町田PKボールの“水かけ”で「GKに嫌がらせない」 藤尾翔太の議論呼ぶ行為…同僚語った真相【コラム】

藤尾翔太のボール水かけに疑問視の声【写真:(C) FCMZ】
藤尾翔太のボール水かけに疑問視の声【写真:(C) FCMZ】

町田GK谷晃生が明かす、藤尾翔太がPKを失敗した舞台裏

 FC町田ゼルビアの藤尾翔太がPKの際、ボールに水をかけることが賛否両論の話題になっている。どちらかと言うと、「やるべきではない」という否定の声が大きいようだ。また、効果を疑問視する声もある。

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 その一方で、いくつかの疑問がある。「なぜ藤尾はボールに水をかけるようになったのか」「ボールに水をかけるとGKはボールを取りにくくなるのか」。そして、「水をかける行為をレフェリーはどう捌くべきなのか」という問題もあるだろう。

 町田のチームメイトであるGK谷晃生はこう教えてくれた。

「翔太は鳥栖戦の時に1回、PKを外しているんですよ」

 2024年3月30日、J1リーグ第5節で町田はホームにサガン鳥栖を迎えた。前半5分に藤本一輝が先制点を挙げ、同34分にマルセロ・ヒアンに同点とされたものの、後半9分、同12分とオ・セフンが2点を決めて町田が3-1と勝利を収めた。

 この日の2トップは藤尾とオ・セフン。オ・セフンが大活躍を見せるなか、後半40分に藤尾はPKを獲得する。ところが、そのPKを藤尾は失敗してしまった。ボールがゴール左に外れた瞬間、藤尾は頭を抱え込んだ。

 谷は藤尾が外した原因を「芝が乾いていて、蹴ってダフった」という。そして、藤尾は第8節から第11節まで先発を外れ、第12節、第13節と途中出場し、第14節でやっと先発に復帰した。そして第15節、ホームでの東京ヴェルディ戦の後半15分、今季2回目のPKを蹴るチャンスがやってくる。そこで藤尾はボールに水をかけた。

谷晃生が明かした水かけのきっかけとは?【写真:(C) FCMZ】
谷晃生が明かした水かけのきっかけとは?【写真:(C) FCMZ】

ボールは濡れていたほうが「角度が変えやすい」

 第5節は15時3分、第15節は14時3分と、ともに日中のキックオフだった。そのため芝は乾いていたに違いない。藤尾とすれば、同じ失敗をするわけにはいかなかった。「だからボールを濡らして、芝が乾いていてもボールが滑りやすくなるようにって」と谷は明かす。

「あいつのルーティンで、たぶんGKに対しての嫌がらせとか、あいつはそういうのを考えていない」と谷は続ける。

「僕たちは結果を求められる世界で、翔太もPKを外したらもう次使ってもらえないと考えたかもしれないですし、PKで決めて1点取って、それがどんどん積み重なって結果を残して代表に行くってこともあると思います。そこへのこだわりは、僕たちは捨てたくはない」

 第21節のガンバ大阪戦は18時3分キックオフで、ピッチは十分に濡れていたという。後半16分に藤尾はボールに水をかけてPKを決めたが、のちに「最初は濡らすつもりはなかった。だけど相手選手に止められて、『そんなに嫌なんだったら濡らそうかな』と思った」のだと語っている。

 また、第27節ジュビロ磐田戦では、サポーターに見せながら水をかけて歓声を浴びた。藤尾にとって水を掛ける動作はルーティンであるとともに、エンターテインメントの1つでもあるのだろう。

 では、藤尾自身も「GKに影響あるんですかね?」と疑問を語っていた、ボールに水をかけることは、取りにくくする効果はあるのか。

 谷は「直接、バンっと手に当たったら滑りやすいのかもしれないですが、指先をボールに当ててそらす時は、水に濡れていたほうが角度が変えやすいんですよ。ポストとかに当たった時も、水で濡れていたらコースが結構変わりやすいことがあるじゃないですか」と言う。

 そして、「GKのトレーニングをする時は、試合をイメージするためにいつもボールを濡らして滑りやすくするようにやっているので、特に騒がれてるほどの影響は、僕はあまりないのかと思います」と否定した。

この試合で主審はボール交換の判断をした【写真:(C) FCMZ】
この試合で主審はボール交換の判断をした【写真:(C) FCMZ】

「サッカーのルールってあいまい」「レフェリーの判断は尊重される」と広まれば…

 最後に、レフェリーはどう対応すべきかという点について私見を書いておく。

 第15節と第21節のレフェリーはボールを濡らすのを容認した。第27節のレフェリーはボールを交換した。私は交換するかどうか、どちらかに決めなくていいと思う。

 サッカーのルールは非常にあいまいだ。細かいところまで決まっていない。競技規則は第17条までしかないのだ。そのため、第18条「コモンセンス(常識)」が重要ともされる。

 しかし、その「コモンセンス」は人によって差がある。そして、レフェリーは「危ない」「おかしい」と思うことについて自身の感性で判断していいことになっている。だから、同じ事象に対していくつかの解釈が生まれることになるが、それこそが「サッカーらしい」ことでもある。

 ラインから出ていたかどうかという物理的に判断できるものはいい。だが、「影響を与えたかどうか」などという判断は主審の感性そのものに委ねられている。しばらく前はルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)が事細かく定義しようとしていた(特にハンドに関して)。しかし今は、より主審の判断を尊重しようとしている。その流れを考えても、「これはどっち」と細かいことまで定義するのには違和感を覚える。

 だから、レフェリーが見て「まぁ許容できるんじゃないか」「さすがにこれはやりすぎだろう」と判断して、その場で対応を決めればいいのではないだろうか。むしろ、状況を考えずに「必ずこう判定しなさい」というのは、「手に当たれば全部ハンド」というのと同じくらいおかしい気がする。

 レフェリーが水かけを容認したらそれを尊重するべきだと思うし、もしも藤尾がボトル2本分ぐらい水をかけてレフェリーから「それはやりすぎ」と警告をもらうようなことがあったとしても、その判断は支持できる。

 それよりもこの件で「サッカーのルールってあいまい」「レフェリーの判断は尊重される」ということが広まってくれれば、この議論の終わり方としては一番いいのではないかと思っている。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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