日本代表25歳の50億円移籍は妥当? 現地記者も驚き「決して一般的ではない」【インタビュー】
強豪バイエルンに移籍した伊藤洋輝、ドイツ人記者は高評価「お買い得と言えるはず」
日本代表DF伊藤洋輝の獲得に際して、ドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンは3000万ユーロ(約50億円)を投資した。果たしてこの移籍金は妥当なのか。ブンデスリーガに精通し、日本人選手の動向にも注目しているドイツ人記者キム・デンプフリング氏に話を伺った。(取材・構成=中野吉之伴/全3回の1回目)
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――伊藤洋輝移籍に関する第一印象はどうでしたか? ドイツメディアはこの移籍をどのように受け止めたのでしょうか?
「移籍決定のリリースを読んだ時は少し驚きました。バイエルンがセンターバック(CB)のポジションに日本人選手を獲得するというのは前例がなかったことですし、CBというポジションは、ほかのポジションに比べて難しいのでは……という印象がありましたから。それだけに喜ばしいニュースでしたね。伊藤はシュツットガルトで素晴らしいパフォーマンスを披露していましたし、ここ数シーズンのバイエルンではCBのポジションが安泰と言える状況ではありませんでした。第一印象として、出場チャンスは少なからずあるはずだと思いました。多くのドイツメディアも同様の印象を持っていると思います」
――25歳伊藤の移籍金3000万ユーロという移籍金についてはどうですか? 伊藤が持つどの能力にその価値を見出していると考えますか?
「伊藤はCBだけではなく、サイドバック(SB)としてもプレーができるフレキシブルさがあります。バイエルンにとって、これはとても価値のあることです。シーズン前に怪我をしてしまったことで、現在CBのポジションではキム・ミンジェ(韓国代表DF)とダヨ・ウパメカノ(フランス代表DF)がレギュラーとして起用されています。彼らのバックアップとなり得るうえ、左SBのポジションもそこまで選手層が厚いわけではないので、いろいろなケースで伊藤が必要となることが予想されます。伊藤の移籍に関して、多くの地元メディアが少なからず驚きをもって受け止めていましたが、総合的に判断すると『良い補強』と評価する声は多いですね。3000万ユーロのお金をブンデスリーガ内のDF獲得に投資するのは、決して一般的ではないです。伊藤という選手がバイエルンにとても多くのことをもたらし得る選手だという評価を、クラブ首脳陣が与えているということです」
――その一方、オランダ代表CBマタイス・デ・リフトがマンチェスター・ユナイテッドに移籍しました。ファンがバイエルン残留を望んでいたのは明らかでしたが、首脳陣は何が何でも残留させるという動きを見せませんでした。
「まず、デ・リフトと伊藤の直接的な比較は難しいです。伊藤は左CB、左SBとして考えられている選手で、デ・リフトはCB専任。バイエルンにとって重要な選手でしたが、どこか完全な信頼を首脳陣から勝ち取れないでいたという印象はドイツメディア全体が持っているものでした。ご指摘どおり、ファンはデ・リフトの残留を望んでいましたが、結果として移籍が現実味を帯びてきて、それによって伊藤補強の可能性が高まったという背景はあると思います」
――いずれにしても今回の伊藤のバイエルン移籍という事実は、国際サッカー全体においてポジティブな影響も考えられることではないでしょうか?
「間違いないですね。だからといって、アジアから2~3年ごとにメガクラブでプレーできるトップレベルの選手が次々に輩出されるということではないとは思います。それでも、ポテンシャルのある多くの選手がこれまで以上にスカウトの対象に入ってくるのではないかと思いますし、何人かは実際に獲得へ動くクラブだって出てくるでしょう。今回、伊藤獲得にバイエルンは3000万ユーロを捻出していますよね。キム・ミンジェには5000万ユーロ(約80億円)。相当高額なのは間違いないですが、それでも、ほかのワールドクラスの選手を獲得するのに必要な移籍金と比較したらまだ『お買い得』と言えるはずです。現在の市場価値における選手評だけではなく、その後の成長にも期待して、ポテンシャルが相当ある選手を最適なタイミングで獲得しようという動きもあるかもしれませんね」
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。