新生ドイツ代表の希望 2人の若き魔法使いに日本代表らも感嘆「すばしっこい」「オーラがあった」【現地発コラム】
ドイツ代表で存在感を放つFWジャマル・ムシアラとMFフロリアン・ビルツ
3月の代表シリーズでカタール・ワールドカップ(W杯)準優勝のフランス代表にアウェーで2-0の快勝、そしてFIFAランキング8位のオランダ代表にホームで2-1と粘り勝ちしたドイツ代表。出口がなかなか見えない長い冬の時期に苦しんでいただけに、ようやく訪れた感のある春の到来を、チームもファンも安堵の気持ちで受け止めたことだろう。
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スペインの強豪レアル・マドリードで主力として活躍しているMFトニ・クロースを990日ぶりに代表復帰させるなど理想論ではなく、現実的な目線で明確なチーム作りを決意したユリアン・ナーゲルスマン監督。そんな新生ドイツ代表の大きな希望となっているのが21歳FWジャマル・ムシアラ(バイエルン・ミュンヘン)と20歳MFフロリアン・ビルツ(レバークーゼン)の「ツァウバラー」(魔法使い)コンビだ。
ムシアラはバイエルンでレギュラーとして活躍し、今季はここまでリーグ21試合で10得点6アシスト。日本代表MF堂安律(フライブルク)がリーグ戦でムシアラに失点を喫した試合後、「いや、すばしっこい」と感嘆し、こんなふうに話していたことがある。
「もうペナルティーエリアに入ると足を出せない。そこの怖さがあったんで、激しくいけない。最終的に右足でくるっていうのはみんな分かっていたなかでやられてしまった」
今の時代ビデオ判定もある。ペナルティーエリア内で少しでも対応が遅れて足を引っかけることになったら、すぐにPKになる。守る側からしたら厄介なことこの上ない。
相棒のビルツは、ブンデスリーガ今季無敗で首位を走っているレバークーゼンで26試合7得点10アシストをマークし、サッカー専門誌「キッカー」による平均採点はリーグナンバー1。U-21ドイツ代表時代に一緒だったアペルカンプ真大(デュッセルドルフ)は「チーム内で一番若かったけど、オーラがもうすごくあった。すべてのプレーが、彼がやるとなんでも簡単に見えてしまうくらい、すごい自然にプレーをしていた」とビルツの才を評していた。U-21ドイツ代表監督アントニオ・ディサルボも「それぞれのポジションにおいて正しいプレー判断をする感覚が備わっている」と明かしてくれたことがある。
フランス戦で世界の度肝を抜いたビルツ、オランダ戦でゴールを演出したムシアラ
フランス戦では試合開始わずか8秒のゴールで世界の度肝を抜いたビルツ。キックオフからのサインプレーでクロースからのパスを受けると、対応できないフランス守備陣を尻目にスルスルとドリブルで持ち運び、右足で強烈かつ正確なシュートを突き刺した。
2点目はビルツのパスから好タイミングで抜け出したムシアラが飛び出してきた相手DFをあざ笑うかの如くかわすと、ゴール前にフリーで走りこんでいたカイ・ハフェルツへ丁寧なパスでゴールをお膳立てした。
フランクフルトでのオランダ戦はピッチコンディションが良好ではなかったことも影響し、「ほとんどのプレーで足が滑っていた」と試合後のミックスゾーンで話したムシアラ。「普段だったら、たくさんターンをしたりするんだけど、そのためにはもっと地面がどっしりしてないとできない」と明かしたように、この日は不安的な足もとに苦しみ、持ち味のドリブルを存分には発揮できなかった。
それでもドイツが前半11分に決めた同点ゴールの場面では、ショートコーナーでパスを受けたビルツからボールを預かったムシアラが、落ち着いたボールキープからマクシミリアン・ミッテルシュテットへ丁寧なパスを送り、貴重な同点ゴールをアシスト。さらに同18分にはゴール前に抜け出すイルカイ・ギュンドアンへ素晴らしいスルーパスも通して見せた。
ビルツはフランス戦ほどアクションが成功したわけではないが、鋭い出足でボールを奪い、そのままドリブルで状況を打開したり、後半には好パスでムシアラの決定機を演出したりと、存在感を示していた。
「ピッチ上だけではなくて、ピッチ外でも仲がいいんだ」とムシアラが良好な関係性を口にしているように、息の合ったプレーが次々に見られる。守備時はそれぞれチームとしてのタスクを遵守しながらハードワークを行い、攻撃時は互いの距離感を最適に保ちながら、縦横無尽に動き回っている。
ベテランMFクロースも認める2人の才能「一緒に少しトレーニングをしただけで…」
2023年までのムシアラとビルツは、どこかすべてを1人で背負いこんでいたかのように思える。どんな状況でもなんとかしようと躍起になって、無理な判断をしてはボールを失い、自分の良さが出せるタイミングを逸し、大事なところで力を発揮できずにいた。
ナーゲルスマン監督による代表チーム改革が選手に好感触と喜びをもたらしているのも大きい。
「トレーニングからとてもいい雰囲気で、とても楽しかった。このポジティブな瞬間を次に持っていかないとね。みんな健康を維持してね」
ムシアラもそう言って手ごたえを口にする。2人のサポートをチームとして大事なテーマに捉えていることが選手たちのコメントからも窺える。復帰組のクロースは記者会見でこう語っている。
「一緒に少しトレーニングをしただけでその素晴らしさはすぐに分かるよね。大事なのは彼らが持つクオリティーを代表チームで楽しむことができるようにすること。ボールを持って勝負ができて、スキルがある彼らの良さを最大限発揮できるポジションに送れるか。彼らがゲームの流れから消えたり、相手選手のマンマークに苦しんだりしないようにできるか。特にそれが僕の役割となるだろう」
ドイツサッカーファンは6月のEURO(UEFA欧州選手権)で2人の躍動するプレーの連続を楽しみにしているし、彼らの活躍する機会が増えれば増えるほど、上位進出の可能性は高まってくるはずだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。