なぜ日本代表OBは無償でサッカー教室を開くのか 「大人に分からない」夢を持つきっかけ作り【インタビュー】

元日本代表の太田宏介氏が無償のサッカー教室を開校【写真:FOOTBALL ZONE】
元日本代表の太田宏介氏が無償のサッカー教室を開校【写真:FOOTBALL ZONE】

太田宏介氏が無償のサッカー教室、月謝無料のスクールを子供たちのために開催

 元日本代表DF太田宏介氏は、地元のJクラブであるFC町田ゼルビアで2023年シーズンをもって引退した。翌年には念願だった無償のサッカー教室をスタートさせ、今後は47都道府県に拡大していく。同時に月謝無料のスクールも開校。今回、「FOOTBALL ZONE」の取材に対し、そんなセカンドキャリアを目指したきっかけを話してくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也/全4回の1回目)

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 東京都町田市出身の太田氏は、高校卒業後の2006年に横浜FCへ加入。その後は清水エスパルス、FC東京、フィテッセ(オランダ)、名古屋グランパス、パース・グローリー(オーストラリア)と数々のクラブを渡り歩き、22年からは地元のJクラブFC町田ゼルビアへ完全移籍(当時J2)。J1昇格を決めた23年シーズンで現役を退き、現在は古巣・町田のアンバサダーを務めながら多岐に渡る活動を行っている。

 古巣クラブでの仕事を全うしつつ、2024年より新たに取り組んでいるのが、全国の子供たちへ向けた無償のサッカー教室だ。株式会社ダイヤコーポレーションでスポーツ事業部を立ち上げた太田氏は、すべての子供たちが本物に触れ、平等にスポーツを楽しめる活動「ジョガスポーツカレッジ」(以下“ジョガスポ”)の活動を開始した。

 全国47都道府県での開催を目指す無償のサッカー教室。太田氏は子供の頃、「経済的に厳しかった」自身の境遇から、今まで支えてもらったさまざまな人たちへの感謝を込めて「同じような境遇にある子供たちが将来の夢や目標になるようなきっかけ作りをしたい」といった強い思いで始めた。

 ジョガスポのイベントごとに参加人数は変動するが、多い時は約300人近い子供たちとサッカーを通して触れ合う。こうしたイベントの準備にかなりの時間を費やしているという。「実質メインで動いているのは3、4人」と少人数で始まった企画だと明かす太田氏。実は23年10月の引退会見の際に子供たちのための活動をしたい意思を表したところ、千葉県山武市のスポーツ振興課から連絡があったという。こうした人とのつながりが、大きなイベントを起こすエネルギーの発端となった。

 太田氏が中学の頃、家庭環境がガラリと変化。経済面で苦労する場面が多くあったなかで、「感謝の気持ち」や「人を大事にする」意識はずっと心の中心にあった。出会いを大切にしてきたからこそ、プロへの道や、引退後のキャリアで助け船を出してくれる“仲間”が徐々に増えていった。

 約半年ほどかけて準備し、実際に子供たちと接した太田氏は「本当に子供たちの笑顔と、終わったあとの『楽しかった』っていう一言と、後日お手紙いただいたりとか……。そういうのをイベントの都度、スクールをやりながらも、いろいろと感謝されることが増えてきて、そこはすごいやって良かったなと思います」と実感した喜びを語った。

「笑いも入れて、エンタメも入れて、参加している子供だけじゃなくて周りで見ているお父さんお母さんたちも一緒になって楽しめるようなものを作りたい思いでやってきました。ただ、まだ始めて間もないので、とにかく継続的にやることが僕にとってのスポーツ、サッカーを通しての恩返しだなと思って取り組んでいます」

 太田氏は全国のサッカー教室と同時に、月謝無料のスクールも開始。神奈川県の寒川町ですでにスタートしており、11月には川崎でも開校される予定だ。「イベントと並行して力を入れていて、地域の企業さんやお店、個人のほかにもサポートしていただき、すごいやりがいを感じています」と太田氏も充実感を感じている。

2023年シーズンまでプレーした太田氏【写真:(C) FCMZ】
2023年シーズンまでプレーした太田氏【写真:(C) FCMZ】

学生時代にスターから受けた影響「死ぬ気で頑張ってきました」

 イベントで子供たちと接するうえでも、過去の太田氏自身が受けた感動的な体験を大切にしている。太田氏の地元では年に1回、町田市出身のJリーガーが集まってエキシビションマッチをするイベントがあった。同市内の子供たちは無料で参加できる。

 学生当時、このイベントには太田氏も参加しており、「そうそうたるメンバーがいたなか、北澤豪さんに声をかけてもらいました。いただいたサインは家宝のように飾っていましたね」と当時を回顧。「かけてもらった言葉で『友達以上にたくさん練習しなさい』と言われて死ぬ気で頑張ってきました」と、当時のスター選手と触れ合った記憶が大きな財産になっていると明かす。

「何かそういった、大人には分からないほど子供ながらに感じる夢を持つきっかけ、刺激ってものすごい力があるんです。僕はとにかくそういった機会をたくさん作ってあげたいですね」

 全国47都道府県での“恩返し計画”はまだ始まったばかり。「本当に人の縁にすごく助けられています」と、感慨深く語った太田氏は、多くの出会いを与えてくれたサッカーを第一の媒体として恩返しをしていく。持ち前の明るさ、感謝の心を忘れない。そんな人を惹き付ける太田氏だからこそできる、新たなセカンドキャリアが子供たちに笑顔を与えている。

[プロフィール]
太田宏介(おおた・こうすけ)/1987年7月23日生まれ。東京都出身。FC町田―麻布大学附属渕野辺高―横浜FC―清水エスパルス―FC東京―フィテッセ(オランダ)―FC東京―名古屋―パース・グローリー(オーストラリア)―町田。Jリーグ通算348試合11得点、日本代表通算7試合0得点。左足から繰り出す高精度のキックで、攻撃的サイドバックとして活躍した。明るいキャラクターと豊富な経験を生かし、引退後は出身地のJクラブ町田のアンバサダーに就任。全国各地で無償のサッカー教室を開校するなど、現在は事業を通しサッカー界への“恩返し”を行っている。

(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)



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