代表選択で日独「どっちかを捨てるみたい」 21歳逸材に迫る究極の決断「50-50」

長田澪がイメージするのは日本代表のレジェンドGK
ドイツ1部ブレーメンに所属するGK長田澪(ミオ・バックハウス)が、「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じた。U-20ドイツ代表にも招集された経験を持つ超有望株には、いずれ日本代表とドイツ代表のどちらかを選ばなくてはいけない時が来る。偽らざる“ホンネ”を語った。(取材・文=林 遼平/全3回の3回目)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
オランダでの躍進のあと、ブレーメンに復帰したシーズンが終わろうとしている。現在はなかなか出番を得られていない状況ではあるが、文句を言うことなく、自分自身に矢印を向けて前に進んでいる姿が印象的だ。インタビューの際に対応してくれた広報さんも「彼は優しく、知的で、ナイスガイよ」と話してくれたが、まさにその言葉どおりの印象を受ける青年である。
ある意味、日本人らしい気質にあふれている長田澪だが、気になったのはその優しい性格によってメンタル的に難しくなる時はないのかということ。それをストレートに聞いてみると、「プロに上がったときは結構キツイなと思いました。夢見たプロと違うじゃんみたいな」と苦笑いした長田は、トレーニングの中での出来事により自身のメンタルが少しずつ変わってきたことを説明した。
「最初は、みんな優しくてミスしても大丈夫みたいな雰囲気かと思っていたんですけど、練習のときからバッチバチで。でも、ロッカールームに戻るとみんな優しくなる、みたいな。みんな正直なんですよね。それに気づくのに少し時間がかかったというか、みんな勝ちたいので悪いプレーをすると文句を言われますけど、いいプレーをすると褒められるんです。今日はすごくキツいことを言われたけど、決してオレのことが嫌いなわけじゃない、そういうのに気づくのに時間がかかりましたね。当時はキツイなと思いましたけど、結局みんな勝ちたいだけ。正直なんで。それに気づけたのが大きかったです」
厳しさは勝利への貪欲さ故。それでも、「一人ひとりにやり方があると思います。別に人がミスして怒るのも一つの手だと思うんですけど、『今度はいいプレーしようよ』みたいにポジティブな感じというのもできると思う。僕はどっちかというとポジティブな方に持っていこうと思っています」とする言葉は長田らしい。
ただ一方で、そこが改善点の一つでもあると長田は言う。父親譲りの優しい性格は自身の特徴でもあるが、時には厳しさが必要になる時もある。常にピッチで周りを叱咤しているドイツのGKが多い中、そういった精神を持つことが成長への一歩となる。
「(試合に出ているGKは)常にキレているイメージがありますし、そういう人たちが試合に出ているのは偶然じゃないと思う。そういう面でも大人になるというか漢になるというか、そこはまだちょっと足りないので変えていこうと思っています」
大人、漢。そのイメージの先にあるのは、日本代表のゴールを長らく守ってきた男の姿だ。
「昔、よく見ていた川島永嗣さんはピッチ上で超怖いなと思っていたんですけど、今はそういうふうになりたいなというのがありますね」

ドイツと日本…「現時点では決められない」
そういった話が出てくると、どうしても聞きたくなるのが代表に関してだ。U-20ドイツ代表の招集歴がある長田は、このまま成長を続けていけば、ドイツ代表と日本代表を選ばなければいけないタイミングが来るかもしれない。その時にどういう決断をするかは、誰しもが気になるところである。
現在は移動などを含めて海外組である難しさが理由の一つにあり、日本ではなくドイツのアンダー代表を選択するに至った。ただ、今後に関しては、現時点でどちらかというのを決められないと素直な思いを明かしてくれた。
「もちろん、ドイツはずっとアンダー世代からやってきているので、お世話になっているという思いはあります。ただ、だからドイツに決めたというのはない。生まれてからほぼフィフティフィフティぐらいにドイツと日本に住んでいて、両親も半々で、両方ともすごく好きなんです。日本でもすごく良い時間を過ごして友達もいっぱいいますから。ドイツに行きたくて来ましたけど、日本はこんなところが良かったんだみたいな発見もあったりして、逆に日本人はもうちょっと自由にやれたらなという思いもあって。本当にどっちも好きだから難しい。正直、まだ決めようがないです。どっちかを捨てるみたいで、正直考えたくもない。だから、そういう話が出るまでは考えないようにしようと。両方好きだから難しいです」
言葉を選びながら自分の思いを伝える姿を見て、偽りのない本音であることが感じられた。いつか来るかもしれないその時に、再び長田は選択を迫られるのだろう。ただ、しっかりと物事を考えられる長田ならば、その時にちゃんとした自分なりの答えを見つけられるはずだ。
そして、そういった舞台に登るためには、さらなる成長が必要となる。今季のリーグ戦はラスト1試合となったが、次なるステップに向け、長田は前を向いている。
「第一に試合に出たいというのがあります。もちろん、今でも出られるんだったらブレーメンがいいし、選択肢があるんだったらここがいい。ただ、夏になったらまた考えなければいけない。試合に出ることはすごく大事にしているので。まずは最後まで諦めず、ここで出られるように頑張っていきたいです」
今でも、ジュニア時代に仲の良かった川崎フロンターレの高井幸大や福島ユナイテッドの松長根悠仁とはよく連絡を取っているという長田。同世代の活躍に刺激を受けつつ、自身の飛躍のために努力を続けていく。
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)

林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。