17歳でプロ契約…194cmの世代NO1守護神 魅了する技術&センス、日本代表の明るい未来

ガンバ大阪ユースの荒木琉偉「まずはトップの出場機会を掴むのもそうですが」
ユース年代ナンバーワンGKの呼び声高いガンバ大阪ユースの194センチの守護神・荒木琉偉は、その圧倒的なサイズはもちろんのこと、GKとしての技術レベルも一級品だ。
昨年10月にはプロ契約(仮契約)を結び、今年2月のU20アジアカップでは、高校2年生の最年少でU-20日本代表に選出されただけではなく、5試合中4試合にスタメン出場。日本の守護神として9月にチリで開催されるU-20W杯出場権獲得の立役者となった。
荒木を見ていると感じるのが、サイズの大きな選手にありがちなぎこちなさが残る身体操作があまりないということだ。
セービングやハイボールの際の腕の出し方は非常にスムーズで、シュートを打たれる前のポジション移動の左右上下のステップワークは細かく、構える姿勢に入るスピードが早い。シンクロ(相手のシュートのタイミングを合わせる動作)もオーバーリアクションになることなく、しっかりとボールの軌道を見て力を溜めてジャンプをする。
これらは天性の身体能力もあるが、いかに彼がその能力に頼ってごまかすのではなく、日々のトレーニングから技術の細部にこだわって取り組んでいないと身につかないものである。
「GKは『最後の砦』なので自分が全体を落ち着かせないといけないし、ゲームをコントロールしないといけない。セーブだけじゃなく、トータルの部分で安心して任せられるGKじゃないとフィールドの選手は思い切って力を発揮できないと思うので、そこは安定感を大事にしています」
このずば抜けた安定感を発揮したのが、プレミアリーグWEST第5節のアウェー・帝京長岡戦だった。この日、試合会場となった長岡市ニュータウン運動公園サッカー場は、朝から振り続ける雨と強風が吹き付ける、まさに「GK泣かせ」の環境だった。
「もちろん相手のGKも一緒の条件だったのですが、この風は小雨も合わさって正直ちょっと怖かった。でも、僕のなかでは風を生かすというか、常にそこを計算のなかに入れてプレーすることを心がけるようにしました」
アップの段階からハイボールやシュートの軌道やスピードの変化を確認しながら、「いつものジャッジからワンテンポ遅らせるというか、ちょっと我慢をしてから動くようにしていました。いつものジャッジで身体を連動させてプレーをしたら事故が起こってしまうので、少し我慢をしてから動こうと思った」と、セービングやハイボール処理に入るタイミングの微調整をして試合に臨んだ。
しっかりとイメージをしていたからこそ、ゴールキックやFKの際にボールが風で動いてなかなか静止しないほどの強風にフィールドの選手も苦しんだが、荒木は終始冷静だった。
前半22分に横に揺さぶられた状態からダイレクトシュートが来ても、即座に反応をして横っ飛びでビッグセーブを見せると、圧巻だったのは前半終了間際のプレーだった。
左サイドから山なりのクロスが入ると、ボールは大きくゴール前を越えてファーサイドのスペースに向かって飛んでいった。それに対し、荒木もボール方向に身体を動かして逆サイドからのクロスに対応をしようとしたが、ボールは強風に押し戻される形で大きく軌道を変え、ペナルティーエリア内の右のスペースに落下してきた。
「急に戻ってくる形となったので、直接キャッチしようと思った」と荒木は判断を変えたが、ボールはゴール前に戻ってきながら降下してきたため、落下地点を読むのが難しかった。
だが、彼は的確に落下地点を読み取ると、全身をフルに伸ばすように両足ジャンプをして、なんと曲がりながら落下してくるボールを最高到達点でガッチリと両手でキャッチしたのだった。
一見、なんでもないようなプレーに見えるが、山なりのハイボールを最高到達点でキャッチするのも難易度が高いのに加え、予測不能の強風で軌道とスピードが目まぐるしく変化するなかでそれをやってのけるのは、先ほどのビッグセーブよりもスーパープレーに値するものだった。
「ボールが絶対に自分側に流れてくるなと思ったので、ポジショニングを取るタイミングをちょっと我慢して待って、落下地点をギリギリまで予想しました。予測がついたら、飛ぶときもいつもよりワンテンポ遅らせてから反応して、ボールを取りに行くときも手を出すのをギリギリまで我慢して軌道を捉えてから取りました」
この振り返りで分かるように、彼はあのプレーを意図的にかつ冷静にしていた。最高到達点でキャッチした話をすると、彼はニヤリと笑いながら自分のこだわりをこう口にした。
「普段からハイボールはなるべく高い位置でキャッチしたいなと思っているので、そこは意識しています」
後半もより風が強くなったなかで、いつもは腰を上げてアラートな状態でゴール前に立っているが、腰を落として低い姿勢で細かいステップを入れることで、変化するボールを正確に捉えられるように構えていた。
「あれは背後の対応に気をつけたのでそうしました。どんないい選手でも背後に対しての動きは、前重心じゃないと動けないですし、ましてやきょうのような風がすごいと、少しの判断の遅れでボールにアプローチできなかったりするので、準備のところでこまめなポジション移動をテーマに持ってやっていました」
後半は相手にピンチを作らせず、試合をクロージング。2-1の勝利に貢献をした。
90分の中でGKとしての彼の技術、センス、そして矜恃が濃密に詰まっていた。このプレーに完全に魅了され、試合後に魅了されたプレーを全てぶつけると、彼は前述したとおり全てに丁寧に答えてくれた。その人間性の素晴らしさに加え、きちんとそのシーンの意図、状況を覚えていて、すぐに言語化できる能力と、日頃から行っている本物の積み重ねが十分に伝わった。
「予測、姿勢、ステップ、タイミング、キャッチの技術が揃わないと事故が起こってしまうので、なるべく正確に落下地点やシュートの軌道を捉えてから飛ぶようにしています。その精度を上げるためには、常に練習や試合を通じて、これらの部分を意識して、失敗や成功を積み重ねていかないといけないので、この強風のなかでのプレーは僕のなかでは非常にいい経験になりました」
たった1試合だが、彼にとっては大きな成長につなげられる重要な1試合だった。ユース年代ナンバーワンGKたる由縁。それは彼の持つサッカーに対する姿勢がすべての答えだった。
「試合に出られることはありがたいことなので、まずはトップの出場機会を掴むのもそうですが、目の前にあるユースの1試合1試合、90分を大事にして、とにかく自分の成長につなげたいと思います」
千里の道も一歩から。将来の日本代表GKになりうる逸材は、確固たる自分を持って一歩ずつ確実に歩を前に進めていく。
(FOOTBALL ZONE編集部)