名門校に憧れ…視察スタッフ直談判「僕も入りたい!」 下剋上も涙「本当に悔しかった」

昌平の小野寺太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
昌平の小野寺太郎【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

昌平の小野寺太郎「青森山田は高校サッカーにおいて最大の壁だと思っていて」

 タイムアップの瞬間、昌平GK小野寺太郎はその場にうずくまり、しばらく動けなかった。高円宮杯プレミアリーグEAST第8節・昌平vs青森山田の一戦、激しい雨のなかで行われた試合は1-3で青森山田に軍配が上がった。

「今日はどうしても、どうしても勝ちたい試合でした。何がなんでも勝ちたかった」

 試合後も小野寺の表情は険しかった。それもそのはず、青森山田は彼の地元・青森の高校で、彼らを倒すために埼玉の昌平にやってきたからだった。小野寺は青森県弘前市出身で、小学時代から県内の強豪クラブであるリベロ弘前SC U-12でプレー、中学もそのままU-15でプレーをした。

 きっかけは小学校6年生の冬にテレビで見た第98回全国高校サッカー選手権大会準々決勝・青森山田vs昌平の一戦だった。

 武田英寿(ベガルタ仙台)が率いる青森山田に対し、2年生10番のMF須藤直輝、FW小見洋太(アルビレックス新潟)、3年生MF鎌田大夢(仙台)を擁した昌平が大激戦を演じた。前半だけで3点リードされるが、後半に2点を奪い、後一歩まで迫ったがベスト8敗退を喫した。

「あの青森山田にあそこまで張り合えて、ギリギリまで追い詰めていた昌平のサッカーがすごく衝撃的で、魅力的に映ったんです。それまではおぼろげながら『高校は県外に出て、全国で青森山田を倒したい』と思っていたのですが、この試合を機に『昌平に入って、青森山田を倒したい』という具体的な夢に変わりました」

 リベロ弘前U-15では青森山田中学に一度も勝てなかった。中学3年生になると、県選抜に選ばれていたことから、県外の1つの強豪校からは話をもらえたが、昌平からは何も声がかからなかった。

 個人的に応募して練習参加をすることも考えていた中3の夏に、昌平のスタッフがリベロ弘前U-15のグラウンドに視察に訪れた。チームメイトで年代別日本代表に入っていたFW葛西夢吹(湘南ベルマーレU-18)の視察に来ていたのは分かっていたが、「いいプレーをしたら、自分にも声がかかるかもしれない」と期待し、精一杯プレーをした。

 しかし、声は一切かからなかった。目当ての選手や指導者と会話するそのスタッフにずっと視線を送り、帰ろうとした瞬間を狙ってダッシュで駆け寄った。

「僕も昌平に入りたいです! 練習会に参加をさせてもらえないでしょうか」

 必死の直談判だった。「帰ってしまう前に、自分の気持ちを伝えたかった」と咄嗟に身体が動いた。その熱意が伝わったのか、練習会の参加の許諾をもらった。そして気合を入れて練習会に参加をした結果、入学を掴み取ることができた。

 だが、彼の身長は176センチとGKとしては大きくはない。1学年上には189センチのGK佐々木智太郎(清水エスパルス)など大型GKがおり、厳しいGK競争のなかで苦しんだ。昨年はプレミアEASTの登録メンバーに入ることができず、セカンドチームとしても埼玉県1部(S1)リーグでの出番は訪れない。

「トップが遠かった。でも、GKとしては身長がないのは分かっていたことなので、ほかのGKができないことを極めようと思っていました。自分のプレースタイルを見つめ直したときに、僕はGKの割には50メートルが6.2秒とスピードがあったし、俊敏性に自信があった。サイズがない分、シュートストップやクロス対応も予測力が命だったので、それらを徹底して磨けば、いつか必ずチャンスが来ると思っていました」

 全体練習後にコーンドリブルをしたり、スプリント解説をする動画を見て、ストップ・ダッシュを繰り返したりと、フィールドプレーヤーがやるような練習を黙々とこなした。さらに小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン)やアリソン(リヴァプール)などの分析動画を見て、ポジショニングやDFラインの裏の対応、キックなどを学んで練習に落とし込んだ。

「いろんなシチュエーションに柔軟に対応できるGKになりたいんです」

 しっかりと自分にできることを見つめ直し、徹底した努力を積み重ねた結果、彼は最高学年を迎えた今年、守護神の座をガッチリと掴み取った。プレミアEAST開幕から全試合フル出場。そして、念願叶った青森山田との決戦だった。

 青森山田には県選抜で一緒だった青森山田の選手が多くいた。先制点はよく知るFW深瀬幹太にPKを決められ、2点目は深瀬のシュートを止めきれず、ポストに当たったボールが味方に当たってオウンゴール。3点目も当時の仲間であるMF麓莱凛のクロスから喫した。

「本当に悔しかった。うずくまった瞬間は涙が出たのですが、ここで号泣をしてしまったら、この先絶対に通用しないと思ったので堪えました。十分やれると思ったし、まだまだ自分の本気度が足りないと思った」

 悔しさをモチベーションに変える。この一戦で改めて昌平に来た意味を再確認した。

「青森山田は高校サッカーにおいて最大の壁だと思っていて、そこを乗り越えてからこその全国優勝などがある。この試合で僕はやっとスタートラインに立ったに過ぎないので、ここからインターハイ、プレミア後期、選手権と全部勝てるように、ここの壁は絶対に超えていきたいです。今日からもう一度気持ちを入れ直します」

 覚悟の直談判、下のカテゴリーからの下克上。そして青森山田を倒すという強い気持ち。燃え盛る意欲とともに、小野寺は大きな存在感を放って昌平のゴールを守り抜く。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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