歌手転身で叶えた夢「僕にしか喋れない」 元Jリーガーが歩んだ10年「こういう人もいるんだよと」

「SHOW-WA」の青山隼氏が語るサッカーとの違い
27歳でサッカー選手を引退し、俳優として活動していた青山隼氏は、35歳でオーディションに合格して「SHOW-WA」の一員となり、本格的に歌やダンスのレッスンにも取り組んでいった。サッカー選手として身体を動かしてきた青山氏だが、ダンスや歌はほぼ未経験。一歩一歩、基礎から積み重ねている段階だという。(取材・文=河合拓/全5回の3回目)
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「メンバーにも経験者はいますし、ボイトレがあったり、ダンスの先生もいたりするので、教わりながら基本からやっています。よくサッカーに例えるのですが、『止めて、蹴る』ところからですね。『どう止めるのか』『どうパスするのか』。その引き出しが圧倒的に少ないので、サッカーに例えながら、想像しながらやっています」
だが、ここにもまた難しさがあるという。サッカーに比べると、歌は成長を自分で感じ取るのが難しいというのだ。どういうことなのか。
「自分がうまくなったなって、サッカーの時とかは練習でも『このトラップをして、イメージどおりにボールがあのスペースに出せた』って、目に見えて成功したかどうかが分かるじゃないですか? ダンスはまだ映像を見れば、できるようになったかどうかが同じように分かるのですが、歌っていうのは自分がうまくなったかどうかが分からない部分も大きいんです。僕自身はまだよく分からないのですが、『喉でしっかり声を出せたかどうかでも全然聞こえ方が違うよ』って言われるんですよね。そういうアドバイスをもらいながら、なんとなく『こういう声の出し方をすると、この歌はいいんだ』というのを掴みながらやっているところです」
サッカー選手と歌手で「見られる感覚」の違い
ピッチ上からステージ上に場所を変えて、青山氏は再び人々の注目を集める場所に立つ存在となった。日々、グラウンドで取り組んできたことを多いときは数万人の前で見せるサッカー選手だった青山氏は、普通の人よりも大勢の人の前で何かをすることには慣れているだろう。
多くの人の前に立っても物怖じすることはないと頷く青山氏だが、サッカー選手と歌手では、「見られる」感覚に違いがあるという。
「前回のホールツアーも1000人弱の箱(会場)でした。J1やJ2だと、1000人は入らないことがないですし、それこそ何万人のなかでもプレーしていたので、そういう意味では緊張することはないですね。ただ、サッカーはピッチで戦っている姿を見るじゃないですか? 戦って『サッカーの試合』を見せる。それでかっこいいとか、すごいって思ってもらうものだと思うんです。でも、今は自分が見られるんです。ステージに立ってお客さんに笑顔を見せたり、自分を見せることが求められます。今だと、『目が合った』って喜んでもらえますが、サッカーのプレーの時ってお客さんと目が合うことはないじゃないですか。『どこ見てんだ! 集中しろ』って言われますよね(笑)。そういう違いはすごくあるので、それも学んでいるところです」
口ぶりからも今の仕事の充実している様子が伝わってくる青山氏だが、サッカー選手の時には、どんな瞬間に「楽しい」と感じていたのだろうか。
「これも辞めてから気づいたのですが、試合の時は『楽しい』っていう感じることはまずなかったですね。自分が試合に出て、チームが勝った時、全部の結果が出た後に『ああ良かった』とか『楽しかった』と感じることが多かったです。でも、やっている時は『楽しい』よりも『ミスをしたらどうしよう』とか『良いプレーをしないと次はないぞ』とか、試合中にそこまで考えていたわけではないですが、そういうプレッシャーを常に引きずりながらやっていたなと思います」
「今は、ライブの時に笑顔を見せたりすることもそうですが、仮にちょっとミスがあっても、それも『ライブだからこそ感じられるもの』『エンタメの一部だよね』と思ってもらえます。優しいファンが多いので(笑)。あとは、サッカーしかやってきていない人が、新しくやっていることに対して『頑張っているな』っていう眼差しで見てくれたりする。そういうのを考えると、やりながら楽しめている自分がいますね」
夢だったサッカードラマに出演
サッカーという真剣勝負の場だからこそ感じられるヒリヒリするような緊張感、自分の一挙手一投足すべてがファンに注目されるステージ上。どちらも特別な舞台であり、改めてその2つを経験している青山氏の人生はユニークだなと思わされる。
今後、芸能活動をしていくにあたって、青山氏はサッカー界とどのようにつながっていきたいと考えているのか。
「(柿谷)曜一朗もそうですが、僕の世代がみんな引退して、ほぼほぼ残っていないようになってきました。みんな35歳くらいで引退して、ほとんどの人が解説者や指導者になっています。でも、僕は最初からそういう道は考えていなかったので、早くにサッカー選手を辞めて、まるっきり違う世界に行き、ドラマに出させていただいたり、歌手の活動をさせていただいたりしています。全く違う道に行ったのですが、去年、ルヴァンカップの決勝前にドラマの仕事で内田篤人さんや小野伸二さんと仕事をさせてもらったんです」
昨年、名古屋グランパスとアルビレックス新潟が戦ったルヴァンカップ決勝は、「史上最高の決勝」とも称される名勝負となった。その大一番に向けてフジテレビでは「ルヴァンカップの魔法」というドラマを配信した。5夜連続のスペシャルドラマには、元日本代表DF内田篤人氏と元日本代表MF小野伸二氏がナレーターと本人役を務め、青山氏もサッカー選手役で出演したのだ。
「それは一つ、夢が叶ったなと思います。僕が歩んできた10年間があって、彼らは彼らの歩んできた10年間があって、それが合わさって違う会話ができました。セカンドキャリアに進む選手って、いろんなジレンマを抱えていたりすると思うんです。そこで『こういう人もいるんだよ』と、先ほど話したような苦労や楽しみがあるよって、僕にしか喋れないことが必ずあると思うんです。なので、そういうことを現役の選手や引退したあとの選手にも伝えられるように発信ができたらいいなと思いますし、彼らにも話を聞いてみたいですね。そういう意見交換も楽しいと思いますし、そういうのを僕は求めているので、ちょっとずつ形になっているのは嬉しいですね」
今後、歌手として知名度が高まっていけば、おそらくサッカーの試合の解説などの仕事のオファーも届くだろう。「そういうのもいいですよね。歌手として解説に呼んだけど、実は蓋を開けてみたら『U-20まで日本代表でした』みたいな(笑)。そういうのが面白いなと思います」と、U-20W杯でゴールも決めている35歳は笑った。
歌手の青山氏を通じて、サッカーを知り、サッカーを好きになる人が、この先きっと出てくるだろう。選手としては早くに現役を退いた青山氏だが、サッカーとのつながりは続いている。これまでも、これからも。
(河合 拓 / Taku Kawai)