苦境でもがく女子W杯得点王 「ゴールが欲しい」…守勢のチームで生かしきれない万能の攻撃性【現地発コラム】

ユナイテッドでの出場機会が伸びない宮澤ひなた【写真:Getty Images】
ユナイテッドでの出場機会が伸びない宮澤ひなた【写真:Getty Images】

攻守のバランスに重きが置かれるマンチェスター・ユナイテッドで続く苦戦

 マンチェスター・ユナイテッド・ウィメンの宮澤ひなたが、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)のピッチに復帰したのは今年3月末。代表戦での右足首骨折により、4か月近いブランクを余儀なくされた。続く今季は、リーグ戦でベンチスタートが続くイングランド挑戦2年目となっている。

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 11月24日、チェルシー・ウィメンに敗れた(0-1)第8節での上位対決では、「出たら、こういうことができるだろうなと思いながら見ていました」と宮澤。だが、出番は訪れなかった。

「去年、初めての海外移籍で、みんなが分かってくれるようになった頃に怪我をして、ちょっと悔しいシーズンになってしまった。今年は、少しチームのメンバーが変わったりしていますけど、2年目なので、より自分のプレースタイル、自分が出たらつなごうみたいな部分をみんな分かってはくれている。けど、こういうゲーム展開だと基本(ボールが)頭上を越えているので……」

 試合後、宮澤が苦笑いを浮かべたチェルシー戦は、PKによる唯一の得点が勝敗を分けた。ユナイテッドにとっては、今季初黒星。アウェーでの対戦相手は、リーグ6連覇に向けて全勝スタート中の優勝候補筆頭でもあった。

 とはいえ、ユナイテッドには攻めの姿勢が乏しすぎたと言わざるを得ない。

 前半17分から追う展開となった一戦で、2023年女子W杯得点王の投入を期待する観戦者は、記者席にいたこの日本人だけではなかっただろう。満員御礼に一役買ったアウェーサポーターたちは、男子チームと女子チームの別にかかわらず、ユナイテッドの戦いには「攻撃」の二文字が必須とする人々だ。

 攻守のバランスを意識する、マーク・スキナー監督の基本姿勢そのものに問題はない。リーグ戦8試合を終えて5位につけている好スタートは、12チーム中最少(タイ)3失点の堅守に支えられている。加えて、前回対決に当たる昨季最終節でのチェルシー戦は、ホームでの6失点大敗。慎重な戦い方を念頭に置いて、準備が進められても無理のないカードではあった。

 しかし、全国的に嵐の影響が見られた試合当日は、強風によりチェルシーも思いどおりに組み立てることが難しいピッチ上だった。にもかかわらず、ユナイテッドは自ら守勢を受け入れ続けた。

 前半は、ポゼッション31%でシュートもなし。最終的な3本のうち2本は、後半45分以降まで持ち越された。同44分と最後の選手交代も、守備的MFの投入とDFの入れ替えだった。

攻撃が単調な状況下で存在をいかにアピールするべきか

 宮澤は中盤の底でも機能する万能性を持つが、適所としては自ら攻撃的なポジションを挙げる。

「代表活動と同様、トップ下とか左サイドでやりたいというか、自分の持ち味を出せるという意味ではベストだと思う。ドリブルも、スルーパスも、(最終ラインと中盤の)間にも立てるっていうところで、やっぱりそこかなと」

 相手のチェルシーでは、浜野まいかがトップ下で先発していた。日本女子代表FWは、勝利をもたらすPK獲得に軽快なワンツーからのスルーパスで絡み、この日のピッチでは貴重だった、ハイクオリティな瞬間を生み出してもいた。

「どこのチームと当たっても誰かしら(日本人が)いて、映像分析でもみんな知っている選手で、凄くいい刺激になっています」

 WSLにおける“なでしこ前線”をそう語る宮澤だが、自身が所属するユナイテッドのスタイルは、ボール支配を前提として攻めるチェルシーとは対極に位置するとさえ言える。今季リーグ戦でのボール支配率は平均5割未満。単調になりがちな攻撃は、チェルシーの半数以下で中位レベルの計11得点しかもたらせていない。

 その環境で存在をアピールすべき本人は、次のように言っている。

「この風の中であえて蹴った方がいいのか、いや、足もとのほうがいいんじゃないかとか、外から見ていて感じることは多かった。自分が出た時には、常に前、前じゃなくて、1回(パターンを)変えようよとか、そういうところは意識しています。チーム内でも、もう少しつなぎたいよねとか、そういう話し合いはしますし。そういう状況のなかで、本当に自分との勝負というか、自分にも言い聞かせながらやっていきたい」

 そして、そのためにも「今は得点、アシストという目に見える結果が欲しい」のだとも。

「まず、ゴールが欲しい。1年目(1得点)よりも取りたいというのはありますけど、出場時間の面でもやっぱり欲しい。チャンピオンズリーグもないですし、リーグ戦とカップ戦しかないなかで、どれだけ目に見える結果を残せるか。プレーはそこまで良くなかった試合でも、点を入れていれば印象が強かったりとか、そういう違いはあると思うので」

苦境が続くもチームに変化をつけたいと意気込む【写真:Getty Images】
苦境が続くもチームに変化をつけたいと意気込む【写真:Getty Images】

出場機会増へ「チームに何か変化を加えることができたらいい」

 この日のユナイテッドでは、昨季をレンタル移籍先のトッテナムで過ごしたグレース・クリントンがトップ下を務めた。今季のユナイテッド1軍デビュー以来、新戦力となっている21歳のイングランド女子代表MFは、リーグ戦3得点の数字のほかに体格面でも宮澤に勝っている。

 ただし、この日の出来は及第点以下。20代半ばの日本女子代表MFは、オン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールの双方で、存在を消されにくい巧妙さと賢明さに長けてもいる。

 本人が、出場機会増への決意も込めて語った。

「こういうゲーム展開で落ち着かせようってなったら、(出番は)ボランチなのかもしれないですけど、どこで出ても持ち味は変わらないっていうところはあります。こっちの選手は、フィジカルとか強い選手がたくさんいるわけで、そういう周りをどうやって活かすか。こう(前に)蹴っていても、少し角度をずらして有利なところに出してあげれば、その選手がより自分の長所を活かしやすくなる。常に相手にとって嫌な位置に立ちながら、どう味方を使って、どう自分自身もフリーにするか。そこは、どのポジションでもやりたいと思っています。味方を使いながら、自分もえぐっていく。そういう部分をより磨いていきたい。

 外国人の選手を相手に1対1で勝てるのかというと、やっぱり身体つきとか持っているものが違う。なら、その状態でどう戦うかってなった時に、ポジショニングとか、1歩目の動き出しとか、そういうところで勝負に勝てるところはあると思うんです。日本人選手らしさというか、個人としての良さを出しながら、チームに何か変化を加えることができたらいい」

 チームも、そうした変化を必要としている。宮澤はベンチに留まっていた、スコア上のユナイテッド惜敗を眺めながら、そう強く感じた。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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