佐野海舟はなぜ全試合出場できたのか? 「できない」を武器に…特筆すべき改善スピード

ドイツ1部マインツでリーグ戦全34試合に出場、課題と向き合った日々
日本代表復帰で即スタメン抜擢となったドイツ1部マインツの佐野海舟。今季のブンデスリーガでは全34試合に出場し、ほぼフル出場を果たした(第4節以降はフル出場)。持ち味のボール奪取力に加え、攻撃への素早い切り替えやドリブル成功率など、オフェンス面での成長も現地で高く評価されている。ブンデスリーガ1年目でどのように自身の課題と向き合い、プレーの幅を広げていったのか。佐野自身の言葉を交えながら、サッカー面での取り組みを振り返る。
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2024-25シーズン序盤、佐野は新天地マインツで手探り状態が続いていた。しかし、マインツのボー・ヘンリクセン監督と映像を用いたミーティングを何度も重ね、チームメイトからも温かいサポートを受けながら、試合を重ねるごとに迷いのないプレーを披露するようになっていく。
2024年最後の試合となった第15節フランクフルトとのアウェー戦で勝利を収めた後、佐野はこうした成長の手応えについて語っていた。
「今、迷いなく試合でやれているのは、確実に練習で考えながら自分の課題であったり、武器というのを伸ばす取り組みをしてきたからだと思います。まだまだ出せるものはある。継続していきながら、また新しい自分を出せればいいなと思っています」
2025年を迎える頃には、中心選手としての自覚も芽生え始めていた。自身のプレーに集中するだけでなく、積極的に周囲へ指示を出し、コミュニケーションを図りながらチーム全体の状況改善に取り組む姿が見られるようになった。
マインツの攻撃は、司令塔のドイツ代表MFナディム・アミリから始まる。高いインテリジェンスと実行力を兼ね備えたアミリが輝きを放てるよう、佐野は近い位置でサポート役に徹していた。しかし、対戦相手の分析が進むと、アミリへの徹底マークが目立つようになり、チームとして打開が難しい試合が増加。こうした状況を受けて、ヘンリクセン監督は比較的早い段階から佐野に対して、攻撃面でも積極的な役割を果たすように求め、それがチームの勝利にとって極めて重要だというメッセージを、繰り返し送り続けていた。
「チームのバランスを見るという役割も与えられているなかで、出すのが難しい時もあります。でも、やっていかないと成長できない」
佐野が口にした反省「逃げてしまったりもあった」
試合ごとに課題を明確にし、それを持ち帰って改善に取り組む。全試合に出場しながらも、疲れを見せることなく練習でも常に全力の姿勢を貫く。マインツのトレーニングはインテンシティ(プレー強度)が非常に高く、練習から実戦さながらのバチバチの環境が構築されている。こうした日々の積み重ねとチーム全体の成長により、今季はバイエルン・ミュンヘン、フランクフルト、ボルシア・ドルトムントといった強豪にも勝利を収めた。
「監督は常に自信を持てっていうふうに言ってくれています。チームはすごい自信も、勢いも持っている。上位チームには上位チームなりの難しさがあると思うので、その隙をしたたかに狙えているのかなと思います。毎週の積み重ね、対戦相手の対策だったり、自分たちのやるべきことを形として出すというのは、できてきているのかなと思います」
シーズン終盤に入ると、佐野の持ち味は守備だけにとどまらず、ボール奪取後に勢いを保ったまま、推進力抜群のドリブルで相手陣内深くまでボールを運ぶシーンが格段に増加した。必死に止めにかかる相手の激しい当たりを弾き飛ばして前進する姿に、マインツファンも驚嘆。なかでも第27節ドルトムント戦では、1-3の敗戦に終わったものの、何度も相手守備陣をかいくぐり、力強くばく進する佐野のプレーが各方面から高く評価されていた。
「鹿島(アントラーズ)の時はある程度、ああいうプレーをやっていました。それがやっと出せている気がします。チームからもああいうのは求められていましたし、最初はスペースがあってもパスで逃げてしまったりもあった。監督やチームから、そこを求められているというふうに言われた時に、じゃあ自分がどうやればいいのかを考えて取り組んだ結果かなと思います」
ホームで行われた第32節フランクフルト戦後、佐野はゴールやアシストへの意欲についても思いを口にしていた。ゴール前やペナルティーエリア内でボールに絡む頻度が増えれば、得点やアシストの可能性も高まる。佐野自身もその点を意識していると明かしていた。
「そういうプレーの数を増やせば、ゴールやアシストの確率は高まる。質にこだわることはもちろんですし、数のベースも増やしていきたいと思っています」
特筆すべきは佐野の改善スピード、「できない」の発見は達成への一歩
今季は結果として、ゴールやアシストの数字を残すことはできなかった。しかし最終節のレバークーゼン戦では、惜しくもオフサイド判定で無効となったものの、アミリのゴールを演出する見事なプレーを披露。課題を見つければ即座に修正に取り組み、着実に次へとつなげていく。その改善スピードは特筆すべきものがある。
とはいえ、ブンデスリーガは決して容易な舞台ではない。マインツも一時は3位まで浮上し、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)やUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場の可能性で盛り上がったが、終盤には思うように勝てない時期に直面した。そうした経験を通して、サッカーの難しさ、ブンデスリーガという舞台の厳しさを改めて実感したと、佐野は振り返っている。
「難しさは毎試合、感じています。シーズンのなかで、チームとしても個人としても波がある。両方が良い時はあまりないと思います。それがちょっと前の自分たちだった。この波をどれだけ小さい波にしていけるか、自分たちがどう変わっていくかが大事かなと思います。これから先も出来過ぎというシーズンはないと思う。自分の課題といつも向き合っているなかで、課題がなくなるということはサッカーをしている以上はない。1つずつ向き合いながら日々やっていますし、1つずつクリアして次に進むという繰り返しかなと思います」
2シーズン目は対戦相手の研究も一層進み、今季以上に難しいステージとなるだろう。しかし、「できない」の発見は達成への一歩。課題の数だけ成長のチャンスがあるのだから。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。