プレミア初挑戦で続く我慢の日々 「結果がついてくれば」…同胞DFも言及した“トンネルの先”【現地発コラム】

アーセナル戦に出場した菅原由勢【写真:Getty Images】
アーセナル戦に出場した菅原由勢【写真:Getty Images】

敵地でアーセナルに3失点敗戦

 今は我慢――言うは易く行うは難し、ではある。特に、報われそうで報われない結果が続く時期には。今季のサウサンプトンには、この一言しかない。

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 復帰1年目のプレミアリーグでは、敵地に乗り込んだ10月5日の第7節アーセナル戦(3-1)で6敗目を喫した。後半10分に奪ったリードは3分しか持たず。同13分からの30分間で、ブカヨ・サカに1ゴール2アシストを記録され、アーセナルからの金星は幻に終わった。同時に、今季リーグ戦初勝利もお預けとなった。

 時流に乗り、後方ビルドアップ路線を選ぶ非強豪はほかにもいる。しかし、開幕2か月弱のプレミアで、そのこだわりに伴うリスクが最も目立つチームは、サウサンプトンにほかならない。リーグ戦7試合で、ディフェンシブサードでのボールロストが55回。カイ・ハフェルツによるアーセナルの同点ゴールでも、2ボランチの一角で先発したフリン・ダウンズが、サカにボールをくすね取られて即アシストをこなされた。

「もう少しリードしている時間帯が長ければ」と、試合後の菅原由勢。

 右SBとして後半45分までプレーした日本代表DFは、「アーセナルの方が何枚も上手だったと思うし、選手の質も上手だと感じたので、そういう質の差は僕自身、まだまだ埋めていかなきゃいけない」とも言っていた。

 立ち上がりから頻繁に対峙した相手は、敵の左ウイングで先発したラヒーム・スターリング。チェルシーからレンタル移籍中の29歳は、逆サイドのサカに比べればインパクトに欠けたが、インサイドに切り込んでは菅原に手を焼かせた。プレミア初挑戦中の24歳は、2度、3度とクロスを許している。前半終了間際にシュートを打たれた場面では、背後で身を投げたCBヤン・ベドナレクのブロックに救われた。

 菅原は、失点に絡んでしまってもいる。逆転を許した後半23分、サカのクロスが届いたファーサイドでは、スターリングと交代したガブリエル・マルティネッリが完全にノーマーク。個人の責任ではないが、サウサンプトン守備陣としては、視野はもちろん、誰の意識の中にもマルティネッリが入っていなかった。

 同43分の3失点目は、手前にいたベドナレクと重なって見えていなかったのか、それとも単にタッチが強すぎたのか?ボックス内に出たルーズボールを持ち出そうとしたワンタッチが、走り込んできたサカのダイレクトシュートをお膳立てする格好となった。本人曰く、フォロースルーで相手の「足の裏が入った」左足を痛め、「代表戦への影響は問題ないと思います」とのことだったが、直後の交代も余儀なくされた。

プレミア屈指の“能動的包囲網”に果敢に挑んだサウサンプトン

 しかしながら、「ポジティブな部分もあった」との菅原の発言が、彼自身だけではなく、集団としても頷けたチームがサウサンプトンでもある。

 第7節を終えて1分6敗のチームには、最下位のウォルバーハンプトンもいる。1つ上の19位にいるサウサンプトンとの差は、マイナスの得失点差「1」でしかない。同日の同時進行だった一戦で、やはり2点差(5-3)でブレントフォードに敗れたウォルバーハンプトンは、まとまりのないチームパフォーマンスで、アウェーゲームに駆けつけたサポーターのブーイング浴びている。

 サウサンプトンはというと、キックオフ前にもスタンド付近まで足を進めて奮闘を誓い合うラッセル・マーティン監督と、エミレーツ・スタジアムに出向いたサポーターとの間に亀裂は見られない。その5日前に、前半3失点で敗れた前節ボーンマス戦(1-3)後にチームを叱咤した指揮官と選手たちの間にも。

 足並みが揃っている様子は、実際に試合が動く前から明らかだった。両軍無得点で終えた前半、サウサンプトンは、格上に7割近くボールを支配されながらも、枠内シュート数では「1対1」の均衡を保った。前月から基本システム風の4-2-3-1から、5-4-1に移行して守る時間帯が多い展開は、現監督も配下の選手も、本望ではないだろう。しかし、強豪戦で施された戦術調整には、試合前のウォームアップ終盤に、守備ユニットが個別セッションをこなす力の入れ具合だった。

 その1人だった菅原も言っている。

「失点しなきゃ負けることはないというところで、いろいろとコミュニケーションを取りながらやっていました。もう少し改善すべき点は、個人としてもあるのかなと思います」

 サウサンプトンは、前半に初めてポゼッションを維持したと言える15分過ぎの時点でも、後ろから組み立てた攻撃を両軍初の枠内シュートで終えていた。45分間を無失点でしのぐと、“サイドブレーキ”を下ろし、強豪に負けじと勝ちにいく姿勢を強めた。

 それが、あっと言う間にリードを失った一因だとの指摘もあるだろう。個人的には、ボールのリテンションにおける中盤中央の強度が心許ないことから、速攻の方が効果的なのではないかと思えたりもする。怪我による選手交代で前半途中から1トップを務めた、カメロン・アーチャーによる先制ゴールが、そのパターンだった。

 だが、菅原も「勇気を持ってボールをつなぐことはできている部分もあったし、ゴール前に関わりに行って、何度かチャンスを作れるシーンもあった」と言及している点は、一考の価値がある。対戦相手を考えれば尚更だ。

 ミケル・アルテタ体制6年目のアーセナルは、プレッシングに関してもプレミア優勝候補の呼び名に恥じない威力を持つに至っている。最前列からの第1波をくぐり抜けたとしても、第2波の突破は容易ではない。この日も、罠を仕掛けるようなポジショニングといい、その罠に誘い込むように、デクラン・ライスとジョルジーニョの両センターハーフが距離を詰める激しさといい、相手にとっては非常に厳しかった。

 それほどの“能動的包囲網”を前に、後半のサウサンプトンは3度、2-2の同点に持込めそうなチャンスを作り出していた。同33分には、左サイドから組み立てる間に、逆サイドから中央に流れたタイラー・ディブリングが20メートルミドルで相手ゴールを脅かした。結果としてのCKから、CBのテイラー・ハーウッド=ベリスが試みたヘディングは、敵に味方したバウンドとバーに阻まれた。

 菅原が、オーバーラップからボックス内で受けたボールを中央に折り返したのは、同36分。その数分前に投入されていた身長201センチのFWポール・オヌアチュが、長い足を伸ばせる位置にいれば……。ゴール至近距離で合わせるだけで良いチャンスだった。

我慢の日々も悲観の必要はなし

 一連の様子を眺めていた者のなかには、アーセナルで今季初のベンチ入りとなった冨安健洋もいた。プレミアでも先輩格の日本代表DFは、後半39分から今季初出場を果たすことになる。

 移籍4年目のアーセナルでは、怪我の不運に見舞われ続けている。プレシーズン中に膝を痛めた今季は、開幕に間に合わなかった。ようやく訪れた自身の“開幕戦”を終えた後には、こう心中を明かしてくれた。

「正直に言えば、より早く、かつより良い状態で戻ってこられた。いろいろありましたし、チームと話し合いながら。戻ってくることができたという意味では、ポジティブに捉えないといけないですけど、人生で一番ストレスが溜まる期間でしたね」

 まだ「100パーセントの状態ではない」と言うが、一足先に取材に応じてくれていた菅原とのやり取りで見せる穏やかな表情からは、戦列復帰が叶った安堵も感じられた。「本音」を口にすることで、少し気が楽になる部分もあったのかもしれない。

 見た目に仲の良さそうな2人は、試合終了直後のピッチ上でユニフォームを交換し、しばし立ち話をしていた。その延長戦のようなミックスゾーンで、開幕前から2か月半ほどのトンネルを抜けたアーセナルDFは言った。

「ユキ(菅原)にも言いましたけど、(サウサンプトンは)やっているサッカーに結果が伴っていない(だけ)というか、前半0-0でしたし、ユキも含めて後ろはつなぐのが上手い。それで何回か打開されるシーンもあったので、(あとは)結果がついてくれば」

 決して、開幕から負けが込んでいるチームの後輩を気遣っただけの発言ではないはず。サウサンプトンも、今は我慢の2か月目だ。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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