曺監督が重要視する「カオスの中の規律」 最下位→タイトル目前…京都、快進撃のワケ【インタビュー】
京都サンガF.C.は現在降格圏と6ポイント差をつけて残留圏内の17位
京都サンガF.C.は今季のJ1リーグ前半戦で不振にあえぎ、一時は最下位に沈んだ。しかし、後半戦に入って怒涛の巻き返しを見せ、残留ラインへと浮上。チームを率いる曺貴裁監督に復調の要因を聞いた。(取材・文=石川遼)
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今季は開幕から第10節までに挙げた白星がわずか2つと序盤から成績が低迷。5月には悪夢の5連敗を経験し、その間に最下位へと転落。第15節(5月19日)のサンフレッチェ広島戦ではホームで0-5と屈辱の敗北を喫した。
しかし、第16節(5月26日)の名古屋グランパス戦(1-1)で連敗を止めると、そこから直近の第33節ヴィッセル神戸戦(2-3)まで8勝5分4敗と立て直しに成功。8月の4試合では3勝を収めるなど厳しい夏場の戦いをいい形で乗り越え、残り6試合となった現在(10月19日時点)は18位のジュビロ磐田に6ポイント差をつけて残留圏内の17位に浮上している。
曺監督は「札幌さん(第32節)と神戸さん(第33節)に連敗中なので、結果的に今好調かどうかということは置いておいて」と前置きしたうえで、チーム状況は確実に上向いていると明かす。
「今年だけということではなく、選手たちに伝えていることはずっと変えていません。前半戦は勝ち切れないなかで、私が要求していることと選手のフィーリングとが少しチグハグになり、彼らがもともと持っているものがスポイル(損なわれる)されているように感じていました。その後、選手たちと話し合いながら修正したことで勝ち点はつながっていきましたが、前半戦に勝ち点がなかなか拾えない試合があったからこそ、逆に自分たちの強みは何なのか、どう戦っていくべきなのかということが整理できた時間もありました。これがベストな方法だとは言いませんが、結果的に自分たちが目指す理想型、完成形に近づくことができたのかなと思っています」
浮上のきっかけを掴んだのは、0-5の大敗を喫した広島戦直後に行われた敵地での名古屋戦。「いい意味で開き直れたところもありました。もう一度ピッチの中で何をすべきかを整理して臨まなきゃいけないということで選手たちとしっかりと意思統一をしながら練習をして、アウェーで勝ち点1を拾うことができた」。ようやく長いトンネルを抜けた先で、選手たちが自信を取り戻すのを感じたという。
とはいえ、指揮官は勝利が遠かった前半戦と、結果が出始めた後半戦でチームに劇的な変化があったとは感じていないという。勝敗の差は紙一重であり、積み上げてきたものは着実に実を結んでいる。
「よく言うのは『カオスの中の規律』。意図的にカオスを作り出した中での規律、約束事というものは自分たちの中では大事だと思っています。そこに今年だけじゃなく、ずっとアプローチして、紆余曲折しながら我々は前に進んでいる感じだと思っています。
チームとマッチした最強助っ人、FWラファエル・エリアスの存在
連敗している時も、あそこで得点が決まっていたら状況は違っていたよねという場面がいくつもありました。結果だけを見れば確かにそうですが、全くダメな状況から一新して良くなったというわけではない。どういう家を建てるかは決まっていたけど、木の素材の良さを生かせてなかったというような時期だったと思っています。選手が持っているものやアイディアをチームのやり方と組み合わせる時に、それまでは特徴がないバランスだったものが、特徴を消さないバランスで試合ができるようになってきました」
ここまで10試合10得点とゴールを量産中のFWラファエル・エリアスの加入もチームの勢いを大きく加速させた。曺監督は「左足のシュートやヘディングでの優れた得点感覚を持ってる選手ですが、それ以上にチームの戦術を理解する力もすごく優れている」とその能力の高さを評価した。そして一貫したアプローチでチームが成長しているところに、個の力がうまく組み合わさっていることが最も重要だと強調していた。
「実はエリアスが加入したのは札幌さんと湘南さんに連勝した後でした。チームとして右肩上がりになった状態の時にエリアスという選手が加わり、彼のいいところがチームの意図と重なり合ったと思っています。エリアスが来て何が変わったというよりは、彼がチームのやり方をしっかり理解して、アジャストしてくれたことによって彼に得点が生まれるようになったし、彼以外の選手も彼を信じてボールを預けることができるようになったというのが事実だと思っています。彼の特徴とチームの特徴がうまく合わさった。それは選手全員がそう感じてるんじゃないかなと思います」
J1リーグは残すところ6試合。首位の広島や3位の町田ゼルビアなど上位との対決も控えている。また天皇杯では準決勝へ駒を進め、タイトル獲得の可能性も残るなどすべての試合が大一番となる最終盤。55歳の名将は「最大限の準備をして一つ一つ戦っていくだけ。天皇杯という日本で最も伝統ある大会でファイナリストになれるチャンスも残っていて、それもこの前悔しい思いをして負けた神戸さんとできる。選手にとっては大きなモチベーションになる相手や状況がある。そのなかでどれだけ自分たちの成長を感じながら勝っていけるかっていうところを突き詰めていきたい。泣いても笑ってもあと2か月弱のシーズンですから、選手と一緒に後悔しないようにやっていきたいです」と意気込んでいた。
(石川 遼 / Ryo Ishikawa)