7.2万人の子どもがサッカー継続困難? 横浜FM守護神に課せられた使命「発信しなければ」【インタビュー】

横浜FMのゴールを守るポープ・ウィリアム【写真:Getty Images】
横浜FMのゴールを守るポープ・ウィリアム【写真:Getty Images】

日本におけるサッカーをできない・続けられない子どもの存在

 J1横浜F・マリノスのGKポープ・ウィリアムは、3年余り前から経済的な理由でサッカーを続けることが難しい子どもたちのための支援活動を行っている。ただ、ピッチ外の取り組みを通じて感じたのは、日本サッカー界が抱える社会課題。そんな現実に、プロアスリートだからこそできること、また後進に伝えたいこととは。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の2回目)

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 経済的貧困や社会格差を理由に、サッカーをできない・続けられない子どもたちの環境を変えるための活動を展開する認定NPO法人「love.futbol Japan」。同団体の活動内容の1つ「子どもサッカー新学期応援事業」にポープは2021年8月から参加し、年俸の1%を寄付することに加え、オンライン交流会を中心に支援家庭の子どもたちをサポートしている。自身も母子家庭で育った境遇を持つからだ。

 日本の子どもたちにサッカーを諦めないよう手を差し伸べる――。そもそも、この支援状況にピンとこない人も多いのではないだろうか。長い低迷から抜け出せていないとはいえ、日本は世界有数の経済大国。国民的スポーツとなったサッカーを豊かな社会で誰もが等しく楽しんでいる姿を想像するのは、自然なことと言える。

 では、貧困や社会格差を理由にサッカーをできない・続けられない子どもの数とは? これについて政府の統計的データはない。しかし、最新の状況は試算できる。算出基となるのは、厚生労働省が発表した2022(令和4)年の「子どもの貧困率」(17歳以下=11.5%)と日本サッカー協会(JFA)に登録されている高校生以下のサッカー人口(2023年度=約63万人)。これらを掛け合わせると、相対的貧困下にいる高校生以下のサッカー少年・少女の可能性として約7.2万人という数字が浮かび上がるのだ。

 しかし、この数字には落とし穴が――。「love.futbol Japan」代表の加藤遼也氏はこう指摘する。

「サッカーができない子たちは、ここ(JFAの登録)に含まれていない可能性が高い。その点を考慮すると、サッカーをしたくても始められない・できない子どもの数はより多くなると考えられます」

 先述した「子どもサッカー新学期応援事業」の申請者数にも大きな変化が見られる。サッカーの費用に使える奨励金(5万円)給付や用具の寄贈、オンライン交流会を行うこの事業で、今年度は40都道府県から408人の申請が寄せられた。活動初年度となった2021年は102人だったそうで、加藤氏曰く「(申請者数は)毎年100人ずつ増え、この3年で4倍に拡大した」とのこと。

 申請者増加に、物価高の影響や事業の認知度が上がったことはもちろん関係している。ただそれだけでなく、加藤氏は特に子どもたちを取り巻く競技環境の変化を感じ取っている。

「私たちが支援する保護者の多くがサッカーを『習い事』と言います。つまり、サッカーはお金を支払うものであり、支払う対価に応じてより良いサービスが受けられるものに変わってきている。こうした状況によって、サッカーを始めること、継続することが難しくなり、支援を必要とする要因になっているのではないかと推察しています」

 助けを必要とする子どもの数が右肩上がりの状況を受け、「私たちも本当に必要とされている支援を全員に提供することができていない状況」と加藤氏。課題の根本的解決に向けては、「ともに考え、議論する機会をサッカー界に増やしていきたい」と訴える。

ポープは課せられた使命を全うする【写真:徳原隆元】
ポープは課せられた使命を全うする【写真:徳原隆元】

プロサッカー選手だからこそ持つ発信力

 ポープ自身も、3年以上に及ぶ支援活動を通じて「現実を知ったという感覚がある」と率直な心境を吐露する。「僕たちが取り組もうとしている課題は、サッカー界どころか社会の問題」と状況改善が決して一筋縄ではいかないことも痛感。それでも、「自分にできることをできる範囲内で本当に地道にやっていくしかなくて、活動を継続することに意味があるのではないかと思う」と前を向く。

 より良い未来に向けて支援の輪を少しでも大きく広げていく。そのためには、“認知”が欠かせない。ポープは、「僕たちだからこそできると思う」とプロサッカー選手の発信力を信じている。こんなエピソードを教えてくれた。

「アル・アインとのAFCチャンピオンズリーグ決勝第2戦で敵地(UAE)に遠征した時でした。駆けつけてくれたサポーターの団体の代表者が、みんなで集めたお金が余ったからと『love.futbol Japan』に寄付してくれたんですよ(※)。僕からは特に何も言ってなかったのに。すごく心が温まりました。恐らく、僕が横浜F・マリノスに来ていなければ起きていなかったんじゃないかと思います。

 だからこそありがたかったですし、善意ある行動を喚起できる立場に僕たち選手はいるんだと実感しました。選手の存在を通して活動について知り、行動を起こしてくれたサポーターが実際にいたわけですから。そういう回数を増やしていくべく、支援やチャリティーについてもっと積極的にSNSなどで発信していかなければならない。そこは大事なポイントだと感じていますね」

 さらに、支援活動を続けてきた選手として、これからプロ選手のキャリアを積み上げる“後輩”たちへメッセージを送る。

「やっぱり思うのは、ただのサッカー選手で終わってほしくないってこと。社会に与える影響力が強い立場なので。一昔前みたいに、『ただサッカーをやっていました』ではいけないのではないかと。ペラペラではなくてちゃんと厚みのある、広い視野でさまざまなことにアプローチできる人間でいてほしい。サッカーだけやっていればいいではなくて、それ以外の活動が結果的にサッカーにつながると僕は思っています」

 日本サッカー界がこれからも進歩を遂げていくなかで、1人でも多くのサッカーファミリーがプレーできない環境に取り残されず、競技環境が持続可能なものとなるために――。この競技を愛する1人1人にできることがある。

※編注:「love.futbol Japan」への寄付金は、12月8日に行われるJ1リーグ最終節に支援家庭の子どもたちを招待するために活用される予定となっている。

[プロフィール]
ポープ・ウィリアム/1994年10月21日生まれ、東京都出身。東京ヴェルディJrユース-東京ヴェルディユース-東京ヴェルディ-FC岐阜-東京ヴェルディ-川崎フロンターレ-大分トリニータ-川崎フロンターレ-ファジアーノ岡山-川崎フロンターレ-大分トリニータ-FC町田ゼルビア-横浜F・マリノス。アンダー世代(U-19、20、21、22)では日本代表も経験。高い身体能力と長い手足を生かしたプレースタイルが特徴で、2023-24シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)ではPK戦の殊勲のセーブでクラブ史上初となる決勝進出に貢献した。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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