メガクラブからの関心も「選択肢になかった」 21歳が選んだ“茨の道”…譲れなかった「ここで出たい」

痛感したオランダとのレベルの違い
ドイツ1部ブレーメンに所属するGK長田澪(ミオ・バックハウス)が、「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じた。昨季はレンタル先のオランダ1部フォレンダムで正守護神として活躍しながらも、復帰した今季はベンチを温める日々。ドイツのレベルの高さや冬の移籍市場で残留した理由を明かした。(取材・文=林 遼平/全3回の2回目)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
ブレーメンのU-19チームで少しずつ出場機会を増やし、2022-23シーズンにはセカンドチームで多くの出場機会を得た。そんな長田にとって、転機となったのは昨季のこと。オランダ・エールディヴィジのフォレンダムに期限付き移籍することになったのだ。
これまでトップチームでの出場がなかった当時19歳の長田は、開幕戦から守護神として先発出場。すぐに周りの信頼を掴むと、そこから1試合を除く全ての試合に出場した。チームは惜しくも降格してしまったが、「オランダでプロとして1年、出続けたことに対して自信を持って帰ってきた」と言うように、試合に出ることの意味、試合に出たことでの成長を感じる1年間は、大きな実りになったという。
ただ、ブレーメンに戻ってきた長田は、ドイツでプレーすることの難しさを改めて感じることになる。強度、パワー、スピード。そのどれもが一回りレベルが違うことを突きつけられた。
「オランダのサッカーとドイツのサッカーは、正直ちょっとレベルが違うなというのを痛感しました。テンポが違うし、シュートの質一つとってもすごく違う。例えば、ビルドアップであれば、トラップミスではなく、少し置きどころが悪かっただけですぐに奪われてしまう。インテンシティがあって速い選手が多いなと。あとはやはりボールの動きが速いし、シュートも速い。とにかくスピードは違うなと思います。それにアジャストするのに少し時間がかかってしまったなというのが正直ありますね」
この出遅れもあり「マイナスからのスタート」となると、プレシーズンで定位置を確保することができず。ミヒャエル・ツェッテラーとの守護神争いに敗れ、セカンドGKとして開幕を迎えることになった。一度、守護神が決まってしまうと、GKの立ち位置がシーズン中に変わることは決して多くない。その例に漏れず、長田もベンチを温める日々が続くことになる。
出番を得られない中、アジャストするための鍛錬の日々が始まった。「試合での失敗は許されないけど、練習のときにトライアンドエラーを繰り返すことが大事」。トレーニングから積極的にトライを続けた。最初はミスをすると勝ちにこだわる周りの選手から怒られることもあったが、徐々にその回数も少なくなることに。メンタルが崩れそうになることもあったが、自分の成長のために時間をかけ、「今では本当に落ち着いてボールを持てるし、自信を持ってプレーできるようにまでなれた。最初のあたふたした感じから、ブンデスリーガに出ても全然大丈夫だなというところまでこられたと実感しています」と胸を張る。
ブレーメンでプレーすることを一番に考えた
しかし、自身のパフォーマンスに手応えを得られるようになってきたものの、「今度はそれを見せる機会がなかなかないのがまた難しい」という現実にぶち当たる。開幕戦からスタメンの座を維持するツェッテラーは、派手さこそないが安定したプレーを続けており、カップ戦を含めて全ての試合において先発出場。長田は常にベンチ入りしているが、いまだ出番は訪れていない。
それでも、長田は変に落ち込んでいない。悔しさこそあるが、いま自分に何ができるかを考え、目の前のやれることに全力で取り組む姿勢を見せている。
「なかなか結果で見せられない立場なので、まずは自分の中で上手くなることを目指しています。 それに加えて、もちろん試合に出る準備を毎週やっています。先を見て3、4週間頑張ろうではなくて、毎週、違う相手が来て、違う練習をする中で、1週間、1週間で考えるようにしています。もちろん試合に出られないことは悔しいですし、それは勘違いしてほしくない。ただ、やりがいはあるなと。毎週、スタジアムのベンチに座って自分のライバルが試合に出てるのを見て、『ここに本当は俺が出てるはずなんだ』と毎回思うんですけど、それがモチベーションになるというか。『来週は俺がここに立たなきゃいけない』というモチベーションにつながっています」
日々の成果は着実にプレーに反映されている。
「自分の中でも本当にこの数か月で一、二歩ステップアップできたというのが正直手応えとしてあって。それは試合にあまり出てないからこそ練習で積み重ねたものだと思っています。それも含めてもっとプレッシャーをかけていければなと。クラブと話をしていてもすごくポジティブなことを言ってくれますし、信頼も最近はもらえていると思うので、自分の中ではそろそろだなと思ってます」
今冬の移籍市場では、バルセロナなどが長田に関心を寄せているといったニュースが伝えられていた。出番のない状況であることを考えれば、移籍も一つの選択肢ではあったが、長田はブレーメンでプレーすることを一番に考えて残留を決断。あえて“茨の道”を選んだ。
「(他クラブからの関心は)頑張ったのが少しは認められているんだなというのがあったので、それは正直嬉しかったです。ただ、あまり気にしていないです。もちろん代理人を信頼しているところはありますが、僕の中ではブレーメンで試合に出たいというのが第一にあったので。本当に信頼してもらっているから、それを捨てるというのは選択肢にはなかったです。いろいろな人にお世話になっていますし、このクラブが好きなので。ここで1年頑張ると夏に決めたので。そこから先はそのときにまた考えればいいかなと思っています」
ブレーメンで試合に出たい。その想いはいまだ果たされていない。ただ、一歩ずつ自分の夢に向かって突き進む長田がいる。そんな男が目指すさらなる成長、そして代表への思いとは。そこには日本とドイツで成長を遂げてきたからこその悩みがあった。(第3回へと続く)
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)

林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。