19歳日本人が体感した欧州最高峰 楽しみ、怒り、涙…力負けも誓う飛躍「A代表に食い込む」

UEFAカンファレンスリーグ敗退が決まったチェルシーとの準決勝第2レグ
小杉啓太は、楽しみ、怒り、そして涙した。舞台は、今季UEFAカンファレンスリーグでの旅路が終わったアウェーでの準決勝第2レグ。昨春に移籍したスウェーデン1部ユールゴーデンは、イングランド・プレミアリーグのチェルシーに0−1で敗戦。スタンフォード・ブリッジのピッチには、全てを吸収して成長する左SBが描く、「19歳の世界地図」を見る思いがした。
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チームとしては、優勝最右翼の前に完敗(合計スコア1-5)。試合後の小杉曰く、「3、4段階上のチーム」に「レベルの差」を痛感させられた。しかし、「経験値としては本当にデカい」と付け加えてもいる。
初戦で3点差をつけていたチェルシーが、10代の戦力も積極起用した欧州の一夜には、若い力が輝いた。その中には、トップ下で先発した16歳のレジー・ウォルシュら、勝者のアカデミー出身者だけではなく、敗者のスタメン最年少者も含まれる。
小杉は、ホームでの第1レグ(1-4)で、対面のノニ・マドゥエケに苦戦した。23歳のウインガーは、その突破力とゴールへの積極性で、プレミアリーグのDF陣にも手を焼かせる。リターンマッチでは、故障者続出の影響もあって右SBでの先発。25歳のジェイドン・サンチョと対峙することになった。
マンチェスター・ユナイテッドからレンタル移籍中のウインガーとは、開始早々7分から個人対決のゴングが鳴る。4分後にはクロスを上げられたが、その3分後にはアウトサイドに追いやってクロスを阻止した。
後半の相手は、ハーフタイム中の選手交代でチェルシー左サイドに回った、タイリーク・ジョージ。19歳同士の勝負では、ライン越しのボールやスルーパスに走り込まれて裏抜けを許しもしたが、最後のアクションでは、攻め上がった小杉がジョージのタックルをかわした。
本人は、サンチョとのマッチアップ感に触れた。
「距離を空けたら良いパスが出てきますし、カットインを切ったら縦に行かれるし、全て先手、先手、先手で行かれる。ワールドクラスの選手は、どんなに厳しい状況でも前を向きますし、強度も高い。裏抜けの位置だったり、全てにおいてサッカーIQが高いなと思いました。
ボールを持っている時は本当にスキルフルで、何人も剥がせるような選手なので、やっていて凄く楽しかったですね、今日は。自分が右じゃなかったら、最初からマッチアップはできていなかったので、そういう意味でも本当に良い経験だったと思うんですけど、ラミン・ヤマル選手(バルセロナ)のように、17歳であれだけチャンピオンズリーグで活躍する選手がいるなかで、もっとやらなきゃなっていう、自分の立ち位置を知ることもできたなと思います」

ピッチ上で示したリーダーの資質
ユールゴーデンでの立ち位置は、主軸の1人と呼んでも過言ではない。湘南ベルマーレのユースからの移籍した国内での昨季(昨年3~11月)、言い換えれば、プロ1年目からのスタメン定着を予想した者は少なかっただろう。ミックスゾーンで立ち話をした、スウェーデン人の番記者も言っていた。
「驚いたよ。練習の様子からでも才能は豊かに思えたが、いきなり定位置を獲るとはね。左SBは、ローマに引き抜かれたスウェーデン代表(サミュエル・ダール/現ベンフィカ)がレギュラーだったんだ」
その小杉を生で観察してみれば、ピッチ上のリーダーと呼べる1人でもあった。前半2分には、両軍を通じて初のチャンスに関与。敵陣内でのボール奪取で、きっかけを作っている。ハーフタイム間際には、左足シュートで自ら相手GKにセーブを強い、後半に入ると、早々の1分から上質のクロスを放り込み始めた。
それだけの存在感を見せるだけに、味方に檄を飛ばしもすれば、発破をかけもする。右アウトサイドでフリーになっていたが、中央からボールが出てこなかったのは前半23分。小杉のジェスチャーは「何でだよ!」と怒鳴るかのように激しかった。
同38分、ジョージのスルーパスから、相手MFキアナン・デューズバリー=ホールにネットを揺らされた直後には、ほかの守備陣と言い合っていた。後半42分の時点になっても、敵のコーナーキックに備える間に味方を鼓舞していたのは、まだ若い小杉だった。
「右のCBが持ち上がってパスを出せれば、自分のほうに結構、かい潜れるシーンは多かったかなと思ったんですけど、ボランチがちょっと受けるのを怖がって引きめになっていたので、『何をしに来ているんだ』って。
正直、ファーストレグでボコボコにされているので(苦笑)、自分の中では得るものしかないと思っていたので。とにかくチャレンジしようよっていうのを伝えたんです。試合中で彼も感情的にはなっていると思うので、ちょっとヒートアップした感じではあったんですけど、自分的には、何かを伝えないで後悔するよりは、しっかりと伝えて、やれることはやったほうがいいと思ったので。できる限り、自分が関わりたい気持ちもあったので、チームメイトに話をしました」
もちろん、チームメイトたちも理解している。例えば、すでに敗戦は免れ難かった後半31分のプレー。強すぎた味方のパスを諦めずに追い、あと一息まで迫った姿を見れば、ただただチームのために戦う小杉の姿勢は明らかだ。
試合終了の笛が鳴ると、小杉は、ユールゴーデンの誰よりも悔しそう。ユニフォームの襟元で顔を覆うようにして泣いていた。代わる代わる歩み寄るチームスタッフやチームメイトに、肩を抱かれては、慰めの言葉をもらっていた。本人は言っている。
「相手はターンオーバーもしていましたけど、自分がスウェーデンでプロキャリアを始めた時、ここまで来られるとは全然想像してなかった1年前に比べたら、凄く貴重な体験をさせてもらっている。そのなかで、自分がやれたシーンと、今日は右サイドで出て、なかなか難しい場面もありましたけど、やれることはやったつもりでも、もっとできなきゃダメだ、日常を変えなきゃなっていう感情や、ここまで来られたけど、もう1個上に行きたかったという感情、サポーターへの感謝とか、いろいろな気持ちが混ざって、なんかちょっと涙があふれちゃった感じです」
そう照れくさそうに語る若者は、相手選手からも声を掛けられていた。
「何を話したか、あまり覚えてないですけど(苦笑)、多分、(チームの)スタメンで自分が一番若いのは知ってくれていたというのがあって、『若いんだろう? 頑張れよ』みたいに言ってくれて。まぁ、言われるってことは、まだまだダメなんだなという感じで、やらなきゃなっていう風には思いました。そういうトップスターの選手たちと2試合できたことは、自分の中では大きな財産になると思うので、その経験を経験のままには終わらせないで、本当にA代表にも食い込もうと思っているので」
欧州強豪との2戦を通じて見えた“なすべきこと”
当人の表現を拝借すれば「自分の爪跡を残す」ために、今の自分がなすべきことは、格上との戦いを通して見えたのか?
「インテンシティの部分をもっと上げないといけないなと思って。プレミアのチームとやると、半歩の差でするするっと抜かれてしまう。そのなかでの質というのは、本当に大事になってくる。
アルスベンスカン(スウェーデン1部リーグ)ではかなり主力としてやって、自分から起点になることも多いですけど、こういう劣勢の時、自分1人でボールを持てたり、1人剥がしたりできる選手にならないといけないなというのは感じて。そこの強度と質を上げていかないと。全体的なレベルアップはもちろんですけど、そのなかでも対人の守備をもっと上げる。対応はできたかもしれないですけど、取り切るところはできてないので。取り切る選手になれないと、やっぱりA代表に入ってワールドカップを戦うとなった時には厳しいと思う。
チェルシーですら、(今季)プレミアリーグ優勝はできていないので、(優勝したリバプールの)遠藤航選手とか、そういうトップで戦っている選手がいるなかで、ここ(対プレミア)を知れたというのは、追いつくためのプロセスも自分で作れると思いますし、追い越さないといけないとも思っています」
そのプロセスの一環となる次ステップアップの地は、オランダ、ドイツ、イタリアなど噂が絶えない。前述のスウェーデン人記者も、「今夏の引き留めは難しそうだ。よりレベルの高いリーグから、クラブも心が揺らぐ金額のオファーが届くとしたら」と言っていた。
移籍を選んで然るべきとさえ言えるだろう。「自分が選んだ道を、自分で正解にする」のだと、キャリア選択のモットーを語る小杉は、一方で「素晴らしいチームメイトとコーチたちに支えられて成長できた」と口にしてもいるが、ユールゴーデンには、移籍金という置き土産と、さらに成長を遂げた姿で恩に報いることもできる。
「時間はあるようでないので、日々、突き詰めていきたい」と小杉。早ければ、ユールゴーデンでの今季欧州戦終了から2~3か月後には、潜在能力も決断力も高い19歳の世界地図が、さらに広がる。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。