のDFリカルド・グラッサ、FWマテウス・ペイショット、さらにグスタボと5人の選手が4つの外国人枠を争う状況になり、ジョン・ハッチンソン監督も試合ごとに難しい選択を強いられる状況が出来つつあった。クルークスの移籍で、今後は外国人枠の心配なく、提携国枠であるタイ人FWポラメート・アーウィライを含むフラットな競争が期待できる。もちろんクルークスの左足という強力な武器を失ったマイナス面はあるが、もともと右サイドを持ち場とするグスタボを生かす新プランを立てることができれば、前回対戦がシャッフルされる形になり、相手に混乱を与えることができるだろう。
また磐田はJ1のファジアーノ岡山からブラウンノア賢信の期限付き移籍も発表。189cmのサイズながらスピードと運動量もある万能型のアタッカー。昨シーズンは徳島で主力を担っており、J2での実績も十分だ。また、FW渡邉りょうとはJ3のアスルクラロ沼津でコンビを組んだ縁があり、川﨑一輝はカマタマーレ讃岐の同僚だった。さっそく「さわやかハンバーグ」で食事会を開くなど、チームに溶け込むのも早そう。週末の富山戦は昇格争いにも大きく関わる一戦となりそうだ。
現在、首位の水戸が勝ち点51、2位の千葉が勝ち点48であることを考えると、勝ち点40で9位のFC今治あたりまでがギリギリ、自動昇格の射程圏と言える。ただし、勝ち点38で10位の甲府も最近5試合を4勝1分と波に乗ってきており、上位争いが混戦模様の中で、残り12試合で好調をキープできれば、豪快な差し切りで自動昇格を果たす可能性はある。4月に加入して、ようやくチームにフィットしつつある187cmのFWネーミアスと成長著しい21歳のFW内藤大和に期待だ。まずは今週末、柴田慎吾新監督が2戦目となる10位の北海道コンサドーレ札幌とのホームゲームに勝利し、勢いに乗ることができるか。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。













