8チームに絞られたJ1の“覇権”争い 残り14戦で熾烈な上位対決…浦和、川崎に求められる「2.5」

全20チームが24試合を消化した
J1リーグは7月27日に浦和レッズとアビスパ福岡の1試合が行われて、結果はスコアレスドローとなった。これで20チーム全てが24節を戦ったことになり、いわゆる“暫定”が完全にとれた形だ。
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残り14試合となった段階で、首位のヴィッセル神戸は勝ち点46。鹿島アントラーズと柏レイソルが勝ち点44で続く。さらに京都サンガF.C.とサンフレッチェ広島が42、FC町田ゼルビアが40。そして川崎フロンターレと浦和が勝ち点38であり、ここまでが8チームが勝ち点10差以内。勝ち点34のガンバ大阪やセレッソ大阪も数字的な可能性は残すが、シビアな目線で見れば、優勝戦戦は8チームに絞られたと言っていいだろう。
リーグ2連覇中の神戸が、ここまでのペースを第38節まで維持した場合、勝ち点は73となる。昨シーズンは勝ち点72で優勝しており、ほぼ同じペースだ。この73を基準に見ると、川崎と浦和は残り14試合で勝ち点35を獲得する必要がある。つまり10勝4分でも、ギリギリ届かないということだ。ここまで川崎と浦和の1試合ごとの勝ち点数は1.58で、これを残り試合で2.5まで引き上げる必要があるのだ。浦和のマチェイ・スコルジャ監督は常々、優勝ラインの目安として2.0を指標にしており、相当に難易度は高い。
両チームを見ると、川崎に関しては日本代表のDF高井幸大とFW山田新が欧州移籍したことに加えて、タイトルの味を知るMF大島僚太とDF車屋紳太郎が負傷離脱するなど、かなり厳しいチーム状態にある。ACLエリートで準優勝に輝いた川崎は第23節のホーム鹿島戦に2-1で勝利するなど、長谷部茂利監督が就任1年目のチームとしてはしばしば高いパフォーマンスを発揮しているが、選手層の部分で不安が生じているポジションもあり、8月20日までの追加登録期間に補強は必要だろう。
浦和はFIFAクラブワールドカップ(CWC)の影響で、イレギュラーな日程で戦うことを強いられたが、国内復帰戦となったFC東京とのアウェーゲームで、3-2の逆転負けを喫したことが非常に痛かった。その後、湘南ベルマーレには勝利したが、続くアウェーで福岡に引き分け。首位との勝ち点差8は逆転可能であるはずだが、アウェーで国立開催の町田戦しか勝てていないことに加えて、前からのプレスがハマる試合とハマらない試合のギャップ、開幕時から懸念材料だったディフェンシブなポジションの選手層など、戦術面と編成面の両方で抱えている課題が非常に多い。
ポジティブな要素としてはここまで怪我人が少ないこと、CWCで自信を掴んだ安居海渡とサミュエル・グスタフソンの2ボランチが“チームの心臓”らしくなってきていること。新加入の小森飛絢がCWC不出場にもかかわらず、湘南戦で移籍初ゴールを記録するなどフィットしてきていることだ。小森は「もっともっと要求して、自分の動きを見ろっていう主張をして、もっともっとみんなといいコンビネーションを作っていければ」と語るなど、強いパーソナリティを感じる。
ただ、その小森もJ1でゴール量産できるかどうかは未知数な部分も大きく、逆転優勝まで描くには前線も後ろも心許ない。スコルジャ監督の選手起用も固定化してきている中で、ロス五輪世代のMF早川隼平や大学屈指のセンターバックとして注目された根本健太など、ここまで出番の無い選手たちにチャンスを与えるのか。ここから補強があるのか。まずは8月6日に浦和にとって天皇杯の初戦を迎える、アウェーのモンテディオ山形戦で積極的な選手起用に期待したいが、アウェーの弱さを克服するというミッションもある。そしてアウェー連戦となる中2日の横浜FC戦で、勝ち点3を掴み取ることができるか。この2試合は色々な意味で、重要な連戦になりそうだ。
昨シーズン3位の町田は天皇杯を含めると公式戦7連勝と波に乗っている。特にホームの“天空の城”ことGIONスタジアムで、本来の強さを発揮できるようになってきたことが大きい。序盤戦はポゼッションの導入に苦心していた様子もあったが、現在はしっかりとロングボールの強みを出しながら、相手を押し込んだところで3バックがワイドに展開するなど、使い分けも良くなっている。
J1初挑戦だった昨シーズンは開幕時にかなり大所帯だったところから、夏場までに大量放出してスリム化した流れだったが、後半戦にACLエリートを控える今シーズンはあまり大きな動きがない中で、J2のV・ファーレン長崎からMF増山朝陽という実力者を獲得するなど、落ち着いている。ただ、やはり未知の領域であるアジアの戦い、ましてACLエリートに挑むというのはクラブからすると素晴らしいステージではあるが、J1優勝という基準で見ると、過密日程や慣れない遠征の影響を想定して、ライバルより割り引かざるを得ない。
そのACLエリートを並行して戦うという意味では5位の広島も同じだが、前回のACL2を含めて、これまでクラブとして蓄積してきたACLの経験値を考えると、町田と同列に扱う必要はないだろう。ただ、選手層という観点で見るとミヒャエル・スキッベ監の起用法がどう出るのか不安なところもある。ポジティブな要素はやはりFWジャーメイン良がE-1選手権で得点王とMVPをW受賞するなど、自信を付けてチームに戻ってきたこと。
復帰直後のアルビレックス新潟戦は6月加入の木下康介が1トップ、ジャーメインは同じE-1組の中村草太と2シャドーを組み、東俊希の先制点につながるシュートなど存在感を示した。トルガイ・アルスランが復帰してくれば前線はさらに活性化するはず。あとは少数精鋭化している3バックに、夏場と終盤戦の過密日程を戦い抜くための補強があるかどうか気になるところだ。
広島と勝ち点42で並ぶ4位の京都は7月21日のアビスパ福岡戦で、終盤までアウェーで2-0とリードしながら後半アディショナルタイムに2失点。2位の鹿島と3位の柏に勝ち点で並ぶチャンスを掴めなかった。しかし、夏場に強いことで知られるチームはコレクティブな4-3-3を存分に発揮できる状況にある。確かに中盤で攻守に奮闘していたMF川崎颯太のマインツ移籍や経験豊富な米本拓司の負傷離脱敗退が、曺貴裁監督の湘南時代の教え子であるMF齊藤未月を神戸から補強するなど、後半戦を戦い抜く陣容は整えている。あとはやはりJ1の優勝タイトルを争うプレッシャーを跳ね除けられるか。また上位決戦には強いが、中下位チームに勝ち点を落とす傾向も克服していきたい。

鹿島にはレオ・セアラというアドバンテージがある
3位の柏はリカルド・ロドリゲス監督が導入したポゼッションをベースにした攻撃的なスタイルで前半戦から躍進。二巡目の対戦で、相手も柏対策が進んではいるが、可変のバリエーションを増やしながら、擬似的なカウンターや厚みのある二次攻撃など、アップデートで対抗できている。鹿島との大一番ではPKのチャンスを決めきれず、最後はよもやのミスが連鎖する形で、鹿島に抜け目なく勝利を奪われてしまった。シーズン通して見ても、大きな痛手になったことは間違いないが、チームがさらに強くなるための転機にしていきたい。各ポジションに役者は揃っているが、リカルド監督の教え子であるMF小西雄大を中盤に加えられたことは大きい。横浜F・マリノスとのルヴァン杯準々決勝2試合の直後にあるアウェー神戸戦がタイトルの鍵を握る。
柏に劇的な勝利で大きく希望を繋いだ鹿島は、川崎で4度のリーグ優勝を経験した鬼木達監督と伝統的な鹿島の勝負強さが融合するような形で、ここまで勝ち点を伸ばしてきた。2度の3連敗を経験しているが、悪いサイクルをしっかりと軌道修正していけるのも強みだ。ビルドアップの質向上にも努めてはいるが、柏のようにな相手には真っ向から付き合わず、鈴木優磨やレオ・セアラ、チャヴリッチに素早く当てて攻め切るなど、勝利>スタイル構築という優先順位が明確にあるのはある意味、鹿島らしさでもある。
ここまで14得点のレオ・セアラという絶対的な点取り屋がいることは、上位争いのライバルにはないアドバンテージだ。中盤の軸に成長した舩橋佑など、戦いながら着実なスケールアップを感じさせるタレントもおり、怪我人が出れば代わりの選手がカバーするサイクルの中で、津久井佳祐や溝口修平といった生え抜きの若手も成長し、ベンチパワーも上がってきているのは優勝争いでも強みになりうる。天皇杯は勝ち残っているが、ACLなどが無く、終盤に過密日程の不安が少ないことも9シーズンぶりのリーグ優勝を後押しする。もちろんACLのような大会を戦いながら、国内のタイトルも目指すというのは鹿島が本来あるべき姿だが、それは次のテーマで良い。
現在首位の神戸が、最も優勝に近いポジションにいることは誰の目にも明らかだ。開幕当初は3連覇というワードが余計なプレッシャーにならないかという心配もあったが、スロースタートだったこともあってか、あまりそういう気負いは感じられない。昨シーズンMVPの武藤嘉紀が長期離脱、大黒柱の大迫勇也もトップフォームに戻らない状況で、佐々木大樹やE-1メンバーにも選ばれた宮代大聖が、3月に加入したエリキとともに攻撃を引っ張り、山川哲史が統率する守備も安定感が増している。
上記の通り町田、広島と同じくACLエリートの負担はあるが、神戸にとって未知の世界ではないので、しっかりとこなしていけるだろう。J2の秋田で前半戦10得点の小松蓮は終盤のジョーカーとしても、過密日程でのスタメンとしても期待がかかる。もし神戸がこれまで以上のペースで勝ち点を重ねた場合、現実的には現在5位の広島ぐらいまでに絞られるだろう。逆に神戸をはじめ鹿島、柏あたりがもたつくと、町田、川崎、浦和にも逆転優勝の芽が出てくる。“6ポインター”と呼ばれる上位対決の結果も重要になるが、まずは8月10日に行われる町田vs神戸に注目だ。

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。




















