父は福岡レジェンド…現れた“逸材2世” 超える偉大な背中「大黒さんから父の話を」

G大阪ユースの久永虎次郎「僕には超えたい存在がいるんです」
ギラギラした鋭い目つき、そしてボールを受ける際と持ったときの迫力。ガンバ大阪ユースのFW久永虎次郎は周りを惹きつける魅力があるストライカーだ。
「僕はサイズが大きい方ではない(175センチ)ので、ガッツリ身体を当ててキープというより、細かく予測や準備をして、相手を一瞬で剥がしてフリーで受けたり、食いつかせてから叩いたりを意識しています。常に考えながらスペースや間を作るようにしています。もちろんフィジカルも鍛えていて、当たり負けをしない身体を作っています」
こうハキハキとした口調で語る久永には、確固たる強い意志があった。
「僕には超えたい存在がいるんです」
その存在とは実の父親だ。彼の父親はかつて鹿児島実業高で選手権優勝を経験し、アビスパ福岡や横浜F・マリノス、大宮アルディージャでプレーをした久永辰徳氏。「僕が3歳になったばかりのときに引退をしているので、試合を見た記憶はあまりないんです」と口にしたように、サッカーをやっていて父と比べられることは少なかったが、指導者と選手としての関係は長かった。
父が総監督を務めるFCアラーラ鹿児島のU-12、U-15でプレー。サッカーをずっと教わってきた。
「お父さんは本当に熱い指導者で、プレー面でもそれ以外でもたくさん学びました」
前に相手がいようが臆することなくスピードあふれるドリブル突破をガンガン仕掛ける。父のプレースタイルを引き継ぐように、彼はFWとしてひたすらゴールを狙うプレーを磨いた。ただ、中学のときは思春期だったこともあり、ときには反抗心を持つこともあったという。「中3のときは一度父とは違う環境でプレーをしたかった」と、父親がU-18の監督に就任したアビスパ福岡のアカデミーではなく、関西の名門・G大阪ユースの門を叩いた。
「ガンバに来て1年目は本当に苦しかったというか、たくさん悩みました。僕はずっと最前線に君臨して来たボールを受けてゴールにつなげるような選手だったので、ガンバのように攻撃の中継点として機能したり、リズムを作ったりすることはあまり考えなくてもよかった。でも、ガンバでは周りのレベルも高いし、最初は何にもできなかった。いろいろ考えながら『どうしたらいいんだろう』と一人でもがいていました」
一気に環境が変わり、サッカーも変わった。この変化についていくのがやっとだった。いや、ついていけているのかも分からなかった。だが、その苦境を救ってくれたのが父の一言だった。
「昨年の春に一度会ったのですが、そのときに『お前はもっと走れ。がむしゃらに走れ。小さくまとまろうとするな、お前はそんなタイプじゃない』と言われて目が覚めたんです。考えることも大事だけど、考えてから動くでは僕の持ち味は出ない。いろんなことを考えながらも、走ることは絶対にやめない。走って、走って、その上で技術を発揮する。中学時代まで大切にしていたことを思い出しました」
原点回帰。1年間の苦悩のなかで彼はターンスキルやワンタッチ、ツータッチプレーを身につけていった。悩みながらも自分の足で一歩ずつ前に進んでいったからこそ、父の言葉は心に深く刺さり、ガムシャラに走ってみると以前より確実にうまくなっている自分に気づくことができた。
「スペースに先回りしたり、あえて遅れて入ったり、背後だけではなく間のスペースをうまく活用しながら、ボールを受けたら仕掛けたり、ワンタッチで前を向いてすぐに叩いてゴール前に走り込んだりとチームのために走り続ける。最前線から1.5列目まで駆け回って、ゴールに絡んでいく。これが僕の生きる道だと思ってやっています」
昨年は怪我もあったが、試合の流れを変える切り札として活躍。日本クラブユース選手権では全試合途中出場で2ゴールをマークして優勝に貢献し、プリンスリーグ関西1部でも6ゴールをマークして優勝。プレミア参入戦では2試合連続スタメン出場を果たし、ノーゴールだったが、2年ぶりのプレミア昇格を手にした。
そして、今年はFW中積爲とダブルエースという形でG大阪ユースの攻撃を牽引。取材に行ったプレミアWEST第5節の帝京長岡戦では、ゴールこそなかったが、トップ下の位置まで落ちてボールを受けては、鋭いターンからの正確なパスで前線の中積、2列目以降の選手の飛び出しを引き出し、攻撃にリズムをもたらしていた。中積の先制弾を左からのスルーパスでアシストするなど、2-1の勝利に貢献をした。
「まだ1ゴールしか挙げていないので、そこはやっぱり点が欲しいのは本音ですが、今自分がやれることを精一杯やりながら、もっとFWとしての怖さを出せるようにやっていきたいです」
そう意気込む彼には心から楽しみにしている一戦がある。それは父が率いるアビスパ福岡U-18との一戦だ。実は帝京長岡戦の2週間前の第3節に組まれていたが、延期となってまだ日程は決まっていない。
「高1のとき、大黒将志(当時、アカデミーストライカーコーチ)さん、明神智和(当時、ユースコーチ)さんなどからお父さんの話をよく聞きました。『ドリブルが速いし、かなり凄かった』と、クラブレジェンドたちからそう言われるのが驚きでしたし、やっぱり偉大な人なんだなと。離れてみて、お父さんが言っていたことが分かることが多いし、昨年にアビスパU-18をプレミア昇格に導いたし、本当に選手としても指導者としても人間としても心から尊敬をしています。もちろん対戦となったら、僕がめちゃくちゃ点をとって、活躍して何も言えないくらい成長した姿を見せつけたいです」
こう語る彼の表情は父の勇ましい表情とそっくりだった。日に日に理解していく父の偉大さと、自分に伝えたかったこと。久永虎太郎は父から受け取ったバトンを手にして、ただひたすら未来に向かって走り続ける。
(FOOTBALL ZONE編集部)