気温36.6度…過酷環境に三浦知良「選手にとって厳しい」 猛暑でも観客2倍のカズ効果

5戦連続ベンチ入りも、山本富士雄監督「カズを出せる展開ではなかった」
JFLアトレチコ鈴鹿のFW三浦知良は6月28日、アウェーのFCティアモ枚方戦で5試合連続のベンチ入りを果たした。カズがベンチに座って以来2勝2分けだったチームは0-3で5試合ぶりの黒星、カズ自身も出番はなかった。それでも「キング」の人気は相変わらずで、たまゆら陸上競技場には今季最多1200人超の観客。次節7月6日には、ホームで「プロ40周年特別記念試合」が行われる。
公式記録によると気温は36.6度。猛烈な暑さで観客に熱中症警戒のアナウンスが繰り返されるなか、試合は午後1時にキックオフした。仮設テントの左端に座ったカズはいつも通りに大声でチームを鼓舞。しかし、ここ4試合で1失点と安定していた守備がセットプレーから崩されて3失点。ベンチで汗をかきながら敗戦を見届けたカズは「選手にとって厳しい条件。ハードな試合になった」と振り返った。
劣勢で攻めの形もなかなか作れず「カズを出せる展開ではなかった」と山本富士雄監督。暑さについては「お互い様なので」と話したが、心身ともに疲弊して運動量が落ち、大味な試合になって「起用しようにもタイミングが難しかった」と話した。
この日、競技場には1240人のファンが詰めかけた。驚くような数字ではないが、枚方にとっては今季最多。ここまでホーム7試合の平均が635人だから、倍の人数が集まったことになる。枚方ユニの子どもからも「カズ~」の声。外出自粛も叫ばれる猛暑のなか、ベンチに入るだけでカズ見たさに観客が集まる。
もちろん、クラブ側もこの試合を「万博開催記念マッチ」として集客イベントを実施。鈴鹿のカズと枚方の二川孝広監督(元日本代表MF)をメインにポスターを作り、公式キャラクターのミャクミャクもJFLに初登場した。「カズ効果」を集客につなげた。
JFL1年目の2022年、行く先々のスタンドに多くの観客が集めた。奈良クラブとFC大阪の「平均観客2000人以上」というJ3昇格条件クリアも「アシスト」。抜群の発信力でJFLの存在を世間に知らしめ、価値を高めたとしてリーグから特別表彰も受けた。
今は3年前のような「ブーム」はない。今季は開幕から長く戦列を離れたこともあり、2022年に12チームが最多観客数を記録したような勢いもない。それでも、この日の枚方のようにベンチに入って会場に姿を見せるだけで人は集まる。現役を続けることに対する批判も含めて、その言動は常に注目される。

だからこその「プロ40周年記念試合」。クラブとして祝いたいという思いの裏には、観客動員が伸び悩む事情もある。「もちろん、多くのファンに来場し、祝ってほしい」と斉藤浩史オーナー。「万博開催記念」の枚方と同じように「カズ効果」増大にクラブも動く。
先着2000人への記念シャツプレゼント、40年のキャリアを辿る貴重なコレクションの特別展示、関係の深い北沢豪氏、前園真聖氏、松井大輔氏のトークショー……。カズは「クラブや関係する人たちが祝ってくれるのは光栄なこと」と話し「地域の盛り上げのためにできることはしたい」とも話していた。
申請したJ3ライセンスが交付され、昇格条件となる2位以内に入ったとしても、昇格への最大のハードルは「平均観客数2000人以上」。前半戦折り返しての7月6日に多くの観客を集めることが、後半戦のチームの飛躍、地域の盛り上がり、そして観客数の増大につながる。
試合はあくまでも公式戦で、カズは「普段と同じようにいい準備をして試合を迎えるだけ」と平常心。山本監督も「特別なことは考えていない」と話した。とはいえ、選手個人の冠のついた特別な記念試合。同監督は「チームとしてもそこに向かって準備をしたい。個人的にはカズにとっていい1日になるように、という思いはある」と3試合ぶりの出場に前向きな言葉も残した。
3年前の10月、PKでJFL初ゴールを決めたのが、この日と同じたまゆら競技場での枚方戦。自身が決めてきたゴールに対する記憶力が抜群なカズは「そんなこともありましたね」と言いながらも「だいぶ昔の話なんで」と振り返ることもなく話した。限界に挑戦する58歳は、常に前だけを見て走り続ける。
(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。