W杯得点王がボランチとして進化中 「試合を動かせるように」…目指す英名門での主軸化

惜しくも女子FA杯優勝を逃した宮澤ひなた【写真:Getty Images】
惜しくも女子FA杯優勝を逃した宮澤ひなた【写真:Getty Images】

マンUウィメンは女子FA杯決勝で3失点完敗

 宮澤ひなたは、2年連続のタイトル獲得で今季を終えることができなかった。5月18日、昨季から所属するマンチェスター・ユナイテッド・ウィメンが、連覇に挑んだ女子FAカップ決勝。軍配はチェルシー・ウィメンに上がり(3-0)、逆にウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)と女子リーグカップを合わせた3冠を達成された。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 総合力の違いは、勝者が後半アディショナルタイムに行った選手交代が物語る。ピッチを下りたのは、サンディ・ボルティモア、エリン・カスバート、ルーシー・ブロンズの3名だった。

 フランス代表ウインガーのボルティモアは、2ゴール1アシストのプレーヤー・オブ・ザ・マッチ。会場となったウェンブリー・スタジアムで、チェルシーに出資している夫と観戦した元プロテニス選手、セリーナ・ウィリアムズも「当然でしょう」と帰り際にコメントしたほどの活躍だった。スコットランド代表MFのカスバートは、今季のチーム年間MVP。イングランド代表右SBのブロンズは、女子CL王者の肩書きを引っさげて、昨夏にバルセロナから移籍した新戦力だ。

 代わりに投入されたのは、ノルウェー代表グロ・レイテン、ドイツ代表ショーケ・ニュースケン、スウェーデン代表ヨハンナ・リッティン・カネリド。それぞれ、女子バロンドールのノミネート歴を持つベテランのウインガー、伸びしろもある24歳の攻守両用MF、イングランドのサッカー記者協会による年間最優秀選手投票で、筆者が今季女子部門で1票を投じた快速ウインガーときている。

 それでも、敗者の中盤で81分間を戦った宮澤は、「正直、凄い悔しい」との心中が窺える表情で語った。足首骨折の怪我から復帰して間もなく、終盤の交代出場だった昨季トッテナム戦とは違い、スタメンに名を連ねた今季決勝に期するものもあったのだろう。だが何より、相手がチェルシーであればこそ、ウェンブリーのピッチに自軍の爪痕を残したかったに違いない。

 国内では、シーズン無敗のままタイトルを総なめにしたチェルシーは、WSLの他チームが「打倒」を意識すべき対象だ。ユナイテッドは、今季WSL3位。昨年11月と今年4月のリーグ対決は、2戦2敗とはいえ、いずれも僅差(0-1)だった。7万4000人を超す大観衆を集めた今回の一発勝負でも、果敢なプレッシングが奏功し、立ち上がりに成功していた。

劣勢が続いた展開も「もうちょいコントロールできたかなと」

 しかしながら、最初に攻め込まれた前半16分以降は、形勢を逆転されたままリードを広げられた。攻め込まれ始めると、基本の4-2-3-1システムではなく、5-4-1を採用してきた相手に苦戦した。2ボランチの右側で、インサイドのカスバートと、アウトサイドのボルティモアをケアしなければならなかった宮澤も言っている。

「直近(のリーグ戦)でやっていたので分析はしていましたけど、やっぱり、相手がどう来るかは試合になってみないと分からなかったので、その対応をもうちょっと早くしなきゃいけなかった。あと、お客さんが多い分、(ベンチから指示を叫ぶ)スタッフの声が聞こえないなかでどうやるかは、選手内で話し合ってはいたんですけど、押し込まれたというより、自分たちで下がりすぎていたなと、やっていて感じました。じゃあ、そこで行くのか、今は引くのか、そういうところはもうちょい良くできたかなと思います」

 選手交代に伴い、ハーフタイム明けからは単独でアンカーを任された自身の出来に関しても、「もうちょい」という思いがあったようだ。

「自分たちが、なかなかボールを握れない時間帯が長くなってしまって。少し前にチェルシーとやっていたのもありますけど、相手の状況を分かったうえで戦っていくなかで、もうちょいゲームをコントロールできたかなと感じた部分もありました。押し込まれている時間帯が結構あって、そこで慌てて蹴って、また相手ボールみたいな。そういう時間帯が多かったので、自分のところにボールが入った時には、少しでもリズムを変えられたらと思いながらやっていました」

 確かに、その意図は見て取れた。例えば、前半18分。ルースボールを拾った宮澤は、敵のプレッシングを落ち着いてかわしてから攻撃に転じていた。後半7分には、自身はボールを失ったが、冷静かつ執拗なチェイシングで奪い返してつなぎ、結果として味方にシュートチャンスが生まれている。

 相手GKの正面をついたボレーを放ったのは、後半頭から投入されていたエラ・トゥーン。25歳のイングランド代表は、この日のベンチスタートが物議を醸したスター選手だ。

 ただし、現在のユナイテッドにおいて、最も先発してもらいたいMFの名前を挙げるとすれば、個人的には「宮澤」になるだろうか。昨季の5位から順位を上げ、来季は(2次予選から)CLにも出場するチームは、縦に速い従来の攻撃に、つなぎという引き出しを設けようとしている。この進化を遂げるうえで、日本女子代表でのイメージとは異なるが、中盤中央に宮澤が存在する意義は大きい。

ボランチとして「中心で試合を動かせるような選手に」

 当人の口からも、「ボランチとしての戦い方は、自分の中で1つ成長できたところかなと思います」と、頼もしい言葉が聞けた。

「代表ではサイドをやっていても、クラブではボランチで役割が違うなか、今季も、前半戦は途中から(の出場)だったり、ちょっと自分自身でも苦しいというか、もどかしい時期があったんですけど、終盤戦に差しかかるにつれて、しっかり出場時間も増やせましたし、これからはチャンピオンズリーグとか、優勝といったところを目指すにあたって、もっと成長していかなきゃいけないところは多いと思います。チームの軸、じゃないですけど、攻撃も守備も常に中心で試合を動かせるような選手になりたいというのは、今シーズン、コンスタントに出始めるようになって、自分自身の意識が強く変わったかなと思います」

 続けて、“ユナイテッドの宮澤”としての決意も語ってくれた。

「ワールドカップ(での自分)を観ている方たちからしたら、『いや(違う)』っていうところはあると思いますけど、皆さんが思い描いているようなボランチよりは攻撃的、そういうイメージは自分の中にあります。

 対戦相手や時間帯によって、守備の部分が増えてきてしまうとは思いますけど、そこは本当に自分自身の成長というか、1対1とか、球際のところで、前の選手よりも求められる部分。(ユナイテッドで)2シーズンやって自信を持て始めたというか、球際のところで行くタイミングだったり、今までのポジションとは少し違う形でタイミングを取らなきゃいけない、前の選手を動かさなきゃいけないっていう、また違った楽しみがある。もっと自分自身と向き合って、ボランチだけど、もっと攻撃にも参加できるようにしたい。来シーズンは、もっと得点が欲しいという思いもあるので」

 今季前半に話を聞いた際、本人が言っていた「自分が出たらつなごうみたいな、チームとしての意識」は、今季の幕を引いたFAカップ決勝でも垣間見られた。

「みんなが分かってくれているというか、でも、ずっとつないでいてもあれなので、自分らしいプレーとチームのやりたいことをミックスして、上手く変化をつけられたら」と、宮澤。

 ユナイテッドの進化とともに成長する、25歳の主軸化が楽しみだ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



page 1/1

山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング