現役時代に起業、学生支援の経営 異端キャリアを歩む元日本代表の“使命”「サッカーも就活も同じ」【インタビュー】

現在、経営者として手腕を振るう大津祐樹氏【写真:Football Assist】
現在、経営者として手腕を振るう大津祐樹氏【写真:Football Assist】

現役時代から会社を経営する大津氏「社長になりたいわけでは…」

 大津祐樹という名を聞けば、多くのサッカーファンはピッチを切り裂くようなドリブルで敵陣を突破する姿を思い浮かべるのではないだろうか。ベスト4入りを遂げたロンドン五輪では、キャリアを象徴する輝きを放った。そして今、サッカーに懸けた情熱は、競技の枠を超え、新たなフィールドへと広がった。現役時代に蒔いた起業の種は、次世代の可能性を照らす使命へと芽吹いている。(取材・文=城福達也)

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 きっかけはサッカースクールの立ち上げだった。現役選手としてプレーする傍ら、元日本代表DF酒井宏樹とともに2015年からサッカースクールを運営し、指導の機会を設けた。「僕自身、子供の頃に現役の選手と本気でプレーしてみたいという夢を抱いていた。でも、そういったチャンスはなかった。だからこそ、自分が現役でいるうちに、子供たちと100%でプレーしようと決めていた」。幼い頃の自分の夢を、サッカー選手となった自分が叶えたい。そんな思いから開校に踏み切った。

 子供たちだけでなく、保護者からも多数の感謝が届くようになり、反響は瞬く間に拡がった。「行動することが、喜びを生み出す」。そう実感した瞬間でもあった。大津自身、アスリートの価値をより高めていきたいという思いが強かったなかで「目標に向けて、より積極的に行動していくには、起業という形がベストだった」と振り返り、「なので、ただ会社を経営したい、だとか、ただ社長になりたい、だから起業したわけでは決してないですからね(笑)」と笑顔で弁明。そして2019年、株式会社ASSISTが設立された。

 経営する会社では、大学生に向けたキャリア支援の事業に注力している。成立学園を卒業後、すぐに柏レイソルへと入団し、プロサッカー選手としてキャリアを歩み始めたが、「大学に進学していない僕の立場だからこそ、大学生をフラットに見られる。特定の大学に偏らず、公平なサポートを提供できると思っての判断だった」と、その背景を明かした。

 部活動に所属していた大学生を主な対象としているが、「社会人としてのキャリアをうまく描けていない学生が大半だった。先輩に紹介されたから、就活エージェントにおすすめされたから、採用担当が良い人だったから、といった理由で入社を決めてしまい、後にその判断を後悔する姿を何度も見てきた」と直接交流し、実感したことも多いようだ。

スポーツの経験は「どんな業界でも必要とされるスキル」

「僕自身、サッカー選手として当然、入団するチームは自分で決めてきた。自分の強みをそのチームで活かせるのか、自分の目指しているスタイルとそのチームは合致しているのか。調べて、考え抜いて、話し合って、迷いなく決断してきた。サッカーも、一般社会の就活も、必要なアプローチは同じだと思っています。でも実際、そこまでできている学生はほんの一握りで、大半が情報不足だったり、不透明な要素が多いまま入社する印象です。僕たちは、そのギャップを可能な限り埋める手助けをしています」

 大津氏は、4年間を部活動に捧げた大学生の価値について、その重要性を説く。

「今の就活制度は、部活が終わって『はいお疲れ様、就活に切り替えて』と別軸で進んでしまう傾向もまだまだ根強い。でも、キャリアはつながっているんですよ。スポーツをやっていた経験は、どんな仕事にも活かせる。継続的な努力、目標達成のための粘り強さ、チームワークの実体験。どんな業界でも必要とされるスキル。僕らはそこを必要としている企業と提携している。アスリートが競技を続けながら、自然と次のキャリアを考えられる仕組みを築いて、浸透させていくつもりです」

 当初は体育会系の就活生を対象としてきたが、「ありがたいことに口コミで反響をもらって、部活動をしていないんですけどサポートしてもらえませんか? という相談が増えてきた。なので、事業立ち上げから2年目には、一般の就活生のサポートも始めました」と説明。同時に、転職活動の支援もスタートした。

「僕たちがやることで、誰かの人生が変わるかもしれない。そのために、もっと多くの人と関わっていきたい。単なる就職支援にとどまらず、大学生が自分の道を見出し、主体的にキャリアを築けるようサポートする。それが、僕たちの使命です」

 現役時代から起業し、6年の月日が経った。今では大学生のキャリア支援だけでなく、小学生の支援やイベント事業、約180億円超え企業の株式会社コミットとの資本提携、2025年からは社会人チームの運営を開始した。異端なキャリアを歩む大津祐樹という人間の物語は、まだまだ序盤に過ぎない。

(城福達也 / Tatsuya Jofuku)



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大津祐樹

おおつ・ゆうき/1990年3月24日生まれ、茨城県出身。180センチ・73キロ。成立学園高―柏―ボルシアMG(ドイツ)―VVVフェンロ(オランダ)―柏―横浜FM―磐田。J1通算192試合13得点、J2通算60試合7得点。日本代表通算2試合0得点。フットサル仕込みのトリッキーな足技や華麗なプレーだけでなく、人間味あふれるキャラで愛されたアタッカー。2012年のロンドン五輪では初戦のスペイン戦で決勝ゴールを挙げるなど、チームのベスト4に大きく貢献した。23年シーズン限りで現役を引退し、大学生のキャリア支援・イベント開催・備品支援・社会人チームとの提携・留学などを行う株式会社「ASSIST」の代表取締役社長を務める。2024年から銀座の時計専門店株式会社コミットの取締役に就任。

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