プレミア昇格率3倍差の残酷な現実 日本人選手にも影響…議論呼ぶ「パラシュート」の是非

プレミア降格クラブへの援助金「パラシュートペイメント」
プレミアリーグの2024-25シーズンは、閉幕ひと月前に残留争いが終了した。「争い」はなかったと言っても良い。サウサンプトンは、序盤戦の第11節から20チーム中最下位に根を張った。同じくプレミア復帰1年目のレスターとイプスウィッチも、19位でシーズンを折り返した前者が、18位だった後者と降格圏内で順位を入れ替えたに過ぎない。
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昇格組3チームが、揃ってチャンピオンシップ(2部)に逆戻りという展開は、これで2年連続だ。1992年からのプレミア史では、まだ3度目の出来事ではある。しかし、5年前の2019-20シーズン以来、昇格チームが即降格となった事例は「11」を数える。
そこで、トップリーグとの戦力格差が指摘されるわけだが、同時に、2部内でも格差が生じていると理解できる。来季のプレミアには、昨年に降格したバーンリーが戻る。バーンリーとの優勝争いを制し、2部王者として復帰するリーズは、一昨年の降格組だ。つまり、プレミア残留には不十分だが、チャンピオンシップ脱出には十二分な力を持つクラブが、昇降格を繰り返す傾向が強まっている。
来季は、サンダーランドも9年ぶりのプレミア復帰となるが、昇格ルートは、降格1年目を3位で終えたシェフィールド・ユナイテッドを決勝で下した、プレーオフ経由。いわゆる“ヨーヨークラブ”以外の2部勢は、自動昇格を意味するトップ2争い参戦が難しいため、残る1枠を懸けたトップ6入りを目標とせざるを得ない状況となっている。
この格差が生じている要因として、議論の対象となっているのが「パラシュートペイメント」だ。19年前に導入された、プレミアリーグから降格組への援助金は、その名のとおり、降格に伴う経営面での衝撃をやわらげる目的で支払われる。援助金を与えるプレミア側には、復帰時にリーグのレベルが損なわれないだけの競争力を維持させる意図もある。
現状の仕組みでは、残留していれば他クラブと同額を受け取っていたはずの放映権収入分配金を基に、降格1年目にはその55%、2年目は45%、3年目には20%に相当する額が支払われる。3年目は、プレミアで2シーズン以上を過ごしたクラブのみが対象となり、降格1、2年目に再昇格となれば、翌年の支払いはなし。金額は、平均で1クラブ当たり年間3000万ポンド(59億円弱)程度という理解が一般的だ。
“パラシュート”有無による格差の実態
資金源となるプレミア放映権料の規模を考えれば、パラシュートペイメントの存在自体は正当に思える。すでに監査報告後の数字が公表されている2023-24シーズンを最新例とすれば、所属20チームには、一律8670万ポンド(約170億円)の放映権収入が分配されている。加えて、放映対象となった試合数に応じた配当があり、最も回数が少なかったバーンリーでさえ、プラス930万ポンド(約18億円)という世界だ。
この放映権収入の巨大化により、総収益に見るトップリーグと2部との差は、1992-93シーズン当時の1000万ポンド台から、30億ポンド台へ。それだけ落差を“降格”するのだから、“パラシュート”があるに越したことはない。
ただし、チャンピオンシップには、パラシュートで降下する3チームのほかに21チームがいる。直近2シーズンでの“パラシュート降下組”はまだしも、そのほかの2部勢にとっては、崖の底から這い上がる希望が弱まる一方だ。
公表されている2部リーグの数字では最新の2022-23シーズン、24クラブの総収益は7億4700万ポンド(約1464億円)となっている。60億ポンドを超えていた、プレミア総収益の12%程度。厳しい現実ということになるが、その2部総収益の約44%を、同シーズンにパラシュートペイメントを受け取っていた5クラブが占めていたという、問題視すべき現実もある。
国内には、パラシュートペイメント受領クラブが昇格を果たす可能性は、非受領クラブの3倍とする調査結果がある。来季チャンピオンシップにしても、レスターが経営の収益性と持続性に関するPSR規則に触れたかどで、プレミアリーグから制裁を受ける危険性がなければ、降格したばかりの3チームが揃って昇格の有力候補と見なされて6月を迎えていたに違いない。
フットボールリーグ(2~4部)が、パラシュートペイメントの見直しを求めるのも無理はない。2部でも、クラブ経営支出の主要項目である選手給与は、過去10年間で倍増したと言われるが、プレミアからの降格組が手にする援助金は8倍に増えていることから、パラシュートの有無が、資金力面でも持てる者と持たざる者の差につながっているとの見方がある。
その金額を下方修正する代わりの要求が、プレミア放映権収入の25%シェア。現時点で非パラシュート降下組が受け取る援助金は、パラシュート降下組の数分の1に過ぎない。具体的には、3年目のパラシュートペイメント額、即ち放映権収入分配金の2割相当分の、そのまた3割分。フットボールリーグ側は、放映権収入からの取り分を増やすことによる、全体的な収入の底上げを望んでいる。同リーグのリック・パリー会長曰く、「崖の高さが減れば、パラシュートの必要性も減る」というわけだ。

ヨーヨークラブ化を避けた2つの例
もっとも、プレミアリーグ側も簡単には譲らない。単独リーグとしての道を選んだ最大の理由は、トップリーグとしての競争力アップにつながる収益力アップを図ることにあり、その一環として、フットボールリーグ時代には5割だった放映権収入の取り分増もあるのだから。
結果として、イングランドのトップリーグは、今や英国が世界に誇る最大級の“輸出商品”となっている。その魅力である高い競争性を損なうような変更が、果たして認められるのかどうか? 今秋には正式発足が見込まれ、国内サッカー界における競争力や経済力の問題点を正すべく動くことになる、規制当局の判断が待たれる。
だが、プレミア昇格を狙うチャンピオンシップ勢には、自らの意思でヨーヨークラブ化を避け得る手もあるだろう。何事にも例外はあるもので、もともとパラシュートペイメントとは縁のないブライトンとブレントフォードが、前者は初昇格から8年目、後者は4年目のプレミアを、ともにトップ10内で終えたばかりだ。
データ主導の賢い補強で知られる両軍には、昇格当初の賢いスタンスという共通点もある。ブライトンは、ボール支配よりも堅守を重視するクリス・ヒュートンの下で残留の足場を固めてから、ポゼッション路線へと監督交代を伴う変化を進めてきた。
ブレントフォードは、このほど7年にわたるトーマス・フランク体制に終止符が打たれたばかり。トッテナム就任が決まった51歳のデンマーク人監督は、つないで攻めるサッカーの理想を持つ指導者だが、対戦相手やチームの状況に応じて結果を優先する、現実感覚を持つ指揮官でもある。
対照的に、ここ数年は、後方ビルドアップへのこだわりで墓穴を掘る昇格チームが珍しくない。ボール支配を前提とする傾向が強まったプレミアでは、不可欠な要素の1つである組織的なプレッシングのレベル向上も著しい。後方の足元がプレミア級とは言い難いようであれば、格好の餌食となる。攻撃主体のチームとして昇格したサウサンプトンが、2勝しかできずに、得失点差も「-60」という大差の最下位(19位イプスウィッチは4勝、得失点差-46。18位レスターは6勝、得失点差-47)に終わったばかりだ。
そこで注目されるのが、スコット・パーカー率いるバーンリーの来季。2年前、バンサン・コンパニ(現バイエルン・ミュヘン)体制下での前回昇格時は、10試合を計25失点での8敗という、リーグ戦開幕当初から内容重視の弊害が明らかだった。
パーカー自身にも、3シーズン前の苦い経験がある。ボーンマスでの昇格1年目、チームは、第2節からマンチェスター・シティ、アーセナル、リバプールと続いた強豪3連戦で計16失点の3連敗。攻める勇気を貫かせようとした指揮官は、開幕1か月目にして職を追われた。
クラブも監督も、経験から学んだのだろう。今回のバーンリーは、2部での全46節を1失点以下で終えたリーグ史上初のチームとして、堅守を武器にプレミア復帰を果たしている。トップリーグが誇る富の恩恵に、期間限定のパラシュートペイメントを受け取る降格組ではなく、プレミアの一員として与かり続けるために。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。