21歳でマンC移籍→欧州で挫折 出戻り後に思わぬ苦難も…「天才」宇佐美貴史が認めた才能

上昇気流のG大阪に活力をもたらしているFW食野亮太郎の存在感
3敗を喫した4月の苦境を乗り越え、京都サンガF.C.、湘南ベルマーレ、浦和レッズに3連勝したガンバ大阪。勝ち点を23まで伸ばし、順位も5位まで上がってきた。昨季4位のチームが今季序盤戦は予期せぬ苦境に直面したが、FW宇佐美貴史のスタメン復帰、新助っ人外国人FWデニス・ヒュメットのチーム適応といった好材料があり、ようやく本来の力が出てきた印象だ。
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上昇気流のG大阪にさらなる活力をもたらしているのが、5月6日に行われた浦和戦で山下諒也の決勝弾をアシストしたFW食野亮太郎である。
「宇佐美君が近くにいたんで、相手も宇佐美君に釣られるし、(黒川)圭介がインナーラップしたから、自分がカットインして、遠くに諒也君が走っているのが見えたんで、上手くボールがいきましたし、諒也君がホントに上手く決めてくれたんで、『さすがや』って感じですね」と本人は逆サイドから飛び込んだ背番号17に最大級の賛辞を送っていた。
「1つ結果が出たのはいいことですし、何よりチームが3連勝。しかも5連勝しているレッズに対してっていうのが気持ちいい。ただ、僕も前半決めるチャンスはありましたし、後半も1本あった。自分は前の選手ですし、そういうのを決められないと。もっともっと点を決めていきたいです」と長い怪我からの復活の一歩を踏み出した背番号8は目を輝かせた。
食野はG大阪のジュニアユースとユースを経て、2017年にトップ昇格を果たしたアタッカー。同じ1998年生まれの堂安律(フライブルク)とは同期で、切磋琢磨しながら育成年代を過ごしてきた。
2017年U-20ワールドカップ(W杯)で活躍した堂安が一歩先に欧州へと赴いたが、食野も1年後の2019年夏にはマンチェスター・シティから好オファーが届き、海外挑戦を決断。マンCから貸し出される形でスコットランド1部のハーツ、ポルトガル1部のリオ・アヴェ、同リーグのエストリル・プライアという3つのクラブでプレーした。だがコロナ禍の難しさもあったのか、思ったような活躍を見せられず、3年後の2022年夏にG大阪への出戻りを強いられた。
「こういう形で戻るのは正直、悔しい気持ちもありますし、情けなさもあります」
食野が見舞われた苦難「人生で初めてあんなに…」
食野は帰国時の会見で苦渋の表情を浮かべたというが、いばらの道はその後も続いた。一番ダメージが大きかったのが、2024年1月の沖縄キャンプ中に負った左ハムストリングの肉離れだ。
「人生で初めてあんなに怪我で長いことサッカー休んだので、いろいろ自分を見つめ直す機会にもなりましたし、人としてもすごく成長する機会がありました。昨年、勝ち続けるチームをピッチ外で見る機会が多くて、みんなすごく戦ってましたし、ボールへの反応とか1つ1つ、自分の意識を変えて挑まないといけないと思っていました」
確かに2024年のG大阪は総失点35と、FC町田ゼルビアに続く2位の失点の少なさだった。守備強度が上がり、前線のアタッカー陣もハードワークや球際や寄せの激しさを見せなければ使ってもらえない状況だった。そうしたなかでアキレス腱断裂という大怪我から完全復活した宇佐美の姿を目の当たりにし、「自分もやれる」という気持ちになったはずだ。
「宇佐美君は僕とは違う、天才やもん」と本人は冗談交じりに笑ったが、「アキレス腱ですごく苦しんでる姿を見てましたし、筋力を戻す地道な作業だったりも、ロッカーが近いのでよく見てました。自分はハム(ハムストリング)やけど、あの姿勢は参考になるものがありました」と神妙な面持ちで語っていた。
怪我からの復活という意味では、東口順昭らほかの年長者も血のにじむような努力を続けていた。そんな一挙手一投足を目の当たりにし、食野は「見習うべき背中が近くにいることはありがたい」としみじみと語り、自らも肉体改造に注力。身体を絞って軽くなった状態でようやく4試合ピッチに立てるところまで持ってきたのだ。
「まだ自分が復帰して3~4試合ですけど、頭の中を変えたところを上手く表現できているかなと思いますし、あと大事なのはこれ続けていくこと。現状に満足することなく、さらに結果を突き詰めていきたいですね。ゴール前のところも今日の試合でかなり良くなった感触はあります。ここまではゴール前に迫っていくチャンスがなかったけど、今日は自分の中でちょっとだけ戻ってきたという手ごたえはあります。自分が表現しているプレーをベースにしながら数字を積み重ね、さらにチームが勝てれば一番いい。そうなるようにしていきたいですね」と意欲を覗かせた。

宇佐美も期待「彼はガンバを背負っていかないといけない」
食野が新たな得点源になれば、チームとしても本当にありがたい限りだ。今季のG大阪はイッサム・ジェバリと山下が4点ずつ奪ってはいるものの、昨季二桁得点の宇佐美もまだ2点。新戦力FWヒュメットも2点と、傑出した得点源が不在という状況だ。昨季から積み上げた堅守に磨きをかけ厳しい戦いを制してはいるものの、ゴール数を伸ばしていかないと先々は苦しくなる。昨季、ユースの後輩・坂本一彩(ヴェステルロー)が10点をマークしたのだから、食野にもできないことはない。むしろ、そうなってもらわなければ困るのだ。
宇佐美もそう強調していた。
「亮太郎に数字がついたのは良かったけど、まだまだできるし、まだまだ良くなっていくと思うので。1個(アシストが)ついて自信にしてくれれば、チームを背負っていけるようになるだろうし。彼はガンバを背負っていかないといけない選手なので、『まだまだあのぐらいじゃ』って感じじゃないかなと思いますね」
2017年のJリーグデビュー以降、食野が最もゴールを奪ったのは、2019年と2023年の3点。彼のポテンシャルを考えるとあまりにも少なすぎる。偉大な先輩・宇佐美が背中を押してくれたとおり、背番号8はもっともっとゴールを積み重ね、G大阪の新たな看板になっていくべきなのだ。
5月のここからのカードはサンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレ、鹿島アントラーズという難敵ばかり。そこで食野が爆発し、攻撃陣を活性化させてくれればベストなシナリオだ。今こそ背番号8の底力を示すべき時である。

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。