U-17代表と対戦で…年下に衝撃「本当に学生?」 J3で感じる焦り「シンプルに悔しい」

栃木シティ守護神の相澤ピーターコアミ「早く追い越さなきゃと思っている」
高校時代にFWからGKにポジションを転向した栃木シティGK相澤ピーターコアミ。最近ではGK鈴木彩艶やGK小久保玲央ブライアンら、海外にもルーツを持つ選手がGKを務めることが多い。
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身体のサイズが大きかったり身体能力が高かったりすることから、指導者がGKで起用したくなるのがその理由とも考えられるが、相澤自身は「全然、自分の身体能力が高いなと感じたことがなかった。むしろ身体能力が低いなと今でも思っている」という。(取材・文=河合 拓/2回目)
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「たとえば、(鈴木)彩艶選手みたいに高く飛べたらとか、ブライアンみたいにうまくつなげたらって感じるんですけど、それって練習で磨ける部分もあるのですがセンスが大きいと思うんです。生まれ持っているものは、本当にないなと思うんですよね。GKになることを勧められるときは大体『ポテンシャルあるし』って、抽象的な言葉をかけられていましたね。でも、『そう言ってもらえるから頑張るか』と思ってやっていました」
自身の身体能力には懐疑的だった相澤だが、身長は193センチとサイズには間違いなく恵まれている。そんな相澤が決して身長が大きいわけではない、元日本代表GKに衝撃を受けた。U-18日本代表合宿に行ったときに、日本代表として4度のW杯にも出場した川口能活氏がコーチとしてチームにいたのだ。川口氏の身長は180センチと、相澤よりも10センチ以上低い。それでもすでに引退したあとでも、ゴールマウスに入ったときの川口氏の威圧感は圧倒的だったという。
「ちょうど能活さんにとっても、初めての帯同でサブコーチのような感じだったので、そんなに細かく教えてもらうことはありませんでした。それでも今でも覚えているのが、能活さんがゴールに入ったときのことです。フィールドプレーヤーの選手たちは、能活さんに対してシュートを打ちたいんですよね。それで『ゴールに立ってください』と頼んで入ってもらっていたのですが、そうするとシュートがマジで入らなくて。『やっぱり全然違うんだ』と驚きましたね。こういう人が指導をしたら、どういうことを教えてもらえるんだろうとは、すごく思いました」
枠に飛んだシュートを止めることはもちろんだが、そもそもゴールマウス前にいる威圧感からも、シュートが枠に飛ばなくなると相澤は感じたという。
「良いところにボールが飛んでも、2、3歩のステップで届いているんですよ。良いコースだなと思っても、余裕そうに止めていたんで。それを見たら今度はよりシュートを厳しいコースに蹴ろうとするけれど、そうすると枠にも飛ばなくなるんです。衝撃でしたね。そのときに盗めたものですか? 特にないですね。そのときは、ちょっとレベルが違いすぎたので、衝撃を受けすぎていました」
2024年、栃木シティに加入してから遠征先のホテルで、たまたま川口氏と一緒になったことがあったという。そのときも細かい指導を受けることはできなかったが、いつか再び指導を受けることが、今の相澤の目標の一つになっている。
相澤はU-18日本代表に選ばれる前、U-17新潟県選抜でプレーしていたときにも、同じような体験をしていたという。それは2018年、相澤のいたU-17新潟選抜が、U-17日本代表と対戦したときのことだ。この時のU-17日本代表のゴールマウスにいたのが、森保ジャパンの正GKとなっている鈴木彩艶だ。
「新潟県選抜にも、晴山岬とか、谷内田哲平(現大宮)とか、帝京長岡で高校選手権で活躍する選手たちもいて、良いメンバーがそろっていたんです。試合は正直、僕らの勝ち試合っていうくらい攻めこんでいたんですが、良いシュートを打っても彩艶が余裕そうに止めていて。それで僕らは『あ、これは入らないわ』みたいになっちゃって、結局、勝てなかったんですよね。あれも衝撃でしたね。GKが勝たせる試合やプレーっていうのを、あの頃に感じられたのは大きかったですね。彩艶なんかは年下でしたけど、『本当に学生か?』っていう感じでしたから。やっぱり年齢って関係ないなって、あのときに強く肌で感じられました」
その後、U-18日本代表に選ばれた相澤は、そこでも大きな出会いを経験している。このチームには、昨年のパリ・オリンピックに出場した選手も多くいた。そこで出会い、刺激を受けた人として真っ先に名を挙げたのはGK小久保だった。
「一緒に練習した選手だとブライアンですね。ブライアンとは、それ以降、今もたまに一緒に食事に行ったりする仲です。彼はメンタルの保ち方がすごいんですよね。レイソルユース出身だったので、すごくGKでありながらもボールをつなぐんです。今、シント=トロイデンでも同じようにプレーしていますが、そこに対して本当にビビっていないんです。僕は人が来ると怖くて、それまでは『ミスをしたらどうしよう』っていう考えでいたんですが、ブライアンは『ミスってするもんじゃないの?』ってミスはあるものっていう前提だったんです。GKがミスをしたら、失点に直結するじゃないですか? だからミスが怖いんですけど、彼は『ミスを恐れていたら何もできないよ』みたいなことを常に言っていました。高校のときから、そういうプレー、立ち居振る舞いだったので驚きでした」
相澤は高校時代までフィールドプレーヤーと二刀流だっただけに、足元にも自信があるのかと思われたが「今でも怖いですよ。ミスの重さが違うんで」と本心を明かす。
「FWでボールを収められなかったとしても、ゴールには直結しないじゃないですか。でも、GKはミスが失点になるし、それが負けにも直結するので、怖いです。ボールを持つのは、怖いですね。まだそういうミスで負けた経験はないんですけど、引き分けになってしまった経験はありますね。ゲームを自分が壊したみたいになってしまったので。ブライアンには、『それでも、やっていかないと成長しないよ』と言われて、チャレンジするしかないと思って、今もやっています。怖いけれど、どんどんやっていきたいですよね。それが世界基準だと思いますし、怖いけれど楽しいので。GKを使うのは栃木シティの強みでもあるので、やっていきたいです」
U-18日本代表には、当然のことながらフィールドプレーヤーにも、同年代の国内最高峰の選手たちがいた。練習では現在デンマーク1部ブレンビーのFW鈴木唯人、FC町田ゼルビアのFW藤尾翔太、横浜FCのFW櫻川ソロモン、東京ヴェルディのFW染野唯月らのシュートを受けた。「本当にすごい顔ぶれでしたよね。速くて、強くて、うまかったんです。いろんな選手がいて、みんな良かったんですけど、一人飛びぬけていましたね」と言って、名前を挙げたのが、柏レイソルのエース「細谷真大」だった。「細谷はそのときの試合で、たぶん、2点か3点くらい一人で決めていたんですよ。『マジか』みたいな感じですよね」。
当時のチームメイトたちが、欧州やJ1で活躍している姿は、「刺激にめちゃくちゃなっていますよ。でも、シンプルに悔しいですね」と言う。「早く僕も追いついて、『彼らと同じときに日本代表に入っていた』と胸を張って言えるようになりたいですね。普通の人から見たら自分は『高校年代は一緒のところにいたのに、ふるいにかけられて落ちていった選手』だと思うんです。なので、そこから上がって行って、当時同じメンバーにいられたことを証明したいですし、だから刺激になっていますが、それ以上に焦りの気持ちが強いです。早く追い越さなきゃと思っているので」。
現在、J3の舞台で奮闘している相澤だが、彼らの存在があるからこそ世界トップレベルを目指し続けることができている。自身のスーパーセーブで周囲を驚かせることも珍しくなくなってきたが、そこで満足している場合ではないことを「焦っている」という彼自身が一番理解している。